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幼馴染みの彼女を寝とられたから復讐!しないよ、新しい彼女つくるっつの。

作者:

寝とられ→復讐にあきて、勢いで書き上げました。

 


「ごめんね、ヒカルが悪いわけじゃないの。私が……」


 そう呟きながら目をふせ、目尻に涙を浮かべる幼馴染みのアリサ。

 茶髪のゆるい巻き毛が揺れ、涙がキラキラと反射する。

 薄桃色の小さく可愛らしい唇がつむぐ、謝罪とも言い訳ともいえる言葉。


 細い身体をしならせ、いかにも自分は被害者だと振る舞う姿。

 憎たらしいと思うと同時に、それでもそんな姿をキレイだと思ってしまう自分は愚かだと思う。


 目の前にいる少女はアリサ。

 俺の幼馴染みで、恋人()()()


 結婚の約束もしていたが、仕事に邁進している間に浮気された。

 よくある話だった。


「ごめんなさい、ヒカル。寂しかったの……貴方も好き。でも、あの人も好きなの」


 ―愛しているのは貴方だけ


 そう言わないだけ、彼女は誠実なのだろうか。


 恋人である自分も、浮気相手の男も愛していると。

 悪いのは自分なの、と二人の男の間で揺れるヒロイン気取りの彼女。


 そんな彼女に、俺は別れを告げた。




「え、何。復讐も何もしてないわけ? お前」


 呆れ顔で突っ込んでくるのは、新しい職場の同僚。

 名前はケン。

 同年代という事もあり、すぐに親しくなった。


 アリサと別れてすぐ、俺は職場を退職し、心機一転引っ越してきた。


「復讐して何になるっつーの? 次の彼女見つければいいだけの話じゃね?この世界に女はアリサだけじゃないし、山ほどいるだろ? 内に閉じこもってないで外を見ろよ、外を」


「いや、そりゃそーだけどさ。ムカつかないわけ? 相手の男にも女にも」


「ムカつくよ、当たり前だろ。結婚資金の為に仕事漬けの毎日をおくってたのに、お前は何してんだよ。って思うわ。でもさー、ふと振り返ると、アリサの気持ちもわかるっちゃーわかるんだよね」


 アリサとはお互いが初恋で、初めての恋人だった。

 何もかもが初めて同士で、お互いに手探り状態だった。


 うまくリードできず、女心もわからず、何度もアリサを呆れさせた。


「今回の件もさ、結婚資金の為!で俺は突っ走って、ろくにアリサの話も聞かなかったし、相手もしなかった。休日でもアリサを眠いからって追いやって、デートの一つもしなかった。アリサは、豪華な式や指輪なんて望んでなかったのにな」


 何度も言われた。


 式や指輪なんていらない。

 ただ、一輪の花でいい。

 家族や友人に祝ってもらえればそれでいいじゃないか。


「それを無視して、アリサの為に!で突っ走ったのは俺の落ち度だし」


 アリサの為、結婚式の為。

 それを大義名分に振りかざして、自分の思うままに行動した。

 大切にするべきはアリサだったのに。


「俺は自分の価値観や感情を優先して、アリサの事を何も見てなかったんだよ」


 身体を壊すから、仕事をセーブして。

 お金だけがあっても、ヒカルが身体を壊したら何の意味もない。


 そんな言葉を無視した。

 アリサは自分の仕事をしながらも、俺の心配をし、身体にいい食事を差し入れてくれた。


「なのに、無視され続けて蔑ろにされたら、そりゃ誰でも離れるよな」


「お前がそれで納得してるならいいけどさ。プライドはねーの?プライドは」


「あるか、そんなもん」


 あれだろ。

 寝とられて復讐したいって、自分が馬鹿にされたと感じるからだろ?

 寝とられて、自分が下だと見下されたから、復讐して上に立って優越感に浸りたいんだろ?


 相手だけが悪くて、自分は悪くない!って無理矢理証明するんだろ?

 そして、自尊心を満たすんだろ?


