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前世の記憶をましろで染めて  作者: ブロンズ
第一章:俺と彼女のこれまで
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第一話:生まれて出会ってこんにちわ

「刀夜ー! ごきげんでちゅかー?」

(赤ん坊に気を使ってもらう父親がいるらしいですよ? 父さん)


 恐らく車にはねられたことで死んだ俺が人生に一定の満足をしながら一生を終えたはずだった。


 なのに、目覚めるとベビーベッドの上にいました。


 見た感じの家具や設備から察するところ、別に異世界ではなさそうなので、俺が勇者になることはないだろう。

 赤ん坊としての生活は不便なことこの上ないが、一週間も過ぎるころには慣れた。

 今は父親である明槻 修也(あかつき しゅうや)の相手をして()()()()()ところだ。


「にしても、うちの刀夜は本当にいい子ね。夜泣きもほとんどないし」

「やっぱり教育がいいのかな?」

「あなた・・・まだ三か月なのだけど」


 どうやら、うちの父が親バカなのは決定事項らしい。


 まあ、母さんも大して違いは無いので、もし俺が記憶のない赤子だったら甘やかされて悪い方向に行ってしまっていたかもしれない。

 あ、因みに母親の名前は明槻 香奈枝(あかつき かなえ)だ。


「でも、男の子だから父さんがうちの流派を継がせるって聞かないのよね」

「ははは、僕も若いころは君に関節を決められるのは日常茶飯事だったからね」

「あう、あー(だれか、たすけて)」


 うちの両親は一般家庭のはずなのだが、思考や行動、これまでの足跡は一般家庭とは言えないようだ。

 ベビーベッドの上で聞いた二人の会話の中には、明らかにおかしいものが偶に混ざっている。

 今回聞いた流派がどうとかの話もその一つだ。

 

 俺は何処に向かわされるのだろうか。

 人生というレールは、親に敷いてもらうものではないはずだが。


「まあ、選ぶのは刀夜の自由だしね」

「そうね。私たちはこの子を立派に成長させないと」

「あー、あー」

「「刀夜ー!!」」


 ・・・・・にぎやかな両親だ。


 自分で好きな人生を選んでいいというのなら、前世とは違った生き方をしてみたい。

 勿論、前世ですることができなかった親孝行は決定事項として。


 ・・・そうだな、大人になるまでの間に一回でも可愛い彼女を作って物語のような恋愛をしてみたい。

 前の俺は彼女いない歴と年齢がイコールだったしな。

 今回の俺はきっと上手く・・・眠い。


 やはり、赤ん坊の脳は思考には向いていないのかな? 

 というか、よくある転生で、赤ん坊の意識がはっきりしているのはどういう原理なのだろうか。


 脳の・・・専門家に聞い・・・て・・・・




―――――――――――――――――――――――――




「刀夜! お誕生日おめでとー!」

「おめでとー!」

「・・・ありがとう。父さん、母さん」

「いやー、めでたいなー。あの豆粒大だった刀夜がもう五歳なんて・・・」

「父さん、豆粒大だったのはお腹の中にいた間なんだけど。どこから見てるんですか?」

「さすが、刀夜は博識ね!」


 誰かこのパリピ達をどうにかしてくれないだろうか。


 今日は俺の誕生日。

 この日が来るといつもおかしい両親がいつもの五割り増しくらいおかしくなるので疲れるのだが、それでも祝ってもらえるのはうれしいことなので礼を述べる。


「にしても父さんは残念だったわね」

「仕方ないよ。お父さんはギックリ腰が再発しちゃったんだから。無理してこっちに来させたら寝たきりになってしまうかも」

「爺ちゃんには、あんまり婆さんに心配をかけさせないように言っておくべきでは?」

「まあ、あの人は生粋の武人肌だからね。あんまり自分の弱みを見せたくないのさ。そういうところは母さんも似ているけどね」


母さんもよく冗談で父さんに正拳突きをみまっていることがあるが、吹き飛んでも次の瞬間にケロリとした表情で立ち上がる父さんは何者なのだろうか。・・・スタントマン?


「一人娘が生んだ孫が可愛いのは当然だから仕方ないわよ」

「刀夜も母さんみたいないい奥さんを見つけるんだよ?」

「・・・・・善処します」

「フフフッ、この子ったらどこでそんな言葉を覚えてくるのかしら」

「将来は政治家だね!」


 いや、その政治家はダメになる奴じゃないですか? 

 それに、簡単に生涯の伴侶を見つけられるものではないだろう。こういうのはしっかりと時間をかけて・・・・・その結果が前世の俺か。


「さあ、ケーキを食べましょうか。刀夜はどの部分が良い?」

「あ、じゃあその白い部分を」

「青の部分じゃなくていいのかい?」

「僕は遠慮しておくから父さんが食べて、ね?」

「じゃあ、修也さんはこの青い部分ね?」

「ワーイヤッター」


 何でケーキに青いクリームの箇所があるのだろうか。

 そもそも、七色のケーキを作ろうとする発想そのものがおかしい。これがこの両親のデフォルトだから余計に驚きなのだが。


 最近思い始めたのだが、あなた達何かの拍子で召喚とかやってませんか? 

