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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界転生絶対に許さないシリーズ

異世界転生絶対に許さないマジシャンガール。

作者: ふえふえ

 世は正に空前絶後の異世界転生時代。今生に不平不満を持つ人々は、異世界の管理者の手引きによって次々とその魂を異界へと導かれていく。

 その状況を良しとしないこの世界の管理者は見込みのある者を鍛え、異世界転生の実行者である異界の使徒を迎撃する任を与えたのだ!!


 大都会の摩天楼の屋上に立ち、街を眼下に収める処女こそその一人!!


 空色の髪に黄金の瞳!!


 身に纏うのは白と青を基調とした和風アイドル衣装!!


その名も異世界転生絶対に許さないマジシャンガール!!


 異世界転生絶対に許さないマンのイヤホン型通信機が点滅して音を発する。異世界転生絶対に許さないマジシャンガールは応対する。


「こちらマジシャンガール」

『ガールさん。東京都××の○○に対応する霊界に異世界反応です。種別は土下座幼女です』

「分かった。現場に急行する……その土下座幼女って種別はいい加減どうにかならないの?」

『別に良くないですか?』

「そう。貴女がそれで良いならそれで良いと思う」

『そんなことより聞いてくださいよ! ガールさん。あの筋肉ゴリラが言い寄って来てしつこいんですよー! それに“マンさん”って略すと一々訂正を要求してきてうざいし。全部言ってたら噛むっての!! 先輩であるガールさんからも何か言ってやってくださいよ』

「善処する」

『それにこの前だって仕事終わりに、ケーキを片手に――』


 異世界転生絶対に許さないマジシャンガールは通信を切った。



*****



 47歳の誕生日を(もり)比企雄(ひきお)は一度も職に就くことなく迎えた……筈であった。


 彼の最後の記憶は、両親が自分の為に細やかな誕生パーティを催し、母が作った料理を文句を言いながらも完食し、珍しく夜更かしせずに寝たのだ。

 気が付けば、上下左右が真っ白な空間。

 そして、目の前には白い空間の地面とも呼べる場所に額を擦り付けて謝罪する幼女の姿があった。

 

 これこそが最近では目っきり見なくなった土下座幼女である!!


「済まなかったのじゃ」

「あ、あ、あ、あんたは何なんだよ!!」

「儂はのう。こういうものじゃ」


 幼女は比企雄に名刺を差し出す。人生で初めて名刺を受け取った比企雄はそこにかかれていた文字を見て、ほくそ笑む。


――転生担当神〇△□


 ああ!!これこそ人生二度目の異世界転生の誘いだったのだ!!


 土下座幼女が自らの非で比企雄が死んでしまったこと(真っ赤なウソ)を粛々と述べる。それを聞き流しながら、比企雄は転生に思いを馳せていた。


「へえ。あ、あんは俺を転生させてくれんのか?」

「そうなのじゃ」


 毅然とした態度を取ろうとするが、対人コミュニケーションスキルが小学生にも劣る比企雄はニヤついた顔を抑えることが出来ない。人とまともに会話したのも10年ぶりだ。心の奥底ではそれを嬉しがっているのかもしれない。


「転生世界はどんな世界なんだよ?」


 幼女神はタブレットPCを取り出し、スワイプして画像を見せながら比企雄に自分の異世界をプレゼンテーションする。

 幼女神はプレゼンテーションにこなれており、比企雄の質問にも丁寧に答える。比企雄は時間とこの空間に来る前に一緒にいた両親のこともすっかり忘れて、異世界にのめり込んでいた。


「――という訳じゃ。何か希望とかあるかのう?」

「王族だ。それに最高の才能もだ!」

「ちょっと待つのじゃ?」


 幼女神は比企雄に画面が見えない様に、端末を操作する。彼女の見立てでは、注文通りの才能を付与して、比企雄が王族に転生した場合に、碌なことにならないと考えていた。

 契約を破るつもりはないが、現地民に悲劇が起こらぬように手を加えることは考えていた。

 

 幼女神が行おうとしているのは記憶の消去である。今の人格を形成するに至った出来事以降の記憶を消去して、過去の精神状態で異世界に送るつもりだ。

 幸いなことに、比企雄は異世界にて有用となる地球の知識と技術を全く持っていないので記憶を消すデメリットは無いに等しい。

 