「俺はね、将来結婚して子どもがほしいの。その子どもに、パパは女の人に裏切られたから復讐して、その人の一生を台無しにしたんだよ。とか、言えるか。」


 言わなくても、父親が誰かに恨まれてるとか、そんな業を子どもに背負わせたくないんだよ。

 立派な父親になれるかどうかもわからないし、そもそも父親になれるとも限らないけど、後ろ指さされるような男にはなりたくない。


 復讐してその恨みが子どもに向かったらどうするんだ。

 だったら、俺は復讐なんてしなくていい。


 そんな暇があるなら、一刻も早く未来の妻と子どもに会うんだ。


「というわけで、新たな出会いを俺にくれ!」


「むしろ、俺にくれよ」


 ケンにつれなく振られた俺は、ガックリと肩を落とした。



 仕事を終え、自宅に帰って来た俺は、電気もつけずにベッドに座り込む。

 ギシリと安物のパイプベッドが音をたてた。

 部屋には乱雑に段ボールが積まれている。


 この部屋に越してきて3週間。

 片付けは一向に進んでいない。


『もう、ヒカルってばズボラなんだから』

『ほら、帰ってきたら上着はちゃんとかけるんだよ』

『やっぱり、ヒカルには私がいないとダメだね』


 日々の色々な中で、アリサとの思い出が木霊する。

 生まれたときから一緒だったんだ。

 そんな簡単に、アリサは俺の中から消えてくれない。


 積まれた段ボールを見ない振りをしながら、俺は毛布を頭まで被って眠りについた。



 朝、ウインナーを焼いて食パンに挟み込んだだけの朝食を食べる。

 初めは、こんなのにも苦労した。

 自分で入れるコーヒーは美味しくなくて、ウインナーは焼きすぎて焦がした。


 アリサから離れて、こんなにも彼女に頼りきりだった自分に驚く。

 そして、同時に彼女に申し訳なくなる。


 彼女が入れてくれるコーヒーを、作ってくれた朝食を、弁当を、夕飯を。

 自分は、感謝していたか?

 当たり前だと思ってはいなかったか?


 ろくに、感想なんて伝えなかった。

『美味しい?』そう聞かれても、ろくに返事なんてしなかった。

 彼女も働いていたのに。


 彼女は、二人の為に色々な事を頑張ってくれていたのに。


 感謝も伝えず、それを当たり前だと思っていた自分は何様なのだろう。


 苦めのコーヒーが、傷口に染みた。




「は~彼女ってどうやってつくるんだ?」


「俺が知るか」


 ケンに疑問を投げ掛けたら、切って捨てられた。

 職場の女性は既婚者ばかりだ。

 不倫はノーセンキュー。

 寝とられたからって、寝取り返すのは趣味じゃない。


 雑誌を見たら、街コン、合コン、婚活パーティー等々のっているが……

 彼女を作った手段1位が友人知人からの紹介……


 いねーよ。


 こちらでの友人は、まだケンしかいない。

 地元での友人……

 むしろ、その友人に寝とられたわけでして。


 社交的で、ユーモアに溢れて、思いやりもあって、経済力もあって……というパーフェクトイケメン。ユウ。

 そりゃ、口説かれたら誰でも落ちるわな。


 今思えば、ユウは前からアリサに惚れてたんだろうな。

 他の女より、アリサには細かな気遣いをしていたように思える。


 そりゃ、意中の女が気落ちしてたら慰めるし奪うわ。


 ……アリサより巨乳の女と付き合ってやる!

 SNSを駆使し声をかけまくり、ケンと二人で街コンに出かけ、時にはケンの友人も混ぜ合コンにも参戦した。

 その結果、俺はついに巨乳美女と付き合うことに成功した!


 見ろ、このたゆんたゆんでボインボインな胸を!

 付き合って3ヶ月。

 俺は速攻で振られた。


 その期間は12月~2月。

 わかるだろ?

 俺は、プレゼント要員だったんだよ。

 間抜けなピエロさ。


 だが、俺はあきらめない!

 1度や2度振られたからって、何だって言うんだ!



