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「梓、どうしたの?そんなとこで」
おばあちゃんが私を覗き込むように言った。
「ん……春を感じてた」
「何言ってるのよ」
そう言うと「まだ、風が冷たいから風邪引くよ。明日は入学式なんだからね」と笑いながら部屋へと戻って行った。
入学式かぁ……と思いながら「は~い」と私は立ち上がってガラガラと縁側の窓を閉めた。
明日の入学式におばあちゃんは来ない。
おばあちゃんらしい優しさ。
私が遠い高校を選んだ理由を、私が話さなくてもおばあちゃんは分かっていたらしい。
でも、それは言って来ない。
高校が遠くて、おばあちゃんは移動が大変だから
入学式には行けないけど、ごめんねと……
私が気まずくならないようにと。
私はおばあちゃんからたくさんの優しさを貰っている。
いつか、私もおばあちゃん以上に優しさを返したい。
そのいつかは……
先伸ばしになんてするんじゃなかった。
思った時にちゃんと言葉にして伝えて
思った時にちゃんと行動しておけば……
泣くだけなんて、何の意味もないのに……