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妄想の帝国

妄想の帝国 その23 究極の消費税対策?下限消費制限法 金持ちは高いもの買って税金払え!

作者: 天城冴

消費税15%という法案を出した与党に対し野党コイケダは金持ちはたくさん消費することを義務付けるという下限消費制限法とセットで増税を提案。消費税増税とともに施行されるが、それは高額所得者が毎月高額の消費を強制されるというトンデモないものだった…

都心から一時間ほど離れた、とある町の100円ショップ。

深々と帽子を被り、マスクをした男が、あたりを見回しながら、レジに向かう。

「こ、これを」

おそるおそるカゴをレジの台に乗せた男に店員はにこやかに

「恐れ入りますが、買い物カードのご提示をお願いします」

言われた男はしどろもどろに答えた。

「そ、そのう、忘れたんだ、今回は」

「申し訳ありません。提示がないとお買い物はできないと法律で…」

「い、いいじゃないか!最高消費税額の30%払ってもいい!とにかくここで、この髭剃りを買いたいんだ!」

いきなり怒鳴り散らす男。

その剣幕に驚いた店員は思わず、警備のベルを押す。

「どうしたんです」

白髪交じりの男性警備員が駆け付けた。

男はうろたえて

「な、何でもないんだ、そのカードを忘れてしまったんで、でも買えないかな、その」

「買い物カードでしたら、ご提示いただけないと、お買い物はできません。許可した場合、罰則もあります。我々もクビに」

「だ、だめかあ」

と言っているうちに男のしているマスクが外れた。

男の素顔を見た途端、警備員は

「あ、与党ジコウ党のスガバカ議員!でしたら、この店にはお入りいただけません!」

強い口調でスガバカに注意する。

「いや、ここは、その安くて」

「ダメです。店としてはお客が多い方がいいですが、お金持ちには高い店で高いものを買っていただくと法律で決まったんですから。お金をたくさん使って消費税をより多く払っていただかなくてはならないんです。そう決めたのはあなた方、国会議員でしょう」

「そ、それはそうだが」

「ですので、お帰り下さい」

丁寧だが厳しい声で警備員はスガバカを出口に促す。

 安くて良いモノ揃いと評判の100円ショップを追い出されたスガバカは溜息をつく。

「はあ、郊外でもやっぱりだめか。うう、野党の口車にのって、あんな法律通すんじゃなかったー」


一か月前

「消費税15%などにしたら、今度こそ国民は死に絶えます!前回の10%で、どれぐらい消費が落ち込み、中小零細企業が倒産、休業、廃業したか、ご存じでしょう!」

野党共闘派№2のコイケダの鋭い指摘に、タジタジのアベノ総理。

「それは、私も、存じてます。しかし社会保障にですね、国防に、その」

「社会保障にはロクにつかわれてないじゃないですか。機密費は増えてますけど。第一税収も頭打ちです」

A1サイズのパネルにカラーでわかりやすく書かれた税収の図は右肩上がりどころか、じわじわと下がっている。そのパネルがなるべく目にはいらないように、少し横を向いて総理は

「し、しかし、あがらなくても、そのお金はいりまして。少しでも入れば、よいわけで。まったくのゼロというわけでもなく、その」

事前質問通告がなかったのか、マトモな答弁原稿をかける官僚もいなかったのか、総理は言語明瞭意味不明の台詞を続ける。

 ギリギリといえど、与党ジコウ党は過半数、時間切れで法案は可決すると高を括り、謎ポエムのような答弁を続けるアベノ総理に、コイケダは変化球を投げた。

「どうしても消費税率をあげるというなら、この法律とセットでやっていただきたい」

と、出したパネルに書かれていたのは

“下限消費制限法”

