4 初期装備
「さて、どうするか……」
喉から出てくるやたらと可愛らしい声に戸惑いつつも、まずは何をするべきか考えよう。
うん、こんな可愛らしい声で男口調は似合わないな。人と話す機会があったら、見た目相応の話し方をするように心がけよう。こんな状態になっても俺にとってのこだわりは大事だ。
あの後自分があれこれ手塩にかけた外見の幼女になっている事に気づいてしばらくの間、俺は呆然とその場に佇んでいた。
我に返ってからしばらく考えた後、俺の出した結論はこうだ。
「ま、いっか」
よく考えたら、別にそんなに困る事じゃなかった。
いや、さすがにちょっとは悩んだよ? でも、悩んだ所で今目の前にある現実が変わるわけでもない。
イケメンや渋いおっさんにはなりそこねたが、この幼女だってこだわりにこだわりぬいて作り上げただけはあり相当に可愛らしい容姿をしている。
可愛いキャラクターを可愛らしく飾り立てる。たまたまキャラクターに同化してしまっただけで、その楽しみは損なわれた訳ではない。
いいじゃん、美幼女。
かつての俺は、冴えないおっさんを飾り立てても面白くもなんともないという理由でズボラな格好をしていた。
けれど、自分自身が可愛い幼女であるならば別だ。素材が良ければ可愛く飾り立てるのもさぞ楽しいことだろう。
要は、この身は俺の作ってきたキャラクター達と同じなのだ。
気持ちが前向きになってきた所で、もう一つクシャミが出た。
「クシュン……ってそうだ、そんな事よりまずは……服……着なきゃ……」
そういえば、今はそれどころではなかった。
なんせ、ほぼ裸。下着というにも心もとない布面積の、ローライズショーツとブラによって大事な部分がかろうじて隠されているだけで……それ以外はすっぽんぽんの状態で森の中に放り出されているのだ。
これなんて原住民?
「とりあえず、なんでもいいから服、服……」
葉っぱの服でも作るしかないのかと思ったが、そういえば神様から衣装を作る能力を貰った事を思い出した。早速試してみる事にする。
とりあえず、祭壇に生えていた雑草を適当に引き抜いて素材とする。
「えーと……服、服できろ~、服……服になれ~~……」
念じてみるが、雑草が服になる様子はない。
ポーズか? ポーズがあかんのか? 腰に手を当てて指差してみたり、片足で立って身体をぐにゃっと曲げて両手で指差してみたりしたけど何も起きない。
半裸の幼女が謎ポーズで雑草に念を送っているのはかなりシュールな絵面だ……。
「あれー……どうするんだ、これ」
なんか、チュートリアルとかないのかな。服がダメならなんだ? 布? 糸?
そう思いながら雑草を手に取ると、急に雑草が光りだして形を変え、巻き取られた一本の糸になった。
「あー……そういう感じ?」
糸を持った状態で何となくイメージをしたら、糸は光りながら勝手に動き、小さな布切れに変化した。
何というか、一気に衣装が完成する訳ではないのかな。素材から糸へ、糸から布へ、布から服へ……という感じっぽい。
雑草を集めて糸をたくさん作り出し、布になるように念じる。糸は輝きながら宙空に躍り出し、あっというまに織られて一枚の布が出来上がる。
手に触れると、その布の情報が頭のなかに流れ込んできた。
<< 魔力草の布 物理防御:C+ 魔力防御:B- >>
「すごいな、これ……雑草からできてるとは思えない」
適当な雑草から作った布だから麻布とか、せいぜい木綿くらいの肌触りかと思ったのに、この布はむしろ綿に近い手触りをしている。
「ん……なるほど、質感を変えたり染色したりもできるのか」
布を手に持っていると何となくできる事が浮かんできた。衣服としての形に加工するだけでなく思った色に染めることも出来るし、ある程度硬い布や柔らかい布にする事もできるらしい。
もっとも、質感に関しては元の素材の影響が大きく、そこからある程度の変化しかできないようだ。雑草から絹の質感の布を作るのとかは、さすがに無理そうだ。
「なるほど、だいたいわかった」
いけそうなので服を作ることにする。
いつまでも裸で作業する訳にも行かないので、まずは布を集めてローブのような物を作った。ローブ……というより、コートだな。前開きだし。
襟は高めで口元まで隠れる長さ。丈は股下10センチくらいのミニで、前面は開くようになっている所をボタンで留めてある。色は黒にした。
丈の長さに関してだが、布が足りなかったのもあるが……この幼女のこだわりの一つは脚のエロさだ。引きずるような長さのローブで脚を完全に隠してしまうのはコンセプトに反する。だからミニにした。異論は受け付けない。
