#48 義父と嫁の義息子であり旦那の奪い合い
学園につくと、高学部の授業がまだ行われていた
グスタークは変わったところはないな、と生徒たちを見ていると、その生徒達を見ている教員はルシュテーカな事に気付く
『!リヴっ』
『一人で行けやめろ』
『んえーっみーさんにも断られたのにっ』
リヴァストの腕を引っ張りながらグスタークはルシュテーカの元へ連れて行こうとする
腕力が上がっているからか簡単に引きずられることにリヴァストは少し成長したなぁ、と父親目線で思いつつ、いや!それでも行きたくねえ!と踏んばっている
『アイツは仕事っお前野次馬ッ』
『野次は飛ばしてないもん!』
リヴァストの目が冷えた
『喧しいわ』
それなりの威力のデコピンがバチッ!と派手な音を立ててグスタークの額にぶつかった
まあ、もう人でもないのでその程度の威力はあまり効果がないが
グスタークは諦めず凄い力でリヴァストを引きずって歩く
『えー』
『そこのリヴァスト煩いぞ』
『俺かよ!』
どう考えてもグスタだろ!と叫ぶ
だが、その声十分煩いのである
グスタークはルシュテーカへ駆け寄ってルシュテーカを見上げる
2m超えインテリメガネなルシュテーカは面白いのかまじまじと見つめるグスターク
『グスタークは言ったところで聞かんし、そもそも聞く人間ならそんなになってないぞ』
『くそがッ!正論言いやがってっ』
お前とトゥイユは本当正論しか言わねえ!と叫ぶ
叫びたくなる気持ちも、怒りたくなる気持ちもわからないではないのだ
でも、怒れば伝わるか?叫べばどうにかなるとでも?と言われなくても理解している
グスタークには、どれだけ正論を並べたりしても、屁理屈やらで、正解じゃないのに論破されてしまうのでもはや諦めているのだ
多分、アレクだけがグスタークを正論でねじ伏せられる存在だろう
アレク以外の言うことは、時と場合によっては全く聞かないので、アレクに任せるしかない
ただし、アレクはグスターク全肯定、グスターク至上主義派なので役立たずになることがあると言うのは大誤算である
『ルシューおはよー』
『ああ、おはよう』
よしよしと頭を撫でる
もうツンデレを発揮することはない
そんな事ばかりしていて、また失うかもしれない、本心を言えないまま手から離れて遠くへ行かれるくらいなら素直になろう、それがルシュテーカが学んだこと
アレクにも褒められたが、お前に褒められても嬉しくないぞ、と本心から真顔で言ったルシュテーカは半月アレクに動けない身体にされた
精神体すら再起不能寸前にするアレクは恐ろしい
『……眠い?』
『まあな、連日余計な仕事ばかりだからな』
『そっかぁ、余計な仕事減らす?手伝うことある?』
余計な仕事、つまりルシュテーカの邪魔をしている存在の壊滅
ルシュテーカはそれをすぐ理解し、グスタークを小突く
リヴァストのように手加減なしではなく、ほぼ撫でるような小突き方だった
『お前は…………』
『当分寝なくても済むくらいに寝たから平気』
『そうか』
『ん!』
ルシュテーカはグスタークを抱き上げて頭を撫でる
流石にここまで変わるとリヴァストも引いている
それでも、グスタークからしたら普段してもらえない人間にされているのもあってとてもご機嫌だ
まだまだ中身が子供なので、扱いはわかる
でもルシュテーカ、グスターク以外に触れようとは微塵も思ってないし、触れたいとも思わない
例外としてサーシャには触れるし撫でる
それは、グスタークの家族だから
つまり、エディやカイウスの話も聞いてくれるしアドバイスもしてくれる
仕事じゃなきゃ教師なんてやりたくない精神のルシュテーカが珍しい、とリヴァストは笑っている
『お前は無理をし過ぎだ、頼めることはまた頼むが休め』
『はぁーい』
『次やったら殺すぞ』
『大丈夫、そんなに今の身体軟じゃないんだな』
ルシュテーカはグスタークをリヴァストから奪ってからリヴァストの方へ向く
『リヴァスト、こいつ本当に何もわかってねえが?』
『知らねぇ』
『おい教育係』
『教育係もどうにもならんもんだぞ』
『おい………』
理解はできる、だが、それはそれで今後悩みの種が増えるのでやめてほしいものだ