同時に、官僚たちが法案の草稿を閣僚や議員たちに配布した。

アベノ総理は手渡された草稿をぱらぱらとめくるが、漢字が多すぎるのか、読解能力が追い付かないのか、法律の趣旨がよく理解できない。

仕方がないのでコイケダに直接聞く。

「ど、どのような法律で」

コイケダは簡潔に答えた。

「高額所得者に高額商品の購入を義務化するものです」

「つ、つまり?」

「金持ちは高いものをたくさん買い、より多く消費し、より多く税金を払え、そういうことです」

なんだかよくわからないが、とにかく反対したほうがいいと条件反射で

「し、しかし、軽減税率があり、その食品はですね」

と、反論しようとするアベノ総理だったが、コイケダに早速論破された。

「あれは実質的に軽減でもなく、消費者にも事業者にも煩雑なだけと立証されたではありませんか。確定申告、大手決算期の4-5月にどれだけの混乱があったか。経理担当者が過労で入院が続出、死者まで出たのですぞ!」

「そ、それは承知して、その保証もしたし、還元セールも」

「その保証と還元セールに支出した税額はその年度の消費税税収を軽く超えたとのことですが」

「しかし、誰が金持ちかなんて、その」

「所得税に応じて買い物カードを発行すればいいでしょう、年末調整、確定申告のときに。未成年、無職、年金暮らしの方は非課税証明書をカードにすればよいのです。紙の名刺のようなもので十分。毎年変更しますしね」

「カードの手数料がその」

なおも反論しようとするアベノ総理だったが、側にいた官僚にそっと耳打ちされた。

“総理、買い物カードをゆくゆくはマイマイナンバーカードとセットにすればよいのです。クレジットカード、保険証との抱き合わせもすべて失敗。今度こそ、マイマイナンバーカードを普及させられます”

“そ、そうだな。あれもつくったものの普及率最低で、税金の無駄、考えた奴アホ、バカっていわれてるし”

 国民監視番号ともいわれるマイマイナンバーと一緒にして、マイマイナンバー反対のコイケダをギャフンといわせてやれる、とアベノ総理の頭に邪な考えが浮かんだ。

「総理、いかがでしょう」

総理の真意を知ってか知らずか、コイケダが促す

「そうですな、検討の余地はある。では、早速、審議を」

そして“下限消費制限法”は驚くほどのスムーズさで可決、施行された。


「ま、まさか、こんなことになるとは」

施行後、ジコウ党の議員たちは自分たちに起きた事態に大いに困惑していた。庶民から搾り取るはずの消費税増税、その抱き合わせ法案、下限消費制限法が大ブーメランとなって跳ね返ってきたのだ。

「高額所得者は100均など安売り店への入店もお断り。安売りスーパーも駄目、高いデパート、高級食材店に行け。コンビニは利用可だが、一回最低5000円以上使え、なんて。俺はあの100均の髭剃りを愛用していたのにいい」

スガバカ議員が嘆くと、他の議員たちも口々に愚痴を言い出した。

「大手会社役員、上級官僚はコンビニ消費最低1回1万円だぞ、扶養家族も。逆に低所得者には買い物カード提示で消費税5%だなんて。字が小さいうえ、法案草稿の後のほうに書いてあるから見逃した」

「こ、子供がコンビニも100均もいけずに、小学校で仲間外れにされたんだ。“金持ちは私立に行け”って。私だって入れたいが、どこも入学試験で落ちた。残りは、その、バカで有名と評判なところしか入れん。そんなところにいったら、就職もままならん。コネで入社できるニホンの企業も少なくなっているし。第一あまりにバカは敬遠されてる、会社がつぶれるからって。どうしたらいいんだ」

「私立にいけるとしても悲惨だ。何もかも金がかかりすぎるんだ。制服はもちろん、筆記用具まで国産高級品だ。子供一人小中高と卒業させるのに、億、いやそれ以上になるかもしれん。大学ではさすがに購入制限はないらしいがな。しかし、やはり高額所得者の扶養家族である限り、国産高級品以外は買えんのだ。高い服着て歩くと、金持ちの子息とすぐバレる。大学のゼミで裏口入学を疑われて、鬱になった息子は大学を中退して引きこもりだぞ、こっちも鬱になりそうだ」

「まさか、国会議員は国産品しか購入してはいけないなんて、オマケがついているとは。妻は外国の化粧品を愛用していたが、税率100%の消費関連関税を払わないと買えなくなったって文句を言われたよ。倍かかるんなら国産の化粧品を買えといったんだが、成分が違うから駄目と言って聞かない。成分表示みたら国産の化粧品とほぼ同じなんだが」