 俺が転生したのってそういう要因があるのではないだろうかと勘繰らずにはいられないほど愉快な人たちなのだ。


「で、刀夜? さっきの話なのだけど、お爺さんのところの流派を継ぐっていうのなら今のうちに外遊びとかで体力を作っておいた方がいのだけど。あなたはどうしたい?」

「勿論、パパとママは刀夜の考えを第一にするぞ」

「そうだね。・・・こういう経験はそうそう出来るものではないだろうし、爺ちゃんも喜びそうだから受けてみようかな?」


 俺の祖父である明槻 源六(げんろく)は江戸時代から続く剣術流派の現宗家らしく、かつては自分の息子に後を継がせようとしていたらしいのだが、結局生まれたのは女児である母さんだったので諦めたという過去がある。


 まあ、入り婿であった父さんも素養が無かったらしいので、孫の世代にお鉢が回って来たという訳なのだが、こういう経験はそうある物ではないだろう。


「・・・というか、剣術流派なんだよね? 母さんは正拳突きとか関節技ばかり使っている気がするけど」

「ああ、やっぱり時代に合わせて変化しているらしくてね? 現代は剣なんて持つことはないから総合格闘技的な感じで落ち着いているらしいんだ」

「そういうことよ」


 それでいいのか伝統流派。


 まあ、汎用性を考慮するならそうなのだろうが、アニメや漫画のように悪人をバッタバッタと倒せるようなものは存在しないだろう。

 そんなことが分からないほどに夢を見ているわけでは無い。

 護身用として覚えておく分には問題ないかな。


 ―――流派を継ぐかはそのうち考えるとして。


「誕生日に父さんにいい報告ができるわね」

「本当に、刀夜は孝行息子だよ」

「そうだと僕としてもうれしいんだけどね。爺ちゃんにもお世話になってるし」


 祖父母は偶にこちらに来ては遊び相手になってくれる。

 婆さんはとてもやさしくて雰囲気の良い老婦人だし、爺さんも眼光は鋭いが筋の通った人だ。


 遊びと称して何らかの型稽古をやらされていることを俺は理解しているが。


「そういえば、最近お隣の空き家が物々しいね」

「ああ、引っ越してきた人がいるみたいね。業者さんが荷物を運びこんでいるのを見たわ」

「じゃあ、挨拶とかしなくちゃね」

「こういうのは向こうから来るんじゃないかしら。こちらから行くのはどうかと思うわよ?」


 うん、こういうのは引っ越してきた側が挨拶に来るものだ。

 それに、引っ越して来たら先住のお隣さんが乗り込んできた―――なんてのは結構怖いだろう。


 最悪、引っ越してきたけどそのままお引越しに発展しかねない。

 両親を止めるのは俺の仕事だ。


「そうだね。引っ越してきたばかりでゴタゴタしているだろうし、しばらく待ってみようか」

「ええ、今日はもう休みましょう? ・・・あ、刀夜? 誕生日プレゼントに弟か妹は如何かしら」

「・・・僕は歯を磨いてくるよ」


 どうやら討ち入りは回避できたようだが、別の問題が浮上したようだ。

 俺は食器を置いたその足で洗面所へ向かい、歯を磨き始める。


 本当に退屈しない人生になりそうだな。








「はーい、今行きまーす」


 翌日、父さんが出社したころに玄関のインターホンが鳴った。

 うちはマンションなので、お隣とかとの交流は避けては通れないものだ。


 多分、引っ越してきたお隣さんがあいさつ回りに来たのだろうし、俺も玄関へ向かうか。



「――――という訳で、お隣に引っ越してきました白峰です。よろしくお願いします」

「ご丁寧にありがとうございます。こんなものまで頂いてしまって・・・あ、明槻です。よろしくお願いしますね」


 玄関に向かった俺が見たのは、銀髪で蒼の瞳を持つ美人さんだった。

 明らかに日本人的な特徴じゃないよな。

 ロシア系の人なのか? 


 俺の乏しい知識でそんなことを考える。


「・・・あら、そちらのお子さんは?」

「ああ、うちの子ですよ。刀夜?」


 大丈夫ですよ母さん。挨拶もできないほど内気じゃあありません。

 前世はよくあいさつ回りもしましたし、営業スマイルもお手の物です。


「明槻刀夜です。よろしくお願いします!」

「あら、ご丁寧にありがとうございます。私は白峰ティネラよ。よろしくね刀夜くん」


 日本人の方と結婚したんですかね? 


 とても堪能な日本語を話すご婦人だ。

 訛りとかも感じられないしハーフとかなのかも―――と、白峰さんの後ろから彼女と同じ髪の色、瞳という特徴を持つ少女・・・・いや、幼女がひょこりと顔を出した。


「あら、可愛い娘ね! お子さんですか?」

「ええ。下の子はまだ小さいので家に残してきてしまったんですが、この子はもうすぐ五歳ですよ」

「うちの子とほとんど一緒なんですね。じゃあ、仲良くできそうかしら」

「フフッ、この子結構内気だから―――」


 主婦の話というのは長くなる決まりでもあるのだろうか。

 二人の会話を聞き流しながらつぶらな瞳でこちらを見てくる女の子と視線を合わせると、そのまま逸らされる。確かにこれは内気だね。


 こういう子はこちらから行くのがいいので、俺は勇気を出して彼女に歩み寄ることにした。


「僕は刀夜だよ。君の名前を教えてもらっていいかな?」

「えっと・・・あぅ・・・」


 銀髪の幼女に迫る元会社員の現無職。


 ・・・事案ではない。


 今の俺は彼女と同年代のはずだし、こういうのは先に勇気を出した方から挨拶する決まりなのだから、俺が彼女の名前を聞こうとするのは当然のことである。


「大丈夫、ゆっくりでいいから教えてほしいな」

「「・・・・・・・・」」


 重ねて言う、事案ではない。

 女の子はやがて母親の後ろから出てきてこちらに視線を合わせる。


 どうやら互いの親も、俺たちに注目しているようだ。

 そして、勇気を出したのか彼女は息を吸い込み――――


「はじめまして・・・ましろ、です」

「可愛い名前だね」


 

 必死に挨拶をする幼女。


 それが俺と彼女の出会いだった。

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