#26 会議は善、悪は虫と決めつけてはならぬ
仕事落ち着かなくて時間が空いてすみませんでした
また開くことになるかもしれませんが、何卒よろしくお願いします
コメントやらも宜しくお願いします
その集まりはジレムの住んでいた宮殿で行われる事となり、グスタークは慣れたように足を踏み入れ、一人が目に入った瞬間、走ってその一人に抱きついた
「アレク!アレク!おはようアレク!」
『おはようグスタ』
アレクはグスタークを抱きとめる
グスタークは完全に子供になってアレクに話しかける
グスタークを見て誰もが「普段そんな顔しないじゃないか」と思うが、アレク、そう聞いて納得した
ヘルミーナはあまり面白くないのかむっつりしているが、今は本当に仕方がないのを理解しているのですぐに表情は落ち着く
それに対してルーシスは「ああ、なんだかんだで意識はするようになったのか…」と面白そうにヘルミーナを見る
グスタークは意識しなさ過ぎだが
「おはよう!あのねっ」
『はいはい先に座ろう?』
「うん!」
グスタークはアレクに促されながら母親に子供がその日あった話をしたがっているようにしか見えない
でも、幼少期からそうやって関係を続けていたならそう簡単には変えられないのかもしれない
それに、グスタークは実際問題、アレクが死んでから精神的成長はあまりしていないというのがリヴァストが今までのグスタークを見てきて思ったことだ
それ以上成長できなかったのだと思えば仕方がない
そこで止まっているものというのは、たとえ今目の前に居ても根本的な解決にはならない
精神的ショックが大きすぎるのである
でも、詳しい事情までは知らないルーシス達にしてみれば、グスタークの行動は異常行動でしかない…
「あれ、誰ですか」
『グスタ、アレクの前だと子供だから』
ハディレイがそう言うと、全員が再度グスタークの方へ目をやる
完全に戯れ付いているグスタークと、そんなグスタークの話を頷きながら聞くアレク
『リヴァスト、おはよう』
アレクはリヴァストに話しかける
リヴァストはグスタークを抱き上げて横の席へ降ろす
いつまでお前は戯れてんだ、と小突くリヴァスト
グスタークは頬を膨らませるが、それ以上アレクへ飛びついたりはしなくなった
いう事はこういう時はしっかり聞くのか…と感心する
『おー、早くね』
『今………此処に住んでるし』
アレクはグスタークの頭を撫でる
『レジムが居たら歓喜する状況なのにな』
『あー、安心して、まだ魔法解けてなかったわよ、多分あんなの壊せるのこの子くらいのものだわ、それにしても………………この子、婚約したのねぇ』
今回の糸はしっかりしてて良かった、とアレクは見えない何かを手で弄りながら嬉しそうに微笑んだ
グスタークが大切にしている理由がよくわかるアレクの一つ一つの動作や話し方
グスタークで無くても好いてしまいそうだ
『半ば強制的にな』
アレクは糸が続く先を見て満面の笑みになる
そして、ヘルミーナを見つけると花が咲いた愛らしい表情でヘルミーナの傍へ寄って行く
ヘルミーナは挙動不審になりつつもアレクに歩み寄る
『そっかそっかぁ!貴女よね、グスタって相当面倒な性格してるけど頑張ってね!寝なさいって言っても寝ないし、まあ起きなさいには反応するから眠りは浅いんだと思うけど』
お母さんかな?とルーシスは首を傾げた
仕方がない、自分で自己管理ができるならそもそもリヴァストが付きっ切りになる…何てことは無いんだから
普段はきちんとできる人間が、途端にポンコツになる様を何と言えば良いのだか…
グスタークは人前であまりポンコツをさらす事は無いのだが、リヴァストの前だと結構な頻度でポンコツ化する
気が緩むのだろう
「わ、わかりました」
ヘルミーナは頷く
その斜め後ろでグスタークは呑気に、どこに居れていたのか知らないが結構な数のカップを取り出し始める
『あ、私の人だった時の名前はアレクトア・ラース・エィルマーナ、面倒臭さそうな名前だけどごめんねぇ」
「エィルマーナ家の!?」
エィルマーナ家とは、闇魔法に特化し、死体を操ることが出来る術を考案した一族である
ただ、そんな術を使うからか悪霊に呪われている
アレクが早くに命を落としたのもそれが理由
ジレムもまた生死を司る存在であった為に気に居られて死んでしまった