これだけ長くいても、グスタークの行動には驚かされ続けている
リヴァストへの被害は多々あるが、それ以外の面々にもそれぞれ一度から二度は被害にあったりしている
それはアレクも例外ではないし、ナタリシアもカリュファーも例外じゃなかった
でも、最も被害が大きかったのは以外にもジレムで、でもそれがあったからグスタークに固執するようになった
あしらわれていたけど
そんな風に過去の思い出にルシュテーカもリヴァストも浸っていると……
「ルシュテーカせんせー!」
「せんせー!」
遠くから子供たちが手を振ってこちらに走ってきていた
あれはよくねえな、とルシュテーカはため息をつく
おそらく、子供達は普通に飛びついてくる気だ
『あーはいはい、お前らも、あんまりちょっかいかけるなよ』
『はーい』
グスタークはリヴァストと共に歩き出す
『俺も入れるな、興味がねえから話しかけねえよ』
『それはそれでどうなの?』
『俺はお前さえ怪我しなきゃ他人なんてどうでもいいんだよ』
だるいわ、とグスタークの肩に頭を乗せるリヴァスト
優しいように見えて一番ドライである
『俺、リヴのそういうところはどうかと思うんだぁ~』
『原因がなんか言ってらぁ』
ゆさゆさとグスタークを揺らすリヴァスト
もう完全に親が子供を見ているようにしか見えない
それに、グスタークも大樹と同化するようになってから幼児退行気味なのも相まって凄く子供らしい
厄介なタイプだが
『うるさいぞリヴァスト~』
『だぁかぁらぁ!』
『リヴ眠くなった』
『えぇ……』
急な眠気の訴えにリヴァストの気が削がれる
いつも突然言うから驚くが、グスタークなので仕方ない
それから、二人は木陰に場所を移して地面を腐らせないように試行錯誤しながらようやく昼寝し始めた
まだ力の定着の途中なのかグスタークは急に倒れるように眠りについたりするので、自己申告だけはしてくれ、というリヴァストの言葉通り一応自己申告をするようになった
…そして、小一時間が経った時の事……
「?ハディレイ様、グスターク様はどちらに?」
『あー……あそこ』
「………お昼寝、ですか」
『リヴァストが誘ったみたいだけどな、場所に関しては』
木の近くが本能的にも好ましいグスタークの為にリヴァストは大きな木のある場所でグスタークを寝かせることにしたらしい
正直、どこででも寝ようとするので苦労したのだが……
地面を腐らせないように試行錯誤してたぞ、とその時間を見ていたハディレイは笑っている
結果、魔力の膜の上で二人は寝ている
それでも草がすごいけど
「あのお二人、本当に仲がよろしいですよね……」
『リヴァストにしてみれば息子扱いだし、グスタークにしてみれば親扱いだから仕方ねえよ』
実の親がいても、それでも近くで一番触れ合ってきたのはリヴァストだから、だからこそのこの関係で…
なにより、グスタークは1歳に近づくに連れて両親、兄姉、親戚に人見知りして話したがらなかった
その分リヴァストには特別甘えていた
他人が近付くなんて言語道断で、赤子の癖に手加減無く、一切の容赦なく叩き潰す勢いで攻撃するので手に負えない
「甘やかされ気質はお有りですよねグスターク様」
『あーあるなぁ、アレクがまだ人だった時はアレクが一番甘やかしてリヴァストと喧嘩してたな』
「夫婦喧嘩、ねぇ」
どんどん気圧も温度も下がり続け、ヘルミーナの周囲はブリザードでも吹き荒れてるのかと思うほどに寒いが、ハディレイは分かっていても、ヘルミーナをいじりたくなっていて止めようとしない
愉快犯である
その分だけグスタが甘やかさないといけなくなるのだが、それでも弄るのは楽しいらしい
そういうところだぞとはよくリヴァストに言われているが、直る直らないなんて考えたって仕方がない
『でも一番夫婦してるのはグスタークとリヴァストだけどな、あいつらの喧嘩内容今度聞いててみろ、ナタリシアとカリュファーの件が多いけどおもしれぇから』
「面白いと言われる喧嘩、でもその夫婦は許しませんので!」
『はいはい……あー、でも殴り合いはしねえんだよ?最後に謝り合ってその日はナタリシア抱えて寝るグスタークとカリュファー間に挟むリヴァストって完全に夫婦のそれだから』