「政党助成金で何か購入する場合はさらにひどいぞ。税金から出してる金だから3割は還元って、30%も消費税がかかるんだぞ」

「政党助成金や歳費の支出も厳しくなったよ。“100円以下の購入も消費税率を明記したレシートまたは領収書の原本添付、なければ使った分全部返せ“だ。業者にインボイス発行を義務付けてるんだから、税金使って物買う議員も同じことしろっていう理屈らしいが」

「商売やってるわけじゃないのに、あれは絶対嫌がらせだ。とはいえ、法案にきっちり書かれてます、と言われれば反論の余地もない」

「ワシなんか、国会議員に課された“毎月購入下限額をクリアするのに、大変なんだぞ。ローン返済は数に入らないから、毎月何を買うか考えるだけで、頭が痛い。しかも元大臣だから、下限額はさらに高くしないと駄目と秘書に言われるし。大臣なんて一か月もやっとらんのに」

と、愚痴る議員たち。その不満の矛先はジコウ党トップであり、実質この法案を通したアベノ総理に向けられた。

「なんだって、総理はこんな法案を~」

「し、総理もイラついてるんだ。ハギュウダンさんはとばっちり受けてるし」

と、議員の一人が総理の側近のハギュウダンを指さす。

ハギュウダンは、男性議員の井戸端会議にも加わらず、一人椅子に座って頭を抱えていた。

 「ああ、畜生、なんでこんなことに。アベノ総理は大好きなガチガチ君が食べれなくてイライラして俺に当たるし。“君が前に言ったことで、揚げ足とられたせいだ”って。やはり、あの発言がまずかったか。くう、まさか今頃になってこんなことになるとは」

と、後悔しきりのハギュウダン元文部科学大臣。

彼は以前、無茶苦茶な入試改革の不備を指摘されて逆ギレ、“身の丈にあう入試を”という出自差別というか、親が金持ちでない奴は受験に不利なのは当然ともとれる、民主主義国家全否定のトンデモ発言をした。

その身分制度肯定発言をしっかり覚えていた、野党の女傑モモリ議員に、

“ハギュウダン議員は身の丈にあった、という言葉がお好きなようなですから、身の丈にあう消費を促す、この法案にもちろん賛成でしょう”

と嫌味を言われ、つい応じてしまったのだ。

その結果、ハギュウダンは手痛いしっぺ返しを受けていた。

総理の側近なら、それに見合った消費をしろ、高額商品をどんどん買えとパンフレットや広告メールが自分だけでなく家族にも来る。安く買えるオークションや外国企業のアマアマゾンの通販サイトなどの利用も制限されてストレスが溜まった妻や子が高級服やら食材やら化粧品を買いまくる。おかげで家はモノであふれんばかり。しかも毎月購入下限額を満たすために毎月モノがドンドン増えていき、ついには下限額以上の消費が常態化。議員に見合う以上の消費が癖になってしまい、支払いがうなぎのぼり、預貯金はタンス預金までスッカラカン。次の選挙で落選しようものなら、たちまちクレジットカードの支払不能、自己破産で路頭に迷う、どうしようと眠れぬ日々を送っていた。

アベノ総理も大好物のアイスバー、ガチガチ君のことでかなりの制限をうけていた。なにしろガチガチ君は小学生の子供でも買えるお値段、現行法で総理は購入できないのだ、通常のガチガチ君は、1本も。