だからアレクは、他の魔法たちを教えはしたが、その術だけは教えなかった
だけど、グスタークは教えて貰わなくてもアレクの死後に遺品整理で貰った魔法書、魔導書でもう会得してしまっている
それは、グスタークが半分が聖獣や精霊に近しい存在だからかはわからない
でも、リヴァストもアレクも、グスタには出来れば術を使って欲しくも覚えて欲しくもなかった
大切で愛しい子供であることはずっと変わらない
グスタークはそれでも続けていたけれど
『闇深い事で有名なエィルマーナだよー、グスタークとの婚姻で家を大きくしたかったんだってさ、下らない』
アレクは幼い頃からグスタークと仲が良かったので婚姻を受け入れたけれど、話を聞いて怒った事がある
もちろん、アレクが死んで、アレク程の力がない子供の方が多いエィルマーナ家
アレクだから釣り合った
アレクだから、あの“グスターク”と張り合えた
ずっと独りぼっちだった“グスターク”を、やっと…………
「アレク〜、ハーブティーいるー?」
『淹れてくれるの?ありがとうねグスタ』
「いーよー」
『後リヴァストが美味しいって言ってたからラディロット入れたのも欲しいなー』
「いーよー!」
それに対してリヴァストはキレた
普段絶対リヴァストには怒るのにアレクはokでリヴァストはダメという理不尽である
『おいグスタ!テメェ俺の時は渋ったろうが!』
「アレクだよ?」
『俺とアレクを差別化するな!』
「べー」
舌を出してグスタークはそっぽを向く
そこへ、また1柱の精霊がやって来た
『騒がしい、縫い付けるぞ………』
「あっルシュー!おはよー!」
グスタークはルシューと呼ばれた光の精霊に抱きついた
そしてしかめっ面された
『うるさい触るな汚い』
「ごめんねぇ……」
グスタークはしょんぼりとして離れ、リヴァストの元へ戻る
『………ルシュテーカ………んな顔するなら端からやるなよ』
自分でやったのにまさかの一番ダメージを食らったのはルシューこと、ルシュテーカという精霊だった
多々やらかすルシュテーカ
以前もグスタークが幼い頃に外へ行った時も、本当は楽しいし嬉しいのに口から出るのが毒が強い目の罵倒で、グスタークが珍しく泣いたのだ
そして、ルシュテーカの気持ちも分かるという精霊、聖獣達には同情を少し貰いつつ説教は受けた
グスタークは今は確かに大人しくなった方なのだが、リヴァストが居ないともっとはしゃいでしまう
それは、自身よりもそれなりの力を持ち、グスタークを一個人として大切にしてくれるということを分かっているから来る行動
人よりも聖獣や精霊を信頼するグスタークにとっては当然人間よりも戯れ付きたくなる存在
やりすぎるけど
『うるさいぞ』
「ルシューはコーヒー?紅茶?それともハーブティー?」
『ふん、言わんでも理解できんのか』
「口で聞きたいんだもん……」
『ぐっ……』
ルシュテーカは机に突っ伏した
幾らキツイ言葉をかけてもグスタークはルシュテーカから距離を取ったりしないから、嬉しい
ただ、グスタークは対人間よりも対精霊、聖獣に対して甘えん坊具合が強いので、相手をするのは大変だ
『ルシュテーカってあんな顔するのね』
『俺も初めて知った』
アレクとリヴァストがルシュテーカとグスタークのやり取りを見つめ続ける
『ハーブティーを寄越せ』
「ん!いいよ、アレクとお揃いでラディロット入れてあげよっか?」
『そうか、それでいい』
もう今、グスタークにボロカス言うのはやめよう、と頑張って暴言を引っ込めるルシュテーカ
あとで一気に反動が来ないことを祈るリヴァスト……
来るだろうけど
「いいよー、リヴァストはハーブティーとクッキーね」
『差別化ァァ!』
リヴァストはグスタークの頬を引っ張る
ラディロット入りハーブティー好きのリヴァストには渡さない辺りいつも通りだ
『ねえねえ』
「んん?アレク?」
アレクはグスタークの肩を叩いて、グスタークの真後ろの方にある扉を指差す
禍々しい力を発生させている方向へ指差すが、グスタークはそちらへ向かない
『グスタ、あれは放置しちゃいけない』
「………俺さ、ずっと見ないようにしてたんだよ………?」
『ご、ごめんね』
