7話 伝説
短くなっております。申し訳ない。
遥か昔、世界の誕生と同時に発生した『黒神』と『白神』
そのうちの1人に《トリックスター》の異名を冠する『ロキ』という黒神がいた。
ロキには3体の子供がいた。
1体目は『フェンリル』
フェンリルは狼系の魔物、魔獣を支配する神で、数々の白神を喰い殺した伝説がある。
2体目は『ヨルムンガンド』
ヨルムンガンドは蛇系、特に水蛇の魔物、魔獣を支配する神で、白神の中でも上位の神《雷霆》の『トール』と相打ちになり死亡し
たという伝説がある。
3体目は『ヘル』
ヘルは《死》を司る神で、死霊系の魔物、魔獣を支配し、『ヘルヘイム』という死者の楽園を作り上げた。
そして、このヘルという神は他の2柱の神とは異なり、自身の後継ぎをこの世に残した。
それこそが現在の黒神の1柱《月光神》、『ルナ』という名の神である。
ルナは母ヘルの教え通り、ヘルヘイムの管理人の任に就いた。
だが、ルナは月日が経つにつれ、ヘルヘイムの外に出てみたいという気持ちが現れ始めた。
ある日、ルナは側近の1人に相談を持ちかけた。
「外に出てみたいから、少しの間管理を変わってくれないか」と。
その側近は最初は渋っていたが、何度も頼み込むうちに折れ、旅支度を整え送り出してくれた。
ヘルヘイムは周りを荒れ狂う海に囲まれた孤島である。
当然、船など出せるハズもない。泳ぐなんてのも論外。
だが、ルナは外に出た。空を飛んで。
彼女は死霊系の能力、《浮遊》を使うことが出来たのだ。
その後、彼女はあらゆる国を回った。
外の世界は未知のことで溢れていた。
常識を知らないルナはひどく浮いていた。
しかし、そんなルナに対して嫌な顔一つせず、丁寧に教えてくれる人が少なからずいた。
当時、領地を巡っての戦争が最も激化していた時代だった。
ルナに対して優しく接していた人も何人も死んだ。
彼らは兵士などではなかった。
普通に生活をしていた領民だった。
ルナは酷く悲しんだ。
彼女は『死』に対しての耐性が全く無かった。
当たり前だ。彼女の身近にいたのは既に死した者達。しかも、敵が存在しない楽園にいたのだから。
死んだ者の中には、ルナを庇って殺された者もいた。
自分は不死なのに・・・。こんな自分を庇うことなんて無かったのに・・・。
当然、その庇った者はそんな事知る由もないのだが・・・。
ルナは目の前の兵士を許すことが出来なかった。
今までは、遠くの地にて〇〇国が滅びたなどの知らせを受けていただけだった。
しかし、今回は目の前でだ。
悲しみよりも先に怒りが湧き上がってきた。
その日、地図から国が1つ消えた。
ただ、ルナも怒りで我を見失っていわけでは無いので、国民には一切手を出さず、侵略してきた兵士全員と、指示を下した国の上層部のみを全滅させた。
それほどにルナの強大だった。
普通、数を相手にした場合、脱走兵や降参する兵などがいるため生き残りがいる。
だが、ルナはそんな隙を許すこと無く一瞬で葬り去った。文字通りの全滅だった。
その一件を最後に、ルナはヘルヘイムに帰還した。
帰ってきたルナは目を赤く腫らし、出発した時のような明るさは無く、酷く沈んでいたという。
あの事件からルナはある力に目覚めていた。
それは《魂を操るスキル》
最初はこの力をよく理解していなかった。
スキルが本当の力を発揮するのは、その力を理解した時だ。
それから長い年月を経て、ルナはその力を使いこなすことが出来るようになった。
その力で彼女はある物を作った。
《昏き慈愛の髪飾り》という大気中に漂う魂を浄化する契約宝具だ。
この力は魂を持っていない死霊系には無効で、輪廻に戻れなくなった魂を輪に戻すという点にのみ作用される。
そして、その戻した数に応じてあることが出来るようになる。
それこそが《魂魄転生》
《魂魄転生》とは、死した魂を肉体ごと取り替え、記憶を持ったまま別人として生まれ変わらせる能力だ。
彼女がそれを初めて行ったのは、サークレットを作ってから数十年後のことだった。
◇◆◇
「え?終わりですか?」
「うん。終わり」
あの後、身体に布を巻いた状態でベッドに寝かされていた俺はいそいそと学生服を着て、アレスタさんに謝りに行った。
まあ、そこでまた色々と聞かれたが転生した以外は素直に全部答えた。
ただ、俺のスキルや使える魔法に関しては一切触れて来なかったので言う必要も無いかと思い喋らなかった。
そこで、寝かされていた部屋に無かった『月光牙』の在り処を聞いたらアレスタさんの部屋にあるから取りに来いと言われ、着いていくとまたそこで今度は刀について聞かれ、分かっていることをこれまた全部話した。
すると、「契約宝具かあ・・・」とか言い出して、急に語り出したのがこの話だ。
正直、ルナさんパネェっす。
・・・ルナが凄いことは分かったんだが──
「中途半端過ぎません?」
そう。中途半端なんだ。
一体誰を転生させたのか。
少なくとも俺では無いだろう。
いや、《魂魄転生》ってのが俺の身に起こったってのは事実なんだろうが、何せこの話はアレスタさんが小さい頃からあるって言ってたし・・・どうにか前のように念話が来ないだろうか。
「あたしもそう思う。でも、これで話が終わってんだよなあ。この話はこの続きは各家によって異なるんだ」
「因みに、アレスタさんの家はどうだったんです?」
「あたしの家はまず読んでもらえなかったから、知らねぇよ」
「え?」
「え?」
「だって、さっきあんなにスラスラ話してくれてたじゃないですか」
「あれはあたしが生涯で読んだことのある唯一の絵本だからな。他の本を読んでない分、この本だけはよく覚えてんだよ」
「何でこの本だけ読んだんですか?」
「読まされたんだよ。卒業課題の1つに読書感想文ってのがあってな?教師がお前は文を読むのが嫌いだから絵本でも読んでろって押し付けたんだよ」
「・・・。因みに、感想文は何て書いたんですか?」
「確か・・・・・・ルナちゃんは強そうですだったかな?」
「教師舐めてんですか?」
「ハッハハ!あんたあの時の教師と同じこと言ってるよ?」
「第3者がこう思うぐらいなんですから、そりゃ言われるでしょうね」
何となくこの人の性格が分かったよ・・・。
オブラートに包むと、愉快な人だね。
ハァ・・・。