2 キャラクリエイト
ツリーを開いたり閉じたりして隅から隅まで確認する。
時間をかけて調べに調べた結果、このツールはキャラクターの外見をかなり細かい部分まで調整できる事を確認した。
すごいよ。さっき「目」に関する項目を見たときにも思ったけど、目の傾きやサイズだけでなく虹彩のカラーなんていう細かすぎる項目まで調整できる。
やろうと思えば髪の毛一本ずつ色を変える事すらできるようだ。細かすぎる!
これはアツい。ここまで調整できるキャラクリツールは見たことがない。
「好きなだけ時間をかけて調整してください。あなたの気が済んだら、あなたには力を渡しましょう。それまでに、どのような力が欲しいか考えておいてください」
『何か』の声もあまり耳に入らない。これは素晴らしいツールだ。
早速細かい調整に入る。
パラメータの一時セーブ機能もあるようなので、現状の物をセーブしてからどの程度まで体格をいじれるか試してみたら、制限も殆ど無い事が分かった。現状では少女だが、普通に男性にもできる。時間を忘れてエルフやうさみみ少女を作ってみたり、ムダに渋めの細マッチョなイケメンを作り、これが俺だったらなぁ……と遠い目をしてみたりもした。
メチャクチャ楽しいなこれ。
そう言えば、目の前のキャラクリツールと突然現れた少女に驚いたせいであまり話を聞いてなかったけれど、俺にはこの少女が与えられるらしい。従者のような感じになってくれるのだろうか。ならば……徹底的に俺好み作り上げても問題はないな!
とびっきり可愛い女の子を作ってやろう。
折角だし、転生前に作っていたゲームのキャラクターイメージをベースにしようと思う。
髪は銀髪ストレート、先端をややウェーブさせる感じにする。長さは腰のあたりまでだ。
身長を130cm弱くらいに調整し、胸は控えめに。完全にぺったんこという訳ではなく掌で包み込める程度にはあるが、かなり奥ゆかしいと言えるサイズだろう。
奥ゆかしいバストの下はくびれを強調せず、少しやわらかい感じに抑える。とはいえ完全に寸胴という程ではなく、それなりに艶めかしさを感じる腰つきだ。
太ももはむっちり太め、肩幅狭めの骨盤広め。二の腕は太すぎるとガチで幼児になってしまうのでやや細めに、しかし十分柔らかめに。
手足はこだわりどころだ。ここまで細かく調整できるキャラクリツールはあまりないので燃えてくる。
指は短めに、手全体も小さめに。かといってぷっくりはさせすぎない。「手」と「おてて」の中間くらいを目指すイメージだ。……伝わるだろうか、これ。
膝関節の方向や位置を調整し、自然体がややO脚気味の内股になるように調整。足も小さめにして全体のフォルムを見る。……うーん、ちょっとアンバランスかな。少し調整しよう。
ロリキャラなので、肩口から太ももに至るまでのシルエットを台形がベースになるようにして調整していく。腰周りもフォルムから逸脱しない程度に寸胴気味、それでもくびれと骨盤の色気が無くならない程度に調整するのはさっきやったとおりだ。
……あれ、腰回りを弄ったら今度は膝下あたりに違和感が出てきたぞ。あっち立てばこっち立たず。一旦こっちの調整は置いておいて顔の造形にかかる。
まつ毛長め、眉細めといった鉄板の装飾を施した後、目鼻の調整をする。
瞳は宝石のような真紅。これは銀髪に合わせて最初から決めていた色だ。
二重の深さや目尻の傾き、目の大きさ、黒目の比率といった細部を適当に決めながら全体のバランスをチェックしていく。
顔の造形はやはり難しいな。彫りが深すぎても濃い顔になってしまうし、浅すぎても平安顔になってしまう。ちょうどいい塩梅に落ちるように全てを整えていく。
そういえば、こういうリアル系デフォルメのキャラクターの場合、鼻の造りが悩みどころなんだよな。
コツとしては小鼻にしすぎず、多少ぷっくりさせたほうが愛嬌のある美人顔になる気がしている。ただ、今回はツンとした小鼻になるよう調整した。
銀髪紅眼のお人形さんのような顔なので、愛嬌よりも作り物のような美しさを優先したのだ。
顔の全体を見ながらバランスを調整したり、全体のフォルムの調整をしてから、昼寝をする。今の俺が昼寝できるかどうかは不安だったが、どうやら睡眠を取ることはできるようだ。
別にキャラクリに飽きたわけではない。しばらく同じ顔や身体を見つめ続けていると、ゲシュタルト崩壊を起こしてだんだん今の造形がいいものかどうか分からなくなってくるので、時間を置いてから見るのが大事なのだ。
目覚めてから確認すると、案の定さっきまでは見えていなかったバランスの狂いなどが見えてくる。再び微調整して昼寝を繰り返す。
改めて見ると、お尻は小ぶりでツンと上向きにした方がこのキャラには合うな……。バランスの調整以外にも、こういった部分も時間を置くと見えてくるから不思議だ。
黙々と作業をする俺を、『何か』……もういいや、神と呼ぼう。神様はずっと同じ場所で見ていた。
呆れられたかと思ったが、微笑ましいものを見ているような雰囲気が伝わってきている。少なくとも怒ってはいないだろう。