グスタークとアレクが後ろへ振り返ると、そこにはナタリシアとは種類が違う結構暗めの服に見を包んだ病んでいる感じの少女が目をかっ開いたままこちらを睨むように立っていた
「俺何かした?」
グスタークは自身の腕を擦る
リヴァストは頭を撫でて顳顬を抑える
『いやぁ……想像してる事と同じ事するなら逃げ場無いかも』
「ふえああああ!」
グスタークは意を決して少女へ歩み寄る
「おっ、おはよぉカリュファー」
『どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして』
グスタークは静かに一歩下がった
何をやったかを必死で考える
だが、いくら考えても何をしたのかがわからないし、カリュファーに何かしでかした記憶もない
だって会ったの三年以上前だから
そしてそれが一つ目のアンサーである事をグスタークは今はまだ知らない
ちなみに後二つのアンサーがある
グスタークはこんな風になっているカリュファーを知らないのだが、他の面々は顔を合わせるといつもこんなだ、とため息をつく
『どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして私の私の私の私の私のどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして私の私の私の私の私の私の』
「ねえ!」
どれだけ呼んでもカリュファーが壊れているのでグスタークは後ろへ振り返る
その場にいた誰もが可哀想、と同情している
『『『『『大人しく俺達の為にもカリュファーを甘やかしてやれ』』』』』
「え!?それだけ………うん?うん…………リューファ……」
「あんな奴あんな奴あんな奴あんな奴あんな奴あんな奴あんな奴あんな奴あんな奴あんな奴あんな奴」
「おっふ………リューファ、リューファ」
『ぴぇ!?』
「あ、見える?俺だよ……ごめんね、もしかして、寂しい思いさせてた?ごめんね、半年寝てたんだよ……もう平気だから、だから可愛いんだからそんな顔しないで?ね?」
『あ、ぁぅっあっ♡しゅきっ♡』
「うん、俺もリューファが大切だよ、だから怒らないでね……」
グスタークの危険回避能力を全員が心の中で拍手して称えた
そこで好きだなんて返したらジレムの二の舞いである
カリュファーはグスタークに抱きかかえられ、グスタークがお茶類を入れている場所で降ろされる
「リューファは何が飲みたい?」
『グスタが好きなのっグスタの血でもいいのっ』
「うんじゃあハーブティーかな、ん?何って?」
グスタークは本気で後半の言葉が聞こえなかったらしくリューファへ向き直り聞き直すが、グスタークの側にいられるという幸福でもはや頭に入ってきていないらしい
『グスタあのねっ、ジレムにどこまで許したの』
「〜♪〜〜〜♪……え?リューファってハーブティー飲めなかった?」
グスタークは残念そうな、悲し気に眉を寄せてカリュファーを見つめる
鼻歌で声が届いていないから会話にならない
だが、カリュファーは、グスタークの珍しい鼻歌を聞けて嬉しかったらしく自身の眷属の小妖精達に反響させ続けている
音の魔力を司るカリュファーは何でもありだ
「カリュファー?」
『なっなに!?』
「……ハーブティー飲めなさそうなら紅茶淹れてあげるから無理しちゃだめだよ?」
『うん!うんっ!』
「ふふっ、元気だねぇリューファ」
『元気よっ!グスタの為に元気なのっ』
「ふふっ嬉しいなぁ、じゃあ、お茶運ぶの手伝ってくれる?後でリューファの好きなタッフェ持って行ってあげるね」
タッフェは、甘い果実だけをクッキー生地の上に乗せたスイーツだが、それがカリュファーの好きな食べ物だ
初めて食べたのはグスタークのおやつを分けてもらった五年前の事だが、以来、結構強請っているのでカリュファーへのお土産はタッフェだ
『本当!?』
「ん、だから、お茶配ったら座ってお待ちくださいなお姫様」
『ええ勿論よ!』
カリュファーの扱いが巧すぎる……というか、危険回避回数が更新されていっている
『カリュファー』
リヴァストは頬杖をついてカリュファーに話しかける
『何よ』
グスタークに見せてた笑みを他にもできたらな、とリヴァストはため息をつく
カリュファーはそういう部分が分かりやすいが分かりやす過ぎるのもどうかと思うのだ
