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君に、会いたい―春・京都―①



行かないで。


どこに行くの?


ねえ、行かないで。



泰樹は、私のことを無視して先へ先へと歩いていく。



私は必死に足を動かそうとするが、まるで足の裏に接着剤がついているんじゃないかと思うくらいびくともしない。


私は必死に呼び止めようとするが、まるで声帯がなくなったかのように声が出ない。


私は必死に携帯を取り出そうとするが、まるで筋肉がなくなったかのように腕が動かない。


その間にも、泰樹は歩みを進めていき、その背中はどんどん小さくなっていく。



どうして私を置いていくの?


ねぇ、待ってよ。無視しないで!


どうしてこっちを見てくれないの?


どこに行くの…





私から…離れないで…お願いだから…お願い…



-------------------------------------------------------------



ビーッ、ビーッ…


枕元に置いてあった携帯のアラーム音が部屋中に鳴り響く。

私は眠い目をこすりながらアラームを消し、時間をチェックする。

目をこすったとき、頬が涙で濡れていることに気づいた。私、泣いてた…?



何か、悪い夢を見ていたような気がする。



携帯のロック画面には「06:30」と書かれていた。

ロック画面の背景は、春休みに撮った泰樹とのツーショット。


もし今、泰樹が隣にいれば後ろから抱きついて「今日はこのままがいい」といっぱい甘えていると思う。でも今、泰樹は800キロ以上離れたところにいる。

由佳は布団の中で、ロック画面を付けたままの携帯を胸元でぎゅっと握りしめた。


はぁ、会いたいなぁ…会いたい…



-------------------------------------------------------------


「で、そのまま寝坊したと」


テーブルの向かい側でコンビニのシーチキンサラダを食べてる楠木理沙が呆れたと言わんばかりの顔をした。


「やってしまいましたっ、てへっ」


「てへっ、じゃないわよもう…代返はしてあげたけどさぁ、連絡つかないし心配したんだからね?」


由佳はぶりっこ口調でごまかそうとしたが、理沙にしっかりと怒られてしまった。


由佳はアラームを消した後、もう一眠りしてしまった。

1限はサボってしまい、2限の授業も遅刻した。2限の出欠には間に合ったものの、1限は理沙の『機転』のおかげで何とか欠席にならずに済んだ。そして今、お昼休みで食堂に来ている。


理沙は大学1回からの友達で、同じフットサルサークルの仲間でもある。大学でできた友達の中では一番仲良し。学部学科も同じということもあって、いつも一緒に授業を受けていた。


由佳はいつも昼食は学食のランチを食べるのだが、理沙は『太るから』という理由でお昼ご飯はいつもコンビニのサラダを食べていた。そこまでしなくても十分細いのに…と由佳は前々から思っているが、口には出していない。


「2回生なったからって気抜けてるんじゃない?」


「そうかなぁ…」


「今週末新歓もあるんだし、シャキッとしないと!」


理沙が割りばしでテーブルをトントン叩く。確かに、もう先輩なんだもんなぁ…時間の流れは早いものだ。


「由佳、今日の練習行く?」


「行くよー、理沙も行く?」


「あたりまえじゃん!今日はどんなイケメンが来るかなー」


理沙は頬杖をつきながらウキウキしている。理沙だって彼氏がいるのにここ最近ずっと「新入生イケメン来ないかなー」と言っている。


「理沙、彼氏いるでしょ…」


「いいじゃんいいじゃん、目の保養してるだけだから」


理沙は全く悪びれる様子がない。

目の保養してる『だけ』と言ってるにもかかわらずイケメンにすり寄っていくのだから…自分も女だが、女は怖いなと由佳は思った…。


「まあでもどうせほとんどが由佳目当てばっかりだし…つまんないなぁ」


「何よつまんないって…」


「冗談冗談!そばにいる私も恩恵受けてるわけだし!」


理沙はてへへと笑顔を見せる。理沙も十分可愛いし、理沙目当ての男子も十分いるはずだ。


由佳は『モデルみたいな容姿な上にかわいい』(泰樹談)ためか、入学当初から頻繁に連絡先を聞かれていた。由佳はその度に「彼氏いるんでごめんなさーい」と断っていた。


「由佳はいろいろといいよなー、前言ってたけど彼氏と相思相愛だったんよね?うらやましいわ~」


理沙には付き合った経緯など細かいことは言っておらず、『彼氏がいる』『付き合う前からお互い好きだった』としか伝えていない。


「理沙だってそうでしょ?」


「私のところはどうかなぁ、相手社会人だし、そのうち捨てられるかも」


理沙が大げさにシュンと肩を落とす。


そんなこと、絶対思ってないなと由佳は思った。


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