5話 入街
修正前には無かった話です。
「まず、吸血鬼の階級は5つに分けられる。上から《真祖》《始祖》《将軍》《眷属長》《眷属》で、絶対的な階級社会になっていて上からの命令は絶対に逆らえないらしい」
「らしい?随分と曖昧だな」
「当たり前だろ。直に吸血鬼にそんなこと聞けるわけねぇし、そもそも吸血鬼はめったに出会えない珍しい種族だ。研究者達の研究もそこまで進んでいない。だから、分かっていることはあまり多く無いんだ」
どうやら俺は珍しい種族らしい。まあ、そりゃそうか、魔族最強の一角とか言われてる種族がそこら中にいたら困るよな。
「じゃあ、俺の階級って分かるか?」
「そうだなぁ。お前はこの森で生まれたのか?」
「ああ、そうだ。あっちの方からここまで来た」
最初に俺がいた方向を指差しながらそう言う。
「まぁ、方角はどうでも良いんだ。問題は生まれた場所がこの森だってことだ」
「この森で生まれたら何か問題があるのか?」
「ああ、ある。この森はな初心者や中堅程度の冒険者で十分相手出来るような魔物しかいねぇんだ。その理由はこの森に漂う魔素が薄いからだ。魔素が薄いとそれを元にして生まれる魔物もそれ相応に弱くなる。つまり・・・」
「つまり?」
「この森で生まれたお前は階級が低く、弱いってことになるな」
「Oh,mygod・・・」
ルナの奴、強くするって言うならそこら辺も考えて転生させやがれ。
「ただ・・・。この森で魔族が生まれるなんて生まれてこの方聞いたことねぇんだよなぁ」
「どういうことだ?」
「さっきも言ったが、この森は魔素が薄い。だが、魔族が生まれるにはかなりの量の魔素が必要になる」
「つまり、こんな所で魔族が生まれるのは不自然ってことか?」
「そういう事だ。しかも、生まれたのが上位魔族の吸血鬼だ。たとえ下級だとしてもやっぱり、生まれるのはおかしいよな」
どうやら、俺は不確定要素を多分に含んだ恐らく下級の吸血鬼ってことらしい。
「そう言えば、吸血鬼は魔族最強の一角って言ってたよな?一角ってことは、他にもいるんだよな?どんな種族なんだ?」
「・・・・・・お前、魔王種って知ってるか?」
「どうしたんだよ急に」
ってか、魔王種って言ったよな。
・・・・・・魔王って種族名前だったのか。
「何かお前、的外れな事考えてそうだな」
「魔王って種族なのか?」
「やっぱりか・・・。そうじゃねぇよ。魔王種ってのはな、種族の中でも優れた力を持ち、周囲の魔物を支配する存在のことを言うんだよ。まあ、更に上に『黒神』ってのがいるがまあそれは良いだろ」
ちょっと今、聞き逃せない言葉があったぞ。
何?ルナって魔王の上位版だったの?すげぇ。
うん?そう言えば邪神とかの事をなんちゃって神様とか言ってたような気が・・・。
この話通りならあいつもなんちゃって神様じゃねぇか!?
「じゃあ、魔王種って言うぐらいだから1人や2人じゃないんだろ?」
「それが・・・魔王種が何人いるかも良くわかってねぇんだよ。ただ、確実にいるとされている魔王の種族は
【吸血鬼】【魔狼種】【妖虫種】【悪魔種】の4種だ」
「そいつらの名前とかって分かるか?」
「あん?名前なんて知ってどうすんだよ?」
「良いから良いから」
「ハァ・・・。まあ、良いか。
まず、吸血鬼の魔王の名前は『サングイス・テネブライ』。別名【紅血帝】で渋面の寡黙な男だ。
次に、魔狼種の魔王は【惨殺皇子】の異名を持つ端正な顔立ちの若い男で本名は分かっていないが、部下からは『グラム様』と呼ばれているらしい。あと、コイツは嗜虐心が強く歯向かった者は後で惨殺死体で発見されているらしい」
「いやいやいや!怖すぎるだろ!何だよそいつ!絶対関わりたくないわ!」
「そりゃなぁ。誰だってこんな奴とは関わりたく無いだろうよ。だが、もし出会った場合は怯えた素振りを見せちゃいけねぇ」
理由は言われなくても分かるよ。嗜虐心が強いんだろ?そんなの嬲り殺されるに決まってんじゃん!