『グスタがお前と会うの楽しみにしてたんだから笑っててやれよ』
『え!?うっうそ!ほんと!?』
『お前の好きそうな菓子選んでたしな』
ハディレイも率先してノッてくれたお陰で信憑性は増した
『ナタリ!ほんと!?』
『なたり、みてなかったの』
『そっかぁ…でも!グスタがさっき言ってたからホントなんだわ!嬉しい!』
「リューファ、ナタリ、怪我しないようにね」
『『うん!』』
『見た感じ属性違うけど、大人しいけどナタリシアの方がいいよ』
『本人に言ってみろ』
『いや、本人絶対自覚あるからな』
ハディレイとリヴァストはグスタークに用意された机に突っ伏してグスタークに蹴られている
お行儀が悪い、と言うことだ
「はいタッフェ」
『やったぁ!あまいのー』
『グスタ、ハーブティーおかわりあるの?』
「ありますよー」
『カリューあるよーって』
『うんっ』
今集まっている16柱はリヴァスト、ハディレイ、ゴリアテ、ウィルナス、ナタリシア、カリュファー、ヴォザーク、アレクトア・ラース・エィルマーナ、ルシュテーカ、ネティフィス、ラーフェン、レティシア、ニール、トゥイユが居る
トゥイユは世界のもう半分側の世界の守護をしている
見習い中という事だ
それが終われば他の16柱の精霊、聖獣達と同じようになる
まあトゥイユももう二百年見習いしているので、あと百年で見習いは解ける
アレクは特例だし見習いにはならない
そもそも全て理解している………ただ、そういうのは稀であるが
『遅くなった!』
爆音を立て、壁に突撃した破壊者の異名を持つリュェラスが壁に突き刺さったままそう叫ぶ
グスタークは頭を抑えた
リュェラスは壁から身体を引き抜くと元気に駆けてくる
が、グスタークはそんなリュェラスの手に持たれている物体を目に入れた瞬間女子のような悲鳴を上げた
『ヨナーンは今回はただならぬ事情があるとかで参加できなくなったそうだ!』
『うるせえリュェラス!!!あのグスタの悲鳴聞いて分かんねえのか捨てて来いッッ!!!!!』
『むむむ!?しかしこれはグスタへの土産だ!受け取って貰わねば!ほらグスタ!!焼くと美味いぞ!』
満面の笑みでそう言ってくるリュェラスにグスタークはとうとう意識を飛ばす
そしてハディレイもこれを食うのか!?と叫ぶ
『グスタァァァ!!!!グスタしっかりしろ!テメェマジ恐ろしい奴だな!虫嫌いのグスタに何て事しやがる!』
「でも、ニュールは触ってらっしゃったような」
ニュールは糸を吐いてその糸がとても質がよく丈夫なのでとても人々に好かれるのだが、それなりに高いしニュールが生息している場所が未だに発見されていないので最初にたまたま見つかったニュール達だけでは200居るか居ないかである
グスタークは誰にも教えていないがニュールの生息している場所を知っているし、個人で捕まえて繁殖させてニュール用の建物を持っている(リヴァストの居る森内なのでバレない)
一度ヘルミーナは見せてもらっているし触らせてもらった事もあるので知っているのだ
『ああいう、産業につながる虫は全部問題ないんだぞコイツ』
「面倒な!」
そう、グスタークは、他にもいくつかそういう虫やら他の物も駄目という物があるのだが、産業に関係ないものには絶対拒絶するし、最悪現在のように叫び散らした末に気絶する
キャパオーバーさせられ気絶するのは大抵リュェラスのせいなので珍しい事である
あと、駄目だった虫でも利用価値があるとわかると拒絶しなくなるのが面白いのハディレイは思う
ナタリシアは絶対虫は触りたくない勢であるが、グスターク程の完全拒否ではない
「り、りう"……」
グスタークは半泣きでリヴァストに抱き付き、リヴァストはグスタークの背を撫でる
ヘルミーナも可哀想だと思ってグスタークの頭を撫でにやって来た
虫は焼却するつもりらしく、片手から火の魔法が錬られていて、全員«コイツもモンペに進化したんだなぁ»としみじみ思ってしまう
『お前もっと強くあろうな!』
「きもちわる……おえっ」
口を覆いながら言うグスターク
だが、少しそれは嫌なリヴァスト
『それだと俺が気持ち悪いになるからリュェラスのせいにしろ』
「らすのせい……きもちわるい、おえっ」
『言い直しても駄目なのなぁ……』
気が変わるなんてこと無かった