 半年後。

 俺は肩を落としながら落ち込んでいた。


「まあ、そんな落ち込むなよ。ほら、コーヒーやるからさ」


 ケンにポンポンと肩を叩かれながら慰められる。


 巨乳美女に振られてから、俺は更に二人と付き合った。

 一人には振られて、もう一人は俺から振った。


「あなたといてもつまらない」

 そう言われて振られた。

 いつも車と野球の話を延々とされるのは、苦痛でしかないらしい。

 オシャレな店を全然知らないのもダメなんだと。


「ごめん。」

 そう言って、もう一人は俺から振った。

 何で?そう聞かれたけど、ごめんしか言えなかった。

 だって、言えないだろう。

 彼女の部屋が汚部屋だったから、だなんて。


 俺だって掃除や整理整頓は得意じゃない。

 埃一つないキレイな部屋なんて求めない。

 でも、飲みかけのペットボトルやカップラーメンが至るところに放置されて、その液体に謎の物体が生成されているのは流石に無理。

 足の踏み場もない部屋で物や服をかきわけて、「そこら辺に座ってー」は流石に無理。



 でもまあ、どの女と付き合っても俺は無理なのかもしれない、

 女々しい事に、俺はまだアリサを忘れられない。

 どの子と付き合っても、頭の片隅でアリサと比べてしまう。


 ああ、認めるよ。こんちくしょう。

 俺はまだまだアリサの事が好きなんだよ。

 アリサからのメールも電話の履歴も全部消して、着信拒否しても、アリサが消えないんだよ。


 我ながら、本当に女々しいわ。

 付き合った子達にも悪かったな。

 元カノと比べて、元カノをまだ好きな彼氏なんて。

 何となく、察してたのかもな。


「はぁ」


 ため息をつきながら、ケンからもらったコーヒーを飲み干した。


「苦い……」


 ブラックじゃねーか。



 次の連休で、俺は実家に向かうべく電車に揺られていた。

 実家の母親から出頭命令が下った。


「お正月にも帰省しなかったのに、お盆にも帰ってこないつもり!?」


 ちゃんと帰省しますので、怒らないでください。

 お母様。

 お墓参りも親戚付き合いもちゃんとしますので。


 俺はコソコソと隠れるように帰省した。

 アリサもユウも、その他友人達もいるんだ。

 会いたくない。


 特に、アリサなんて家が隣だ。

 ……会いたいのか、会いたくないのか……


 正直、どちらの気持ちもある。

 でもどうせ、アリサはユウと付き合ってるんだろうし。

 ……二人並んで笑いあっている姿は、やっぱり見たくないな。


 少し離れたところから、アリサの家の様子を伺う。

 ……わからん。

 車があるから、在宅なんだろうか。


 誰もいないすきに!

 ダッシュで目の前を通りすぎ、実家に駆け込んだ。



 すでに親戚は到着しており、昼間からどんちゃん騒ぎが始まっていた。


「おー、ヒカル遅かったな」

「ヒカルちゃん、久しぶりー」

「あらー、ヒカルちゃん。大きくなったわね」


「お久しぶりです、おじさん。おばさん」


「ほら、こっちゃ来て、飲め。」


 無理矢理座らされ、コップを持たされる。


「あら、ヒカル。あんたやっと帰って来たのね! お正月にも帰ってこないであんたって子は」


 台所から、母親の小言がとぶ。


「まあまあ、ヒカルだって仕事が忙しいんだろう」


 横から父親がなだめてくれる。

 ごめん、父さん。仕事はそこそこでした。


「ヒカルもな、いい年だろ。どうだ、そろそろいい子はいないのか?」


 酔った親戚は、こういう事に遠慮がない。


「ほら、あの子とはどうなんだ。アリサちゃん。幼馴染みの」


 グフッ!