「ううう、あの、あの、ラムネ味がいいのに。それなのに~」

ジコウ党総裁室で半泣きになりながら齧っているのは

「この唐辛子、ウコン、青汁ミックス味のガチガチ君しか買えないなんて~、ぼ、僕は総理なのに」

高額所得者で、議員で、総理だからこそ、一本1000円の特別仕様、まさかホントに食べる奴はいないだろうとネタでつくられた高額ガチガチ君しか買えないのである。

「くうう、次の国会では何としても、このトンデモ法を廃案にしないと~」

と、特別仕様ガチガチ君の辛さと苦さと不味さにむせびなくアベノ総理。


「下限消費制限法は廃案に」

国会の開会直後、与党ジコウ党のスガバカ議員が早速発言。

が、しかし

「それなら消費税は0%、つまり廃止ということになりますな。先の国会で下限消費制限法と消費税法は表裏一体と決まりましたし」

と、野党共闘派№2コイケダ議員の指摘。

さらに野党のモモリ議員も突っ込みをいれる。

「所得の低い層は買い物カード提示で、実質消費税5%になり、現状のままでもよい、との意見もあります。消費税0%のほうがさらによいことは確かですが」

「消費が倍、いや数倍になっております。国内の企業も潤い、消費税による税収も大幅に上がるとの予想ですので、廃案はすべきではないかと。なにしろ、お金持ちがお金をたくさん使って税を納めるという、非常に健全な在り方ですから。まさに税の応分負担」

と、同じく野党のレンポー議員が発言するのをジコウ党議員席のオッサンもとい男性議員たちがチラ見する。

“くう、レンポーもモモリもなんで平気な顔してるんだ、あいつら、どうやって議員の毎月購入下限額をクリアしてるんだ”

妻の化粧品爆買いでクレジットカードの支払いが怖い男性議員の一人がぼやく。

“政党助成金が少ないとこは毎月の購入下限額も低いんだよ”

左隣の議員がつぶやくと、右隣の議員も

“それに子供食堂とか寄付バンバンしまくってるからな。寄付も対象になるとはなあ、福祉関係のNPO法人とか教育機関である大学とか図書館とかだけだが。しかも産学協同やってる大学とか、1000万以上の補助金貰っている機関や天下りの受け入れ先機関は対象外だし”

それなら自分たちも児童施設や福祉施設、教育機関に寄付すればよいのだが、社会奉仕という考えが1ミクロンも頭にないジコウ党の一部(大多数?)の議員たちは見返りのない寄付行為はしたくないようだった。

 議員は国民の奉仕者という考えの女性議員たちは、実質上大多数の国民に有利になったこの法案の廃案に更に反論する。

「廃案ということなら、これにかわる税収を考えなければいけないということですよね。税収が減れば財源も減るわけですし。こうなると大企業への研究助成などの各種控除は廃止しなければなりませんね」

「消費増税による増収で、社会保障などの不足を賄うということでしたからね、それにかわるものとすると、やはり法人税をあげるか、高額所得者の累進課税の所得の上限額は10億円、いや100億円ぐらいにするか。それとも株などの不労所得に対する課税強化ですか、楽して儲けた人間を優遇するのは汗水たらして稼いだ金を尊ぶニホンの伝統に反しますし」

ひいいいい。どよめく与党議員席。財界の文句、何よりパーティ券購入、献金が激減するのを恐れるジコウ党議員は戦々恐々。

しかし、

今の法案の大きすぎるマイナス、それを口にする与党議員たち。

“大臣クラスなら毎月200万近い消費が義務って、冗談じゃないぞ。だいたい毎月購入下限額は議員だけじゃなく他の高額所得者にもある、大企業の連中だって困ってるんだ”

“大企業の社長連中は、経費で落とせるとか考えてたらしいが、全然無理。だいたい買い物カード提示で領収書は個人名にされてしまう上、インボイスに高額所得者との取引明記義務があるんで税務署にも通知がいく。税務署に会社の経費と高額所得者毎月購入下限額の二重計上はすぐバレる仕組みだ。第一、下限額のチェックは税務調査そのもので、少しでも疑われたらマルサが嬉々としてやってくるという”

“小学生の子供の買い物にまで、きっちり調査されるそうだ。子供のランドセルだけじゃなく、学校のロッカーまで調べられて恥ずかしくて不登校になったってのも聞いた。いじめの常習犯だったんで、学校はいい厄介払いだったらしいが。買い物をめぐって夫婦喧嘩して、別居、離婚もあったそうだ。夫の所得のために好きなものも買えないって奥さんが出て行ったらしい”

“それより毎月の最低購入額のプレッシャーで、胃潰瘍になって入院した奥さんの方が悲惨だろう。節約好きの奥さんだっただけに高額なものを買わなければならないっていうのが重荷になったらしい。しかも一番高額な病室しか入れないって言われて、病状はさらに悪化したそうだ”