「よっし、これでとりあえず裸じゃなくなった」
人心地付いたとは言え、現状はまだ裸コート。中途半端に服を着た分、余計に痴女っぽくなってしまった気もする。
それでもさっきまでの半裸状態とは気分的にも雲泥の差だ。周りを歩き回るだけの余裕も生まれてきた。
手の届く範囲にある雑草もたいがい引っこ抜いてしまったので、祭壇の周辺をうろついて素材を集める事にする。
「あ、この蔓いいな。 この樹液も使えるのか、へぇ」
蔓からは草よりも粗い繊維が採れ、樹液はゴムのように加工できるようだ。硫黄とかの化学処理が無くても加工できるのは便利だな。
早速それらの素材を使って新しい装備を作る事にした。
蔓の繊維と樹液を使って粗いキャンバス地のような生地を作成し、ゴム板と組み合わせて膝上まである布地のブーツを作る。
そして糸をより合わせて靴紐を用意し、編み上げた。
靴紐を通す穴には、祭壇の隅に落ちていた金属片から作ったリベットを打っている。打ったと言っても、作る際にイメージしただけだけど。
生足ブーツも悪くないが、折角なので黒タイツも用意しよう。股上の深さはちょっと考えがあるのでローライズ気味にする。
雑草の繊維に樹脂を合成した布を作ったら、伸縮性の有るタイツ生地が出来た。
かなり便利だなこの能力。
これで裸足状態でもなくなり、かなり安心感が出てきた。
が、コートの中が半裸なのはさすがにちょっとどうかと思うので、ブラウスとショートパンツを作成。
白のブラウスにはフリルを多めに採用し、黒のショートパンツはかなり際どいローライズのデザイン。ブラウスの丈はやや短めでおへそは当然出していく。まあコートに隠れるし、ショートパンツにタイツも穿いているからこれくらいでも大丈夫だろう。
飾りの縫い目を付けてみたりして、色気と可愛らしさを両立できるようなショートパンツに仕上げたつもりだ。
ブラウスの胸元にはタイ代わりの赤いリボンをあしらい、リボンにも白いフリルレースを付ける。
うむ、シンプルだがなかなか可愛らしく仕上がったんじゃないか?
あとは、マントみたいな物を羽織ればいいか。これで一通り揃ったかな?
色々作った結果、今の衣装はこんな感じだ。
魔力草のコート
魔力草のリボン
魔力草のブラウス
魔力草のショートパンツ
魔力草のタイツ
魔力草のロングブーツ
魔力草のマント
総合:物理防御:B 魔力防御:A- 敵性魔力による干渉無効・強 呪術無効・強
「うーん、初期装備って感じ」
素材が良いから悪くはないだろうが、イマイチぱっとしない気がする。色も白黒ベースで良く言えばシック、悪くいうと中二病カラーって感じであまりちゃんと考えられていないし。
ただ、性能に関しては悪くない。ただの雑草だと思っていたら魔力草という素材だったらしく、魔力に対する耐性がかなりと高いようだ。そのおかげか敵性魔力による干渉――感覚的には洗脳とか魅了とかそういう状態異常らしい――と、呪術に対する強体制がついている。これはありがたいな。
何にせよ、これで俺にとって最低限の可愛らしさを備えた衣装を完成させる事が出来たと思う。
これなら幼女の見た目に対してみすぼらしい格好……とは思われないはずだ。
さて、この後は何をしようか。そう思った時、
くぅ~~~きゅるる……
と、可愛らしい音がお腹の辺りから聞こえてきた。
「ああ……おなかがすいてきた……」
自覚した途端に空腹感が襲ってきた。どうしようか考えよう……と思った瞬間、ある事に気付いて愕然とした。
「食べ物に関する能力、特に持ってない……」
これは大変にまずい状況だ。
折角最低限可愛らしい衣装を揃えたというのに、このままだと儚くも美しい幼女であるこの俺は、森の中で野草を集め、獣を狩り、血抜きをして肉を焼く……そんな、異世界ワイルドサバイバルに身を投じなければならなくなる。
「それは駄目だ……何とか、何とかしないと」
フリフリの服を着たショーパンタイツの幼女が生焼けの肉に豪快にかぶりつくのは、ジャンルとしてはアリだけど……今の俺のコンセプトとは別属性なんだよ、わかってほしい。
キャラクターを守りたいならばこのままこの森に居てはいけない。銀髪の肉食系ワイルド幼女が爆誕する展開はごめんだ。
とにかく街道か街か村、とにかく人がいて文明的な食事の存在するエリアに移動しなくては――
そんな焦りに突き動かされ、俺は祭壇を後にして森の中を彷徨い始めたのだった。