 いきなり核心をつかれ、口に運んでいた枝豆が気管に飛び込んでいった。


「ゲホッ! ゲホッ! いや、アリサとはもう……」


 気管に入った苦しさで涙目になりながらも、そこはちゃんと否定する。


「なんだー、あの子はいい子だぞー」


 ……知ってるよ、おじさん。

 俺が一番よく知ってる。


 暗くなった俺の顔に気づいたのか、事情を知っている母さんが助け船を出してくれた。


「ヒカル! あんた飲む前にお墓参り行っておいで! ほら、線香!」


 無理矢理叩き出された。

 もう少し涼しくなってから行こうと思ってたんだが。


 墓はここから徒歩で10分。

 照りつける日差し、ミーンミーンとなく蝉の声をBGMに、俺は歩を進めた。


 道路の脇、少し小高くなったところに墓はある。

 ここら辺の家の墓を集めた墓地だ。

 アリサの家の墓も、ユウの家の墓もここにある。


 暑さでしなびてる花を横目に、俺は線香を取り出す。


「しまった、火を忘れた」


 俺は煙草は吸わないからライターは持っていない。


 あー、ここから戻ってまた来るのか?

 ダラダラと流れる汗が、それは嫌だと訴える。


「ヒカル?」


 背後から、聞き覚えのある声。

 ……って、今の声!


 慌てて振り返ると、そこにはユウがいた。


「なんで、ここに?」


 いや、ユウの家の墓もあるしお盆だし、いてもおかしくないんだよ。

 でもさ、何でこのタイミング?


「お盆だからな」


 ユウも苦笑している。


「久しぶり……?」


 ユウへかけるべき正解の声がわからず、疑問系になる。


「なんで、疑問系なんだよ。久しぶり、ヒカル。」


 相変わらずの爽やかイケメン。

 ムカつくほどに爽やかだ。

 俺が汗ダラッダラなのに、ユウは涼やかな顔をしている。

 なんだ、この違い。


「どうした? 何か困ってるのか?」


「あー、火忘れて」


「そそっかしいな、お前は。ほら」


 ユウが渡してきたのはライター。


「……ありがと」


 受けとるのに若干躊躇したが、ありがたく借りる事にした。

 また、この炎天下の中を歩いてくるのは嫌だ。


 線香に火をつけてから挿し、ライターをユウに返す。

 線香の香りがくゆり、俺とユウを包んでいく。

 ユウも墓参りが終わったらしく、何となく二人で歩き始めた。


 二人とも無言。

 時折吹く風が、線香の香りを運んでくる。


「…………アリサとは、うまくいってるのか?」


「…………」


 ユウは、何も答えない。


「幸せにしてやってくれな。俺じゃ……無理だったから。俺に言われるまでもない事なんだろうけど」


「…………ふぅ。俺に、恨み言は言わないのか? ムカつくだろ?」


「クソイラつくよ。……でも、俺と違ってお前はいい男で、アリサがお前に惚れる気持ちも解るからさ。それに、お前に文句言っても何も変わんない。自分が虚しくなるだけだ。」


 ユウが、足下の小石を思いっきり蹴っ飛ばした。

 放物線を描いて、小石は飛んでいく。


「そんなお前だから、アリサはお前を選んだのかな」


「え?」


 呟いた言葉は、蝉にかき消されてよく聞こえなかった。


「アリサを頼むって、あの言葉な、お断りだ。俺には無理だよ」


「んだと!」


 人から寝とっておいてそれか!


「とっくに振られてる! 付き合ってない!」


「………………は?」


 わけがわからなかった。

 いや、アリサはユウの事も好きだって言ってたし。


「アリサに聞けよ。俺にはわからない。」


「いや、だって、え………………?」


 グルグルグルグルと頭の中が混乱してる。


「ヒカル」


 そんな俺に、ユウが声をかける。


「謝らないからな」


 それは、アリサを寝とった事だろうか。


「アリサに好かれて、それを当たり前だと思ってて、自分の感情優先で、アリサを困らせて悲しませるお前が、昔から大キライだったよ」


 俺も言い返す。


「俺だって、爽やかで、何でもできて、モテまくりで、友人も多くて、誰からの評判も良くて、一緒にイタズラしたって一人だけ怒られないお前の事が、妬ましくて大キライだったよ」


