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前世の記憶をましろで染めて  作者: ブロンズ
第一章:俺と彼女のこれまで
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序話:夢から覚めてまた夢の中

『―――だよ? 遅れちゃうよ?』



 いや、大丈夫だ。

 商談は昨日終わっているし。


 それに、モーニングコールのお願いはしていないはずだから。


 あと五分だけ・・・・。



『いつもは時間通りなのに』



 そういうこと、たまにあるよね。

 いつも時間通りに動く人が遅刻しちゃうとか。


 今日はちょっとこの辺をぶらついて帰るので、後十分だけ・・・・。



『―――くん、起きて』




「はいはい、起きますよ。・・・まあ、そうだよな」


 男が起きたのはビジネスホテルのベッドの上。

 出張でこの地域に来ていたのだから当然である。


 そうでなくとも、男には恋人も妻もいないので、女の子に起こされるという素晴らしい体験など自身の母ぐらいなものであったが。


「・・・可愛い女の子の声だったんだがな」


 最近は根を詰め過ぎたか? 


 人間は、眠りから覚めてからしばらくの間が一番意識がはっきりしている時間だと聞いたことがあるのだが、全然そんなことはなく、どこかぼやけた自分を奮い立たせて体を起こす。





「はい。今日中にはそちらに戻れると思いますので。・・・はい、失礼します」


 パリッとしたスーツに身を包んで気持ちを切り替え、面倒な上司への連絡を済ませてからホテルを出る。


 小学校、中学校では碌な毎日が無かったものの、高校と大学はそれなりのところを出ることができたので職に困ることは無かった。

 惜しむらくは早くに両親が亡くなってしまったので親孝行をしてやれなかったことくらいだろうか。



「にしても、この辺りは平和で良いな」


 出張先の土地は自然と都市が融合した場所で、寝起き男の視界にも優しい景色が広がる。

 花壇に水やりをしているご婦人や、忙しそうに通りを歩いているビジネスマン、登校する仲の良さそうな小学生の集団。


 ――真っ白でふんわりとした毛を持つ上品な猫。

 

 あれはかなりブルジョワだな。


「あ、どうも」


 男の真横を通過した白猫に軽く会釈をし、自身も大通りに向かって歩こうとした刹那


「あ、猫ちゃんだー!」

「!?」


 まだ赤信号の横断歩道――あの白猫に興味を持ったのか、小学生の女の子が飛び出してしまう。


 当たり前に通行してきた車はすぐそこまで来ており・・・・


「―――――!」


 声など出す暇はない。

 こんなことならスタートダッシュとか、クラウチングスタートの練習をしておけばよかっただろうか。


 体を180度回転させ、ロリと猫を突き飛ばす。


 ゴメンね、おじさんこういうの慣れてないから突き飛ばされた拍子に膝とかすりむいてケガしちゃうかも。

 どこかずれたことを考えながら、やってくるはずの衝撃に耐える。

 

 後悔はしていない。

 これまでの人生でやりたいことは殆どやったし、遺産なんて高尚なものも、近しい親族も無い。


 最後に一つ良いことをできたと思えば―――あ、運転手さん、多分車凹んでるかもしれないですが、申し訳ないです。


 俺は慰謝料払えません。


 多分死ぬし?


 最後までズレたことを考えたのは、恐らく死の恐怖を少しでも紛らすための防衛本能によるものだったのかもしれない。


 そのまま男の意識は闇の中に・・・・・







「きゃ! ・・・・大丈夫? 刀夜くん」


 女の子の声で再び目覚めてベッドの上。


 異世界転生ですか? 


 それとも転移ですか? 


 ・・・・いや、見慣れたベッドの上だ。


「もしかして、ビクッとしてた?」

「うん。高い所から落ちた夢でもみたの?」


 まさかあの時の夢を見ることになるとは。

 高い所から落ちたというよりは、高い所にはね上げられたような感じかな。


 にしても、夢から覚めたらまた夢の中とは・・・我ながら面白いことを。


「今日は珍しいね。いつもは時間ぴったりに起きるのに」

「なんか、懐かしい夢を見ちゃってね」

「どんな夢?」

「スーツを着てビジネスホテルを出たら、車に吹き飛ばされた夢」

「それっていつのころの夢なの? 楽しそうだね」


 ・・・・せやろか? 

 さては適当に返したな? 


「おはよう、ましろ」

「うん、おはよう」


 大切な幼馴染に朝の挨拶を済ませてベットから這い出る。

 今からゆっくり準備をしても遅刻はしないだろうが、友人たちは大体が早くに登校しているので、遅れたら嫌みの一つも来るかもしれない。

 

「準備はいつも通りだからちょっとだけ待っててくれ」

「うん。座ってるね」


一階に降りて準備をしている俺がチラリと横目で見ると、彼女はソファの感触を楽しみながら鼻歌を口ずさんでいる。

 制服を身にまとっているその姿は、物語のヒロインそのものだ。


「その制服、本当に似合っているね」

「えへへ、ありがとう。えっと・・・この高校の制服結構かわいいよねー」


 ――本当に可愛いのはその制服を着ている君の反応なのだが。


 適当に準備を済ませ、昨日から準備していた朝食用のパンを忘れずにカバンに詰め込んでから、俺は幼馴染である白峰 真白(しらみね ましろ)と共に自宅を後にした。

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