というか、そんなに直ぐ嫌いな物が好きになるだとか、触れるようになるだとか、そんな事簡単ではないのだ
「ふええ……」
『リュェラス、それは私が貰うから一時的に、すぐに手を洗って座ってなさい、大人しくね』
『分かったぞ!アレクも洗いに行くのだ!』
『分かった分かった』
それから、そういうバタバタが落ち着いて、グスタークはリヴァストに抱き抱えられ、先程の光景がループしているのか何度か嘔吐いている
リヴァストはその度にお父さん化している
『それでは………一人ダメージが大きいですが始めさせていただきますが、私でよろしいのですか?』
『今の俺ができるとでも?』
レティシアは確かに、と頷く
現状、可哀想なほど嘔吐くグスタークを見ているリヴァストに話をして貰うなんて仕事量増やしてるので、仕事のないものにやってもらうのがいい
『そう、ですわね、グスタ、後でお話だけして頂きたいので、少しだけ頑張ってくださいませ……それで、その、リヴァストはジレムが今回何故あの様な事をしたのか……』
『アイツ、グスタを独り占めしたかっただけだってよ……ただそれだけだ』
昔からあいつの気に入ったら魂を手元に置きたくなる病気は治らねえな、とリヴァストはグスタークの背を撫でながらため息をつく
そうしている間も嘔吐くので手が離せない
……そうですか……それから、ジレムの復帰までいつまでかかるか、グスタ、教えてくださいませ、頑張って…』
ハディレイやヴォザークも背中を撫でているが一向に虫の余波が残り続けているのか顔が真っ青である
「うぉぇっ……ジレムなら二、三十年で出てくるんじゃないかな……」
その手の術それなりに得意だろうから、そう言うグスタークだが、全く復活していない
リヴァストは、グスタークが森へ来る際、虫の魔獣等は基本外で待機させるので出くわすことが無かった
だから、森に虫類がいないという不思議な環境なのだ
『それではそれまではアレクがジレムの仕事を継ぐということでよろしいでしょうか』
『異論はない、だがアレクはそれでいいのか?』
『ええ、構わないわよ、どうせ、ジレムが帰って来たらグスタの所に戻るし』
「あの、その頃グスターク様居られるんですか?」
『向こうにはいるんじゃない?だって半分向こうの子だしね
そう当人の話をしているのにグスタークは限界が来たのかリヴァストの肩を叩き始める
「リヴッ気持ち悪い外行きたいっ」
『終わったらな!もうちょっと我慢しろっちゃんと連れてってやるから!』
「やぁだぁぁ!気持ち悪いぃぃ!」
全身で嫌悪感に狂い始めているのでリヴァストは立ち上がる
身体を揺らしてどうにか収めるつもりなのだろうが全く収まる気配がない
「グスターク様今16では?」
『幼いよなぁ、ああいう風にしてると』
ふとまた視線を戻すとリヴァストはグスタークの荷物を持って歩き出した
『解った解った!いつも終わるの早いんだからもうちっと我慢しろよお前っ』
「やぁだよぉぉぉ!ゾワゾワする気持ち悪い水浴びする!」
『お前風呂嫌いだろぉ!?こういう時ばっかりだな!』
『グスタのお風呂!?』
ネティフィスが勢い良く振り返った
精霊、聖獣勢が蔑みの目を向ける
流石に気色悪い
『一々食い付いてんじゃねえよ痴女!』
『ネティフィス、流石に気持ち悪い』
『ナタリもお風呂あんまり好きくない、ネティ、気持ち悪い』
『リューファもお風呂好きくない、ネティ、頭おかしい』
取ってつけて貶してくるナタリシアとカリュファーに対してネティフィスは反応しない
だからなんだ、という感じだ
『お前らは精霊聖獣だからカウントしねえよ!水浴びさせてくるから続けてろ、俺達の出番終わりだろ』
「え、ええ、グスタ、綺麗にね」
「うええっ」
グスタークがリヴァストに風呂場へ連れて行かれて、16柱全員の纏う空気が変わる
「それでは、始めましょう」
「ほーい」
『私グスタの所行きたいわぁ』
『『『『あ"?』』』』
ネティフィスのその発言に精霊、聖獣勢の野太いキレた声が響く
流石に殺すか、と立ち上がったハディレイとヴォザークをアレクは静止する
『だぁってぇ!私だってお風呂入れてみたいんだもの!』
『ネティフィス、やめなさい、リヴァストは父親みたいなものですよ』
ルシュテーカはやれやれ、とでも言いたげに首を横へ振る