「一度そうして殺された奴がいるらしい。見るも無惨な死体になって発見されたってよ」
ほらね。もう嫌だよ。この世界怖い。
いや、出会わなかったら良いんだよ。
でもなぁ、俺の悪運が言ってんだよなぁ。
俺、そいつと出会う気がする。
「もうそいつの話は良いよ。怖いし。」
「そうか?だがなぁ。残りの2人についてはどれもこれも眉唾物の話ばかりなんだよ。例えば妖虫種の魔王だと、【剣聖】と呼ばれた剣術の達人を瞬殺し、配下に加えただとか、ある国家を影から操ってるだとか、悪魔種の魔王に至っては『黒神』と繋がりがあるだとか、とまぁこんな感じに俄に信じ難い話ししか残ってねぇんだわ。ただ、確実なのは両者ともに美しい女性だという事だな」
黒神と繋がりがあるのが信じ難い、ねぇ。
俺、月光神と繋がりあるんですけどねぇ。
ただ、2人とも美しい女性かぁ・・・。
会ってみる価値が・・・いや、やめとこう。
綺麗な薔薇には棘があると言うしな。
魔王とは基本関わらないスタイルを貫こう。
「お、見えてきたぞ」
「おぉ!・・・お?何か白くないか?」
実は、話し込む前にバルトラから歩きながら話さないか?と言われ、街を目指して歩いていたわけだが・・・・・・。
さっきも言った通り、真っ白なのだ。
何がってそりゃ街全体がだよ。
でっかい外壁が白いのは分かる。
だが、何故門や建物、石畳まで白いんだ。
「そりゃ、白いだろうさ。この街『ロークス』の別名は【白き石灰の街】だからな。こんな辺境の街で唯一自慢できる『石灰の輸出率1位』ってのをアピールしようといつかの領主が作り替えた結果らしぜ?」
「へぇー。よくそんなこと領民が納得したな」
「なんでも最初は反対してたらしいが他に過疎化が進んで若者が少なくなってきている現状を打開する策も無いってことで最終的には折れたらしい」
どこの世界も田舎が抱える問題は似たようなものってことか。
ってか、それだけで若者帰ってくんのか?
「ま、作り替えた後もそこまで著しい変化は無かったらしいが、冒険者組合の支部が建ち、近くに初心者向けの森もあるってのも相俟って少しずつだが人が増え始めたらしい。それに、人が増えれば商人も来るようになる。すると、商人のために道が整備される。とまあ、こんな感じで少しずつこの領地も潤ったって話だ」
「結局、街を白くする意味あったのか?」
「・・・・・・・・・・そこは触れてやるな」
ですよねぇ。結局、人が来始めた理由って元々あった森とギルドのお陰だもんな。
「まあ、そんな訳だからそこそこ人の往来があって今はあんな感じだ」
バルトラの指差した方を見ると、20人程の列と荷物を運ぶ馬車が8組程の2列が出来ていた。
「あの馬車に乗っているのが商人で、周りににいるのが商人の出した護衛依頼を受けた冒険者だ。あっちの列が商人専用で俺たちはあの一般用の列だ」
「あれに並ぶのか・・・」
「何言ってやがる。王都なんかだとこの倍以上の数が並んでいるぞ?今から慣れていた方がいいと思うぞ?」
行列に辟易していた俺にバルトラの追撃が飛ぶ。
「この倍以上だと・・・。確かに今のうちに慣れていた方が良いか」
「お?旅に出る計画があると思っての発言だったが当たったか?」
「ああ。せっかく生を受けたんだし、世界を見て回ったって罰は当たらないだろ?」
ルナからの依頼はそのついでだ。
せっかく異世界に来たんだ、まだ見ぬ物に興味を抱き旅に出るのは自明の理だろう。
「それよりさぁ。俺って門通れるの?」
「そりゃあ、通れるさ。門を通る方法は3つだ。1つは俺のようにこういうカードを門番に見せることだ」
バルトラの手には赤いプラスチックのようなもので出来たカードが握られていた。
「これはギルドに支給されている冒険者カードだ。これによって俺たちはギルドに身分を証明されていることになる」
「それを持ってないやつは?」
「その場合は金を払い門をくぐる。それが第2の方法だ」
「・・・それも無かったら?」
「その場合は魔道具で犯罪履歴を調べられ、問題無ければ仮入街証を配布される。だが、ここまで来ると扱いは客と言うより犯罪者のそれになっちまう。だから、そこまでして入ろうとする奴は少ないな」
おい。早速詰んでないか?