「怒りたい」
『……………ずっとだけど、嫉妬は見苦しいぞ、嫁認定はちゃんとされてるだろミーナ』
「されてはいるのかもしれませんが浮気でしょうあんなのっ」
『ミーナ………』
ヘルミーナの余裕のなさは、アレク然り、ジレム然りで焦らされる
そして何より自分は人間で、でも、アレクやジレムは人ではない
それはグスタークも同じであり、だからこそ、自身とは比べ物にならないときをこれから共に過ごしていく……それなら、今、自分が存在できる時は自分だけにして欲しかった
グスタークにそんな意志がなくてもだ
というか、そんな意志、リヴァストもハディレイも……グスタークにあるとは思えないが、と考えている
中身が子供で、大人な部分は知識だけ
それに、大人顔負けなのは世界の成り立ちや魔法の知識達だけ
それ以外の、一般の大人が知り得る、一般常識というものは結構欠けている
そこが、彼を人間なのに人間と思えなかった時期がある事実
それに、彼にはそんな知識は不必要だと思うのだ
『んー……?』
『起きたか?大丈夫か』
『なんかねぇ、人間の感覚抜けない……あとごめん、地面花だらけにした』
目を擦りながら辺りを見て腐っていないことに安堵するグスターク
魔力をだだ漏れにしているわけではない、それでも、自然と漏れでる魔力は強大で、大地にも影響がある
心も、大樹としてもまだまだ未熟だからこそ影響が出てくる
『いいんじゃねえの、花が全部質の悪いのばっかりなのは目を瞑ったほうがいいか?』
花言葉だけではなく毒花やらがやけに多い
『魔力量で生えるものが変わるんだよぉっ!』
でも、薬にすれば毒花は妙薬となる
ただし、やたらと苦いし、口に入れたら飲み込みたくないとさえ思える位に味覚に影響を及ぼすものばかりである(食べたご飯の味が無くなったり、変な味に感じるなど)
でもグスタークだけは、それを中和する術を知っているから躊躇いなく飲むし、人にも勧める
勧められたくない薬トップ3に入る、とは、その毒花から作られた薬を勧められ飲まされたことがあるカイウス、エディ、アレクの言葉である
断っても無垢な目でなんで?どうして?と子供のように聞かれれば何とも言えない罪悪感を覚え、そして、悲しそうな顔を見たくないので仕方無しに飲む
そして翌朝の朝食まで影響が残る地獄を耐え抜くのだ
薬を飲むと満足するのか離れていかれるが、一種の爆弾投下なので、本人に被害がないのが救いだ
『それ、練習しろよお前…』
『ぐぬぬっ………あ!ミーさん!おはよー!』
グスタークは立ち上がってヘルミーナの元へ空を飛びながら近付く、見た目、羽のない天使だが、やること成すこと悪魔みたいなのでなんとも言えない
『ほら見ろ、ちゃんと目に入ったら寄ってくるだろ、ヨカッタナ』
「だっ……!からっ……」
グスタークは幸せそうにヘルミーナに手を振る
空を飛んでやって来たグスタークをヘルミーナは苦笑しながら受け止め、そして硬直した
何故なら、全く重みを感じない
「貴方ッ!剣よりも軽いのですが!」
『え?え!?うんっ?!』
『そりゃあ、人をやめたらそうじゃねえの、俺達だってある程度は軽いぞ』
「いや、重いですよ」
バッサリいわれてハディレイはダイエット?え?ダイエットしないとなの?と絶望している
リヴァストは、グスタークよりも軽い奴が成人男性にいるか?とハディレイに言うとハディレイも、そ!そうだよな!と少し元気になった
ただ、精霊も聖獣も、肉体を作ると重くなるのは事実であるので、ハディレイはダイエット云々よりも、軽い身体を作る努力をしたほうがいい
そんな中、ヘルミーナはグスタークを抱いたまま廊下を駆け、王室へ飛び込む
「王様!」
「!?へっヘルミーナ嬢いかがした?」
「グスターク様が羽根のように軽いのです物理的に!」
物理的に……とカイウスは繰り返す
元々、人であった時と体重の増減はないので、つまり、人であった時も体重は軽かった
エディがその証明で、羽のように軽いというヘルミーナの発言に共感して頷いている
仲良くなってから飛びつかれることが多かったのでヘルミーナの言葉はよく分かるらしい