「では、中学以降じゃな」

「何だ?」

「何でもないのじゃ。こちらの話じゃ。そんなことよりも時間が無い。早速転生に取り掛か――」


 と、土下座幼女が比企雄の転生に取り掛かろうとした時、ビクッと一瞬震えると、そのまま彼女は前方に倒れた。


「ひっ……」


 土下座幼女の頭には鶴嘴の先端が深々と突き刺さっており、素人目に見てもそれは幼女の脳の深い部分までを貫いていた。

 血液と脳脊髄液を垂れ流しにする幼女が動くことは二度と無かった。

 カツカツ、と誰かが歩み寄る音が聞こえる。比企雄恐る恐る音源へと目を向ける。

 

 そこに居たのは目を見張る美少女であった。

 

 着物と制服とアイドル衣装を絶妙にコラボレーションさせた服を身に纏った空色の長髪の美少女。絶世の美少女と言っても良い程に美しく、比企雄は思わず言葉を失い見惚れてしまう。

 少女は幼女の頭に突き刺さった鶴嘴を抜くと。踵を返して、去ろうとする。

 我に返った比企雄は声を絞り出して呼び止める。


「ま、待てよ!!」

「何?」


 少女は眠たげな表情で比企雄を振り向く。


「お、おれの転生をどうしてくれるんだよ!! お前のせいで!! お前のせいで!!」


 何を言っていいか分からなかったが、比企雄はこのまま去らせてはマズいと言葉を紡ぐ。


「そう」


 少女は一言だけ告げると来たであろう道を戻り始めた。


「待てよ!! お前は一体何者なんだよ!! この前の男といい。俺の転生の邪魔をして何がしたいんだよ!!」

「……」


 少女は比企雄を無視した。


「待て!!」


 比企雄は少女を追いかけようとするが、そこで自分の体の異変に気が付く。

 

「な、なんだこれ!? 消えてるのか!? 何が、どうなって!? ああああああああ!!!!!!!」


 比企雄の体が半透明になり、端から消え始めているのだ。心なしか体が動かし辛くなっている。

 恐怖心から比企雄はパニックに陥った。


「観測者がいなければ肉体を持たない魂は世界に存在することが出来ない。肉体が死亡し、貴方を観測していた異界の神格が死んだ以上、魂は霧散、初期化されて輪廻に戻る……ただそれだけ」


 冷たい声色で、少女は比企雄に告げる。


「お、俺は死にたくねえよ!!」

「そう」

「俺はぁ。俺はぁ!! まだ人として幸せになっていないんだよぉ!! 当たり前の幸せをつかんでいないんだよぉ!!」

「そう」


 表情を変えることなく。少女は相槌を打つ。

 

「お前は!! お前らは!!何なんだよ!?」

「私は異世界転生絶対に許さないマジシャンガール。簡単に言えば、世界のリソースを奪おうとする侵入者を始末する警備員の様なモノ」


 名前からして前にあった異世界転生絶対に許さないマンの仲間なのだろう。しかし、今の比企雄にはそんな事はどうでも良かった。


「何で俺の転生の邪魔をするんだよ!! 良いじゃねえかよ!! 俺が!! 俺自身が!!転生したがってるんだからよ!!」

「貴方の意志は関係ないし、私にその権限はない」

「そう言うのを思考停止って言うんじゃねえのかよ!!」

「そう思いたければそう思えばいい。気が済むまで叫べばいい。貴方にはその権利がある。でも、叫んだところで結果は変わらない」

「待てよ!!」

 

 踵を返して去ろうとする異世界転生絶対に許さないマジシャンガールを引き留める比企雄、彼女は声色に若干の苛立ちを滲ませながらも律義に振り返る。


「何?」


 何だかんだで話を聞いてくれる異世界転生絶対に許さないマジシャンガールは、実は異世界転生絶対に許さない○○シリーズの中で一番優しいのだが、自己本位の考えしか出来ない比企雄はそれに気が付くことは永遠にない。

 

 彼は自分しか見ていないからだ!!だから、両親の変化にも気が付かなかったのだ!!


「何で俺は不幸なまま死ななきゃいけないんだよ!!」

「知らない」

「ふざけんなよ!! 俺の周りの奴らが俺の幸せと努力を許さなかったんだ!! 俺だってちゃんとした親の元に生まれていれば!! 才能があったら!!」

「……そう」


 琴線に触れたのか、異世界転生絶対に許さないマジシャンガールが憐れむ様な目で比企雄を見つめながら、ぽつぽつと語り始める。


「私は、貴方のことを知らない。貴方の人生を知らないから、無責任に努力が足りなかったとか、貴方の不徳を責めるたくはない。私も人に人生を説法するほどに出来た人間じゃないし、私の柄じゃないから」


