始まりは突然やってきて―春・仙台―②
「…てなわけでごめん、迎えに行けないから夜まで駅でぶらぶらしてて!」
『まじか…まあ、花見はしゃーないな』
電話越しに戸田が納得してくれて泰樹はとりあえずほっとした。
泰樹は帰宅後、福岡にいる高校の時の同級生…戸田雅也に電話をかけ、一連の事情を説明した。
戸田とは同じ部活ということもあってとても仲が良く、泰樹のことを一番に分かってくれていた。
こうやって急に色々なことが起きてもすぐに分かってくれる…さすがだ。いい親友を持ったものだと泰樹は思った。
そんな戸田が仙台に来ると言い出したのは先週のことである。もう少し待てばゴールデンウィーク(GW)が待っているのに「金たまったからそっち行くわ」と急に連絡があり、GW前の土日、一泊二日で仙台に来ることになっていた。久しぶりの再会…と言いたいところだが、春休みに帰省した際に会ったので全く久しぶりではない。
「仙台来る金あるなら東京行ってやればいいのに」
今、戸田は泰樹の幼馴染で東京に住んでいる佐伯亜里沙と付き合っている。
高校三年の受験前から付き合いだしたらしいのだが…自分がそのことを知ったのは付き合って少し経ってからで、詳しい経緯もわからない。何回か戸田や亜里沙に経緯を聞いたのだが、なかなか教えてくれない。
そういえば元々そんなに話す仲じゃなかったのにいつの間にか仲良くなってたし…そんなに隠したいことが…?
『東京はGWに行くわ。何回も会いに行ったらめんどくさいって思われそうだろ?』
「考えすぎ。俺なら会いに行くけどな」
『またまたー、そっちのラブラブ度アピールしなくてもいいですよー』
戸田が電話越しにいじってくる。うるさい…やっぱり「いい親友」ではない。前言撤回。
『で、泰樹は京都行くの?GW』
「そりゃもちろん」
『そういえば由佳が仙台きたことは?』
「まだないかな」
『じゃあ泰樹、浮気し放題じゃん』
「なんでそうなるんだよ…てか俺が浮気するってか?」
あれだけの紆余曲折を乗り越えて結ばれた固くて深い絆…浮気なんて、絶対しない。
『ウソウソ、冗談だって。あれだけのことがあったのに二人が浮気するなんて思えないし』
「だろ?余計なお世話だわ」
泰樹は吐き捨てるように戸田に言った。結構不機嫌そうに言ったつもりだったが、対して戸田は『え、なに、怒ってんの』と笑い出す始末だ…ああもう、そういうお前はどうなんだ?
『…でも、さ』
戸田が急に真剣な声音になった。
「ん、どうした?」
『もしな、もしだけど…』
「さっきも言ったけど浮気はない。周りにも彼女いるって言ってるし」
『いや、泰樹の気持ちを疑ってるわけではないが…』
戸田が一呼吸おいて続きを話し始める…かと思いきや、
『まあ、なんでもないわ!』
「なんだよそれ」
泰樹は拍子抜けした。お笑いならズッコケてるシーン。
『まあまあ、後輩ちゃんみたいにいつまでも追いかけてくるのもいるかもだし、気をつけろってことよ!』
「…それって薫のこと?」
薫とは高校時代の後輩で、泰樹は追いかけられていた…というか、今も追いかけられている。由佳とは部活の先輩後輩関係で、由佳と付き合っていると言っているにもかかわらず未だに連絡してくる。(春休みの帰省でも、どこから聞いたのか泰樹の家の前で待ち伏せしていた)
『そそ!あ、そろそろ亜里沙から電話かかってくるから切るわ!週末よろしく!じゃ!』
「えっ、ちょ、おい!」
戸田は泰樹の返事を聞かず電話を切ってしまった。なんだよもう…まあ、用件は伝えられたから良しとしよう。
泰樹はバッテリー残量が少なくなっている携帯を充電プラグに差すと、シャワーを浴びに浴室へと向かった。