『ルシュテーカだってそんな事言って、実は変わりたいと思っているんでしょう、ダダ漏れよ』
『ダダ漏れてるが言わないのと、平然と口に出すなら害があるのは口に出している方だがな』
『知ったらキモいけどな』
リヴァストが後ろから戻ってくるとアレクが振り返る
人の癖というものはそうそう消えないのだ
『あれ、戻ってきたの』
『グスタがヘルミーナ連れて行くって』
「わっ私ですか?」
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
カリュファーの憎悪だっぷりの言葉にヘルミーナが萎縮する
リヴァストはやめろ、とカリュファーを小突いてヘルミーナを庇う
人間相手に可哀想だろうが、と言われればカリュファーはグッと堪えた
確かに、人間よりも自分のほうが長い気か、と堪えはできるが受け入れたくないのかしかめっ面である
『カリュファー、お前に見られるの恥ずかしいんだとよ』
『え?』
『男の子だろ、ってよ』
『見たいっ』
『やめてやれ、グスタ泣くから、おいヘルミーナ、さっさと来い』
後、カリュファー、その先踏み間違えたらネティフィスと同じだからな、と言われたらカリュファーはそれは嫌なのか机に突っ伏した
下手をするとカリュファーがネティフィス属性になるとか御免である
「は、はいっ」
ヘルミーナはリヴァストの後をついていく
『…………では、【第163回グスタークは人の器から離れた後、誰の眷属が相応しいか】会議を始めます』
『そりゃあやっぱり俺の所でショッ』
ヴォザークが自身を持って手を上げながらそういう
そんなヴォザークにルシュテーカは溜息をついて舌打ちも披露してくる
仲はいいはずだが、グスタークやアレクが理由に絡んだ場合、全員が面倒になる
実に面倒な存在になる
『はぁ、またそんな下らない事を、眷属になるかならないかは当人が決めることであり『じゃあルシュテーカは早抜けってことで』そうは言っていないだろうが!』
今日一の大声を出すルシュテーカに全員が耳を塞いだ
此処にグスタークが居たら頭を撫でて落ち着かせるという暴挙に出るだろうが生憎いないので無問題である
『うるさっ……そうねぇ、でも私、あの子はリヴァストの眷属を選ぶか、柱を一つ増やすことになるか、そんな気がするわね』
アレクはうーん?と悩みながらそう言う
正直、あの二人の相性は随分といいのでそんな気がするのだ
ちなみにアレクはナタリシアと波長が合う(決して眠たいだの言うわけではない)
波長が合うと言うことは、その属性に適した魔法が使いやすい訳で、グスタークは魔獣を使役することに長けているし、夜の方が強い
それでも、珍しいほどにグスタークは他の精霊、聖獣達に愛されているので本来反発するような魔法を同時使用できるタイプの全属性魔力持ち
だからこそ保護対象になる
『アレクはグスタを眷属にしたいとは思わないの?』
『なんだかんだ言ってグスタにはグスタの意思と願いがある訳で、そこを強制してしまうのは私はあの子の為にはならないから………あの子が選んだならそれでいいのよ』
アレクにとって、グスタークは幼い頃から力の象徴であり、グスタークの力欲しさにアレクの実家が近付いた
アレク自身がそれなりの力だったが、それを超えるグスタークは他家の人間にすれば餌そのもので、リヴァストたちが守護していなければ今頃無事か如何かもわからない
生まれつき涙が宝石になり、血液は厳格を見せるほどの高濃度の魔力を含むアレクを超えているグスターク
そこにいるだけでも妖精達は群がってくる
だから、アレクは、自身を超えるグスタークを守ろうと決めた
だけど、それは独り占めしたいがためではない
『じゃあ早抜け?』
『ええ、あの子が望んだなら良いけど、強制してまでではないもの』
『………ナタリも、アレクと、おなじかも……グスタ……の、すきな、ようにしていいよ……』
一人よりも、沢山の人のそばでグスタークには笑ってほしい、それが聖獣、精霊達が望むことだから
『ナタリ……もぉ、そんな事言ったら私も文句言えないじゃないっ』
『?リューファはグスタ、一緒がいいんじゃないの?』
『そうよ、だけど、アレクの話とか聞いたら……』