「そっか、お互い様だな」


「ああ、お互い様だ」


 お互いに苦笑しあう。


「またな」


 ユウが俺に背を向けながら手を振る。


 俺も、同じように背を向けながらユウに手を振り返す。


 今すぐには無理だけど、何十年後かに、酒を飲みながら二人でまた話せるんだと思う。


「またな」




「どうしよう」


 俺は自室で電気もつけずに、夜に一人悩んでいた。

 あれから実家に帰宅し、親戚達とどんちゃん騒ぎを繰り広げた。


 酔いがさめ、少し冷静になったところでアリサの事を考える。


 アリサとユウは付き合っていないと言っていた。

 ユウが振られたと。

 それは、俺に少しばかりの望みがあるという事なのだろうか。


 望みが、少しでもあるのなら……


 俺は、自室の窓のカーテンを開けた。

 窓の向かいは、アリサの部屋だった。


 電気がついている。

 アリサの部屋はカーテンではなくブラインドの為、人影は見えない。


 現在の時刻は、夜の9時半。

 アリサの日常が変わっていないなら、まだ大丈夫だろう。

 お気に入りのお茶を飲みながら本を読んでいるか、アロマをやっているか……


 俺は着信拒否を解除し、アリサに電話をかけた。


 1コール

 2コール

 3コール


 アリサは、出てくれるだろうか……


 幾度目かのコールが鳴った後、「はい……」と、か細い声が聞こえてきた。


「アリサ……」


「ヒカル……」


 変わらないアリサの声。

 出てくれたことへの安堵。

 そして、やはり自分はアリサが好きなんだという事を、痛いほど実感した。


 声が聞けて、自分の名前を呼んでくれた事がこんなにも嬉しく、胸が高鳴る。


「急に電話かけてごめん。出てくれてありがとう」


「そんなこと……」


「今、時間大丈夫かな? 出てこれないか? 話したいことがあるんだ」


「……え? ヒカル、今どこにいるの?」


 電話の向こうで、バタバタと立ち上がる音が聞こえる。


「実家の自分の部屋」


 アリサの部屋のブラインドの隙間があく。

 部屋着姿のアリサと目があった。


「久しぶり、アリサ」




「5分待って。下に行くから」


 そう言って電話がきれ、ブラインドはまた閉まった。

 俺は母親にちょっと出てくる事を伝え、すぐに外に出た。

 気がはやって、待ってなんていられなかった。


 きっちり5分後にアリサは出てきた。

 部屋ではアップにしていた髪をほどき、キャミソールに短パンだった部屋着はマキシ丈のシフォンワンピに着替えていた。


 そのワンピースに懐かしさを覚える。

 裾に散らした小花柄がお気に入りだと、よく着ていた。


「急に呼び出してごめん。話があるんだ」


 コクリ、と頷くアリサ。


「少し歩こう? ずっとここにいたら、不審人物だと思われちゃう」


 その誘いで、二人揃って歩き出す。

 どこに向かうでもなく、ただとめどなく。横に並んで。

 二人の距離は離れてる。


 街灯に照らされ、時折車が通り、カエルの鳴き声が聞こえる。

 二人で歩いていると公園についた。

 そこまで大きくはない。

 ブランコ、鉄棒、シーソー、滑り台、砂場。


 小さい頃は、よくここで遊んだ。


「懐かしいね」


 そう言い、アリサは公園内に入っていく。

 珍しい事に誰もいない。

 夏場はよく、夜でも誰かしらいるのだが。


「んしょ」


 アリサは、ブランコに腰かけた。


「小さいね」


「ワンピース汚れるぞ。お気に入りなんだろ?」


 その言葉に、少し驚いたように目を見張る。


「覚えてたんだ」


「覚えてるよ。よく着てただろ?」


「そっか……」


 その声色に、少し嬉しさが混ざっていたような気がするのは、俺の自惚れだろうか。


「……ユウに会ったよ。」


「どこで……?」


「墓。線香持って墓参りに行ったら、ちょうどそこにユウもいてさ。火忘れたって言ったら貸してくれて」


「そっか。ユウくんらしいね」


「そこで聞いた。アリサ、ユウと付き合ってないんだって?」


 どこか緊張したように、アリサが息をのむ。


「なんで? ユウのこと好きだって言ってたじゃん。」


「話さなきゃダメ……だよね……それで、ヒカルを傷つけたんだから


 アリサは、キイキイとブランコを静かに揺らす。


「好き……だと思ったんだよね。でもね、ヒカルと別れて、ヒカルがいなくなって、いつもの日常がなくなったら、急にストーンって気持ちがなくなった。一時の情……だったのかな? そんな気持ちで付き合えないし、ユウくんにも悪いから別れた。」