そんな事をひたすら繰り返して体感で数日が経過した頃、ようやく俺のキャラクリエイトは終了した。
「出来た!!」
目の前にいるのは完璧な美少女。……美幼女? うん、どっちでもいいか。
身長は最終的に130cmちょっとになった。色白の肌には曇り一つなく、透けるような輝きを放っている。
サラサラでふわふわな細い銀髪は眩く輝いており、枝毛の一本もない。
長いまつげに整った顔立ち、今は無表情で目を瞑ているせいか冷たい印象を受けるが、表情テストで笑顔にした時には……愛嬌のある可愛らしい美少女って凄まじいな。とてつもない破壊力を見せた。
開いた瞳の色は真紅。やや眠たげなその虹彩には砕けた宝石のようなオレンジのラメが入っており、覗き込んだ者をさぞ魅了する事だろう。
あまり目立たないが、こだわったポイントの一つだ。
控えめなバストと少しぽっこりしたお腹はいかにもロリキャラといった感じだが、それに反して違和感のない程度に主張する成熟した骨盤、肉感のある太ももは女の色香を十分に漂わせている。
小さな手足は未成熟なように見えて、そこにあるのは子供特有の丸みのある物ではない細くすらっとした指。
シンプルな白い下着を着用していただけだったインナーは、黒地に白いフリルが付いているローライズのショーツと小さなカップの入ったブラに変更した。それぞれのセンターに付いている小さな赤いリボンとフリルの縁に付いている赤い縫い目が可愛らしいワンポイントになっている。
あとは見えない所になるが、大雑把なステータス設定のような物もあった。
大項目としては「魔力」「身体能力」「知覚」「思考」「礼儀作法」「知識」の6つだ。
そのツリーの中にそれぞれ「魔力:火属性」「魔力:水属性」や「跳躍力」「筋力」、「記憶力」「聴覚」といった項目が並んでいる。
この辺りの項目はスライダーも雑に設定されていて、「無-少-並-大-極大」程度の段階しか選べない。
その上、「魔力」「身体能力」の項目については「大」と「極大」の部分がグレーアウトしていて設定できなかった。
制限としてはそれだけで、あとは自由に設定することができた。
普通、こういう項目って限られたポイントを割り振って設定するものじゃないのか? と思いはしたけれど、特にそういう感じでもないらしい。
なので、わりと大雑把に設定した。
「知覚」「思考」「礼儀作法」は大雑把に極大に設定、「魔力」「身体能力」については「筋力」を「少」にして他は「並」とした。
リスクを考えるならば全て今設定できる範囲内で最強にするべきなんだろうけど、これはこだわりだ。
可憐で儚げな美少女が肉体を武器にして普通に戦う……というジャンルはあるけれど、今回のコンセプトはそうじゃない。見た目通り儚げな、身体能力ではなく強大な魔力を武器とする幼魔女なのだ。ここはあえての筋力「少」。
そして「知識」は「言語」のような必要そうなもの、「錬金術」「魔術系統」「植生」といったキャラクターに似合いそう、かつ面白そうな学術知識を「極大」に設定し、他は「無」にした。
世界には知らないものがたくさんある方が面白いのだ。「一般常識」あたりは少し悩んだが、せっかくだし俺と一緒に驚き、悩みながら歩んで欲しい。そう思った。
……あと、なんでか存在した項目としては「女性としての身体機能」に関する設定もあった。
詳しく設定するつもりもなかったので、雑に「並」と「良」あたりに設定したけど……見た目ロリなのに「少(未熟)」と書かれていた部分に設定しなかったのは、うん、俺の心の弱さだと思って欲しい。
いいじゃん、多少そういう方面の期待したって。お察しの通り、元の世界での俺は魔法使いだったんだよ。ワンチャンあるかもしれないだろ。
この辺の葛藤、多分神様にはお見通しだったんだろうなあ……。ちょっと恥ずかしい。
「終わりましたか?」
(はい、終わりました)
完成した幼女を前に、俺はやりきった顔をした。顔、あるかどうか分からないけど。
(完璧なものができました、ありがとうございます)
「いえいえ、とても熱中していましたね。大事にしてあげてください」
(もちろんです)
ここまで細部にこだわったキャラは、これまでに作ったことがないかもしれない。
そういや性格に関する項目がなかったけど、どんな子になるんだろうか。
基本的には従順なんだとは思うけど、少し楽しみだな。この見た目なら多少キツい性格でも全然OKだと思う。反抗とかは……さすがにしないよな?
どう考えても俺よりはこの幼女の方が強いと思うし、最初のうちは完全に依存する事になるだろうから少し心配になる。
(あの、この子が俺に反抗するような事ってありませんか?)
「大丈夫ですよ、そんな事はありえません。完全にあなたのコントロール下になりますので、ご心配なく」
神様はそう言って、多分微笑んだ。なるほど、神様のお墨付きが有るなら安心できる。
それなら、もらう能力もアレで大丈夫そうだ。
「それでは、あなたに一つ能力を授けようと思いますが、どのようなものが良いか考えましたか? もし考えていなければ、じっくり考えても――」
(いえ、大丈夫です。もう決まってます)
俺は、神様にそうはっきりと告げた。