財界人もかなりの打撃を受けている、下限消費制限法。

しかし、廃案は消費税廃止も意味するのだ。

輸出戻し税で潤う大企業は大打撃、法人税があがって、各種の控除が廃止されれば社員にも株主にもロクに還元せず溜め込んだ内部留保も吐き出し、役員報酬も下げざるを得ない。

株主も不労所得の増税となれば、うかうかしてはいられない。

しかし廃案にしなければ役員、取締役個人の痛手は大きい。

株でもうけたと浮かれた株主も高額所得者に課される毎月の消費下限額のおかげで苦しんでいる。

むろん、与党議員、上級官僚、他政財界人たちもこの法案のせいで息も絶え絶え。

どうしようか、どうするか、どうするんだ~。

多いに悩むアベノ総理以下与党議員たち。

「は、廃案の審議は、あ、明日にでも」

ひとまず、議論は持ち越された。


その夜、都心から車で一時間あまりの郊外、里山の古民家で二人の男が囲炉裏を囲んでいた。

「いやあ、こんなにうまくいくとは思わなかったですな」

コイケダが囲炉裏の前で満足そうに笑う。

向かいに座っているのは野党共闘派№1のヤマダノ。議員ではないが、各地を積極的にまわり、庶民の声を聞いて、コイケダらと頻繁に野党共闘で政権奪還の相談をしている。今夜の会合もその一環だ。

「なにしろ、法律を無理に捻じ曲げ、三権分立も無視の政権ですから。かえってこういうアクロバット的な手法もいいかもしれません」

「いや、彼らのいつもの理屈“金持ちが多く買ってより消費税を払うから~”や“金持ちが金を使うから~”を逆手にとって、それを義務化してしまうとは、なかなか思いつきませんよ」

「まあ、昔話のトンチみたいなもんですかね。しかし、これで消費税廃止にもちこめば安いもんですが」

「廃止にもちこめなくても、低所得者は買い物カード提示で消費税5%ですから、実質減税。代わりに金持ち、上級国民は増税ですからね。中小業者の小売店も金持ちが買わないから、消費税5%の取引しかないんで、かえって楽になったそうです。大手企業は逆に困って中小零細企業と取引したがるようですが、まあ大企業も金持ち法人とみなされてますんで、実際には卸売り業者などの仲介が必須でややこしい。しかも業務が煩雑になった場合、その負担をするのは規模の大きい会社のほう、すなわち大企業の方って法案にこっそり盛り込みましたからね、経理担当者の人数多いからってことで」

与党に気が付かれないよう企業と金持ちを縛る文章をどう練りこもうか苦心したことを思い出し、コイケダはニヤニヤしながら鍋をつつく。

ヤマダノは汁を椀によそいながら

「買い物カードとマイマイナンバーと抱き合わせようとしても、毎年所得は変わりますからねえ。そのたびにマイマイナンバーの情報書き換えを行う。税務署にやらせるのか、年金の出先機関か、それとも他の省庁か、それを決めるだけでも一苦労。個人情報保護の観点からも実行は難しい、つまりは実質不可能」

と言って笑った。コイケダは鍋のお代わりをしながら

「まあ、国会議員やら地方議員は少しキツイですが、我々は政党助成金がないので、その分は楽ですね。消費のプレッシャーは少ないし」

「ま、この鍋の食材も実質タダですからね。囲炉裏は昔からのものだし、炭も自作です。地元の支援者が害獣駆除して取ったジビエですし」

「え、牛肉じゃないんですか、味がそっくり」

「実はアライグマです」

「ええ、私、ラスカル食べちゃったの?でも、美味い。新しい国産の味ですな。これはアメリカ産の牛に対抗できるかも」

「この山菜もなかなかですよ。外国の管理された野菜にない滋味がある」

「地元にあるものを美味しくいただくのが一番ですなあ。無駄な消費もしないし」

「ホントですねえ」

と、実質消費税ゼロの宴会を二人は夜遅くまで楽しんでいた。


虚構新聞の見出しなのかと思われるような法案がどこぞの国でも通っているようですが、民主主義国家の皮をかぶったトンデモ独裁政権に対抗するためには、国民もあり得ないような対案を出さなければならぬのかもしれません。

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