「ユウは、それでもいいって言わなかった?」


「さすが、よく解ってるね。言われたよ。好きじゃなくてもいいから付き合ってほしいって。」


「でも、無理だった?」


 コクリとアリサが頷く。


「ヒカルを傷つけたんだから、ユウくんは傷つけちゃダメだと思ったんだけど、無理だった。馬鹿だよね、私。ヒカルもユウくんも、二人とも傷つけて終わっちゃった。何がしたかったんだろ、私」


 アリサの正面に回り込んで、ブランコの鎖をしゃがみながらつかんで、うつむくアリサの顔をじっとみつめる。


「ヒカル……?」


「復縁してほしい」


「……は? え、なに言って……え? えぇ?」


 思いもよらない一言だったのか、珍しくうろたえている。


「俺とまた付き合ってほしい。浮気されて別れたけど、アリサの事忘れられなかった。他の子じゃダメだった。」


「いや、私はヒカルを裏切ったし、傷つけたし……復縁なんて……」


「傷つけたのは俺も同じだ。アリサの言う事を全然聞かないで俺の意見だけで突っ走ったし、仕事を言い訳にしてアリサの相手を全然しなかった。アリサが作ってくれたコーヒーや朝食に感謝なんて全然しなかった。アリサは俺を気遣ったり心配したりしてくれてたのに、俺は全然してなかった。アリサだって仕事してたのに……」


 こうやって言ってみると、改めてひどい男だな。俺。


「ずっと、俺はアリサを傷つけてきた……ユウにも言われたよ。アリサの愛情を当たり前だと思ってる俺が大キライだって」


 ユウが、俺を苦々しく思うのも当然だ。


「もう一度チャンスがほしい。アリサが好きなんだ。」


「ダメ……だめだよ……もう一度なんてそんな虫のいいこと……」


「アリサは、俺が嫌いか?」


 涙目になりながら、アリサがプルプルと首を振る。


「わかった。無理にとは言わない。アリサを困らせたい訳じゃないから。もう一度、友達から始めよう。」


「ともだ……ち……?」


「そう、友達。普通に連絡取り合って、一緒に遊んで。そして、もう一度、アリサを振り向かせてみせるから」


 その言葉に、やっとアリサは頷いてくれた。




「お前、馬鹿だろ」


 休み明け、ケンに報告した後の返答がそれだった。


「浮気されて復縁する馬鹿がどこにいるんだよ!」


「ここにいる(エッヘン」


「ドヤ顔うぜぇ……」


 ケンは興味をなくしたように、スマホをいじり始めていた。


「いいんだよ、俺が納得してる事なんだから。幸せだからそれでいいんだ。見てろ、ケン。俺はアリサと復縁してみせる! そして、幸せな家庭を築くんだ!」



 復縁できるかどうかはわからない。

 でも、俺はアリサが好きだから。

 あの時はできなかったけれど、一度失敗した二人なら、違う道を選ぶこともできると思う。


 あの時は解らなかった、お互いの苦労や気持ちを今は知っているから。

 二人でずっと笑っていられるように、また頑張ってみようと思う。


 寝とられたからって、復縁してはいけないなんて、決まってないだろう?



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遺伝子検査必須な関係がまた一つ。
彼氏彼女というまだある程度距離のある関係の時ですら主人公の態度に嫌気が差して簡単に浮気しちゃうような彼女さんですし、きっと結婚後は付き合ってた時より主人公の嫌なところが目につくようになってまた浮気すん…
復縁ものということで、やっぱりコメントは荒れてますね笑 まあまだ結婚してるわけでなし、長年雑に扱われてると思えば他所様にフラフラしちゃうこともあるでしょう。 離れてみて改めて分かる良さもあるし。 友達…
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