 しおらしい雰囲気を醸し出した異世界転生絶対に許さないマジシャンガールに対して不謹慎にも、比企雄のアソコが硬くなる。

 凡そ人生で初めて同情的な態度を示されたためか、比企雄も黙って話に耳を傾ける。


「人の不幸や苦痛はそれぞれで、幸せの形が違う様に不幸の形も違うから。貴方にとって特大の不幸があって、そのせいで運悪くこうなってしまったのかもしれない。間が悪かったのかもしれない。貴方だけの責任じゃなかったのかもしれない――」

「そうだ! 俺の不幸は仕方なかったのだ!! 俺は!!俺は悪くねえ!!」

「でも。貴方は何をしたの?」

「え?」

「貴方は、貴方が許容できない現実に対して何かしたの?」

「えっ、いや。あ」


 理解を示してくれた相手からの思わぬ切り返しに、感情に任せた反論にならない反論すら口から出てこない。


「変わらないかもしれない。無様かもしれない。醜いかもしれない。望んだ結果から遠いかもしれない。でも、貴方が今を許容できないないなら、何か行動を起こすしかない。日常のルーチンワークとは異なった何かするしかない。でなければ結果は付随しない。貴方にとって不本意な毎日終わらない」

「でも!!俺は!!」

「貴方の境遇を憐れんで誰かが助けてくれる? そんな奇跡に縋るのは良くない。奇跡は起こらないからこその奇跡。それに貴方は、運が悪く、才能が無いのでしょ? だったら余計にそんな夢物語に縋ってはいけない。残念ながら、貴方はもう自分の足で立たなければならない。ゆりかごから墓場までしっかりと面倒を見てくれる程の完全さは人の社会には無いから。貴方が今のままを許容しないのなら、貴方には貴方自身の足で立つという選択肢しか残されていない」

「うるせえ!! お、お前もお、俺を否定するのか!!」

 

 異世界転生絶対に許さないマジシャンガールの目つきが憐れみの籠っていたそれから鋭くなり、比企雄は恐怖に「ひっ」と声を漏らす。


「貴方がそう思うのならそうなのだと思う」

「俺の不幸は仕方なかったんだよ!! 俺は悪くねえんだよ!! こんな社会に生み落として、俺をこんな目に遭わせた奴らに俺は責任を取って欲しいんだよ!!」

「そう。貴方がそれで良いのならそれで良いのかもしれない」


 言うべきことは言い終わり、異世界転生絶対に許さないマジシャンガールが帰ろうとした時、比企雄に異変が起こる。


 端から消え始めていた比企雄の霊体が元に戻る。同時に、何らかの強制力で下に引っ張られ始めた。


「ん?」

「な、何なんだよ!?」


 異世界転生絶対に許さないマジシャンガールは驚いた顔をして、小首を傾げるが、直ぐに納得して「ああ」と漏らす。


「残念ながら、貴方はまだ死ねてない」

「はあ?」


 比企雄の意識はそこで途切れた。



***



「うあああああ!!!!!!」


 気が付けば、知らない部屋でベッドの上に寝そべっていた。

 心電図モニターや点滴台がある事から、病院だということは容易に分かった。部屋は暗く、窓からは月明かりが差し込んでいる。


「どうなってるんだよ!! 何で俺は病院にいるんだよ!!」


 体の彼方此方から感じられる灼熱感、そして痛み。比企雄は大声で騒ぎながら、一種の譫妄状態になり暴れ出す。

 思いだされるのは土下座幼女神とのやり取りよりも更に前の事。

 今になって思い出したのは、一重に土下座幼女神の思いやりである。

 

――スタンガンで父親に気絶されられた比企雄。

――ガソリンを被る両親と被らされる比企雄。

――燃え盛る我が家。

――炎に包まれながらも謝る母親の姿。 

――火だるまになりながら、家から脱出する自分。


「あああああああああ!!!!!!!!!」


 思い出したくもない記憶がフラッシュバックする。恐怖と、痛み、そしてほんのちょっとの申し訳なさで気が狂いそうになる。

 当直医師と夜勤看護師と共にやって来て、比企雄が意識を落とされるのは10分後の出来事である。

次回予告!!

異世界転生絶対に許さないマジシャンガールの手によってまたしても異世界転生を阻止されてしまった比企雄!!

火傷で障害を負った高齢無職の比企雄に世界は何処までも冷たかった!!家を失った彼にはネットの掲示板に書き込むこともままならない!!

そんな時!! ダンジョンコアを携えた悪魔が彼の前に現れる!!

三度目の正直ぃ!! 今度事異世界転生か!!

歓喜したその時!!

謎の戦士が悪魔を滅ぼしてしまう!!

一体その戦士は何者なのか!?


次回「その名は異世界転生絶対許さないライダー」

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