多分、食べても太らない体質なのだ、とはリヴァストは思う
だって、あれだけ山のようにある食べ物を食べてもどこに消えたんだというほどにカラにする
『おろしてー?』
「絶対嫌です」
『なんてこった』
「そう仰るなら痩せないでくださいまし!」
大樹の王なので痩せることはないが、太ることもない
でも食べる欲求が無くなったわけではないから沢山食べるが、食べても増えない
『これはもう大樹だから仕方ないんだよ?草花が一輪で五十キロとか可笑しいでしょ?ね?』
「今からでも太れるはずです!私兵宿舎の食堂へ連れてまいります!」
だから太れないのに、とはリヴァストの心の中の声である
そもそも消費されるのは、肉が魔力に変わるので身にはならないのだ
『あそこのご飯美味しくない嫌だ帰る!』
兵宿舎の食堂の食事は、料理上手のグスタークやリヴァストからすれば劇物で、兵宿舎に居るものは大半、味覚音痴だったりする
一度食べたカイウス、エディ、グスターク、リヴァストからすると、食いたくないです、と口々に言うくらいには不味い
ただ、何故美味しいはずの食材が不味くなるかというと、料理長が自由人で、何でも入れちゃえ!な人なのでえげつない事になる
たまに成功するが………つまりは、一年に一度しか成功しないのだ、端的に言えば
「確かにグスターク様の場合、グスターク様が作れば美味しいのでしょうけれど!」
私も兵宿舎の食事は美味しいとは思いませんが太りやすいのはあそこです!と力を込めて言われても嬉しくない
通りであの宿舎太ってるの多いはずだよ……とエディとカイウス、リヴァストは思った
『リヴ!外ごはん!』
『あー?』
「何故何時も何時も!」
すぐにリヴァストに頼って!とヘルミーナは王室なのも忘れて普通にリヴァストへ攻撃する
最近、こんな感じの二人しか見ていない気がするな、とエディは他人事のように書類に目を移す
『ひぃ!?なんでいきなり攻撃してきたミーナ!』
情けない声を出すリヴァスト
だって、急だから……
「すぐに私から奪わないでくださいまし!」
『知らん知らん知らん知らん知らん!俺を巻き込むんじゃぁねぇ!』
『よいしょ』
『巻き込むんじゃぁねぇぇぇ!』
「リヴァスト様!」
『本人に言えよ頼むから!』
俺を巻き込むなよ!と言うが、原因はリヴァストがグスタークに甘くて、それで甘えん坊になっているグスタークをさらに甘やかすなんていう事をしているから
そりゃあ、怒られても倍以上甘やかされるのがわかっているのだから懐くに決まっている
その辺はあざといのだ
「失礼致します陛下!」
「何事だ騎士団長」
騎士団長はルーシスに変わり、嗚呼、執事は必要ないもんな、とリヴァストは苦笑する
グスタークは兄上だー、とにこにこ笑って手を振る
そんな状況じゃないぞ、と言われてもきょとんとするグスターク
「各国合同の討伐案件です陛下、契約も出来ない魔獣達がアルギス山脈で発生しています、例年より早いと存じます」
「大樹の力の影響か………兵を集めよ!会議に出席する旨も伝えてくれ!」
「畏まりました」
ルーシスは走って準備のために王室を後にする
アルギス山脈は元々神殿があったが、その神殿も捨て置かれて何百年経って久しい
魔力のたまり場で、魔物が元々湧きやすい場所
三代前の魔王が根城としていた場所だ
最近の魔王はよくわからない崖の上に魔王城を作ったな、神殿じゃない魔王城は初めて見た、とグスタークは思う
魔王神殿巡りをした事があるが、唯一の、【城!】って感じの城はその魔王城だけだった
『遊んでるヒマ無しだね?』
『おいゴルァ!!遊んでる気あったんか!』
『ふんだ』
「グスターク様、リヴァスト様も、どうかお力をお貸しくださいませ」
カイウスは二人に頭を下げる
『お、お?』
必要ないのにね、とグスタークは下がったカイウスの頭を撫でる
カイウスは苦笑する
グスタークは、大樹の王となっても、苦手な人付き合いだとしても変わりなく優しい
『グスタ、大樹の王としては初仕事だ』
リヴァストはハディレイに指示を出す
やはり、指揮者はリヴァストなんだな、とグスタークは思った……