『ふふっ、まあ、グスタは全員大切、全員居てこそって性格だもの、この関係が変わるなんてことないでしょうし』
それには全員が頷く
今更この関係が変わるなんてことになったら、多分グスターク本人が絶叫しかねない
誰よりも一人が嫌いな子供だから
誰よりも、自分を《化け物》だと蔑んでしまう子供を、誰も放置なんてしたくないのだ……
『それでは今回限りと行きましょうかこの会……』
『でも、ヨナーンがねぇ………カリュファーを五倍にしたような性格してるから』
アレクは心底どうしようかな、と考え、人間は首を傾げたものの、精霊、聖獣はアレクと同じ顔をする
『『『嗚呼…………』』』
『ま、まあっ!どうにかなるでしょう!グスタ達のいる部屋に参りましょうね』
『『うぇー』』
『『はぁーい』』
アレクに促されるようにルーシス達もその面々の後ろをついていく
暫く長い通路を歩き続け、広い部屋へたどり着く
そこではグスタークがリヴァストに用意されたらしいリヴァストの人型の眷属が着る衣類を纏っていた
服はリヴァストの手にあるが、触りたがらないので、一度洗わないと絶対着ないだろう
『『『ズルくね、殺すぞあいつ』』』
『あんた達さっき許したばっかりじゃなかった?』
アレクはこの子達成長しないわーと頭を抑えた
「あ、お話し終わった?」
グスタークは随分と落ち着いたのか衣を直しながら声をかけてくる
随分大変だったのかヘルミーナもリヴァストも疲れた顔をしている
『おわったよ、グスタおふろ?』
「うん、俺も終わり、ごめんね、なんのお話してたの?」
『んーん、ジレムのお話くらいなの………』
嘘だがグスタークに聞かれてもアレな気持ちになるのでとりあえず隠す事にしたらしい
「あ、そうなの?そっかそっか」
『グスタ』
「あ!アレク、ミーさんに髪洗ってもらったの!」
グスタークはアレクに抱きついて髪を見せる
幼児の様な仕草をするグスタークにアレクは苦笑する
アレクの前では素で居てくれる
だがそれは、アレクやリヴァストの前以外で素を出せていなかったと言う事で、その反動がとても大きく、他社の前ではそれなりに大人びて見えるのだ
現在はリヴァストやアレク達が近くにいるので幼い
それに、最近はヘルミーナにも甘えん坊が出ているのでセーフ
『良かったねぇ、自分で洗えるようにならないと、リヴァストに洗ってもらってるんでしょう?』
「う"………苦手なんだよ……」
『苦手も克服できることではあるんだよ?練習しようね』
「うん……」
アレクはグスタークの頭を撫でる
『よしよし……そういえば、今度お出かけするんだよね、どこに行くの?』
「ラウデリッシュ行くよぉ」
『あそこ、今相当不味い場所よ?』
「一応視察、無理って判断したら一回帰って一人で対処かなぁ」
『無理はしないようにね』
「はぁい」
『帰るぞ、グスタ』
「ん!」
グスタークはリヴァストに手を広げて抱えろと目で語る
リヴァストはギリッと歯ぎしりした後にグスタークの頭を叩く
すぐ甘えるのは直させないといけない
『自分で歩け』
「やだ」
『クソガキ……』
リヴァストはグスタークを乗せるために獣化し、グスタークはその背中に座る
人間勢は恐れ多過ぎて離れる
そんな事できるのはアレクかグスタークだ
しかもアレクはもうリヴァスト側だ
『気をつけてね』
「うん!また来るねー」
『うん、またおいで……ふふっ、ルシュテーカ、久しぶりに遊ばない?アレで』
指を指したその先にある物体を見て精霊、聖獣数体でさえ顔を背けて、内心『コイツら正気か!?』と叫びたくなった
なんだかんだでこの二人も大概である
『暇だから構わん』
「ルシューもまた今度遊ぼうなー!」
『ふん、さっさと帰れ』
「えー?」
それぞれ解散となり、グスターク達は屋敷へとゆっくり帰り始めたのだが、全員が、少なくとも今は平和ではあるが、ヨナーンの件がレジムの事と被って不安になったのは勿論のことで……
何もないことを願った面々は肩を落としたのだった……
アレクさんとルシュテーカさんは戦友という関係にあります一応
カリュファーの性格は自身の性癖をなんとか抑えられるタイプのジレムですが、ジレムよりも質が悪いとも言われているメンヘラです
ルシュテーカはインテリメガネなので誤解を生みやすい性格
結構人の嫌なことをグサグサ指していくタイプ