俺は今証明書無し、金無しだ。
犯罪者扱いされてでも入るか?
出来れば普通に入りたい。
あ、そうだ。
「金貸してくんね?」
「・・・・・・忘れてた。そうだよな生まれたばかりの奴が金なんて持ってる訳ねぇよな。仕方ねぇ。恩を返すなら今だな。ホラ、手ぇだぜ」
マジで!?やっぱりオッサンいい奴だよ。
手のひらを上に向けて出した所に、褐色のメダルが2枚置かれる。
「これが金か?」
「そうだ。銅貨と言う一般的に使用されている通貨の1種だ。この他に銅貨、金貨、白金貨がある。銀貨は銅貨と金貨の間に入る硬貨だ。それぞれ100枚でひとつ上の硬貨になる」
もうちょっとどうにかならんかったのか?
99枚しか無かったら交換出来ないんだろ?
無駄に嵩張るだけじゃないのか・・・。
「ほぇ〜。ま、ありがとな。後でちゃんと返すよ」
「いや、返さなくて結構だ。これは、命を助けてもらった礼金だと思え」
「うーん。じゃあ、有り難く頂戴させて貰うよ」
「おう貰っとけ貰っとけ。貰えるもんは貰っとくべきだぜ」
「これで入ることが出来るな。・・・あ!」
街に入ったら入ったで次の問題が起こるじゃん。
「あん?どうした。まさか、また問題発生か?」
「そのまさかでございます」
「どうした。急に敬語になって」
「大変申し上げにくいのですがバルトラ様。私、泊まる宿のお金も払えません。どう致しましょうか?」
そう。金が無い。この問題が解決しない限り、一生バルトラに金を借りなければならない。それは嫌だ。
「今からギルドに登録して、依頼を受けて、宿を取って・・・・・・無理だな。仕方ねぇ、数日俺のところに泊めてやるよ。その間に金を貯めて、宿を取れるようにしたら良い」
「マジで!?助かるよ!ありがとう!」
「おいおい。そんな簡単に乗っかるんじゃねぇよ。言葉遣いは別として、お前は見た目は良いんだ。男の部屋にそう易易と着いていくんもんじゃねぇぜ?」
「は!?お前そんな事を考えてたのか・・・」
「んな訳ねぇだろ?あくまで忠告だ。お前はどちらかと言うと、気心知れた男友達が急に女になっちまったって感じがするからな。全くそんな気は起きねぇよ」
・・・・・・バルトラ、お前すごいな!
何?男が女になるって事案この世界じゃ多発してるの?んな訳無いよね!
「忠告は受け取っておくよ。でも、家には泊めて貰うぞ?」
「分かってるよ。誘ったのはこっちだ」
◇◆◇
「この街に来た目的は何ですか?」
「観光ですね。それと、ギルドへの登録も」
今俺は入街前の門番による簡単な質問を受けている。
ちなみにだが、この門番さんこんな言葉遣いだが、かなりゴツイ強面のオッサンで身体もかなりガッシリしている。
「では、この珠の上に手を置いてください」
「これは?」
「これは使用者の犯罪履歴を表示する魔道具で入街の時はいつもやってもらっているんです」
え?さっきバルトラが犯罪履歴の検査ってカードも金も無い時だって・・・。
チラッとバルトラの方を見る。
「そんな全力で助けて欲しそうな顔でこっちるんじゃねぇよ」
「いや、だってコレ・・・」
「ん?こりゃあ、おいセレーネ。金渡したか?」
「えぇ!?だって、出してくれって頼まれて無いんだぞ?」
「そうか、お前は知らないんだな。普通はな、呼ばれてすぐに金かカードを出すんだよ。そこで、お前はどちらも出さなかったから両方とも持ってないと判断されたって訳だ。そうだろ?」
「はい。仰る通りでございます」
えぇ・・・。そういうことは早く言おうよ。
親切心が足りないよ・・・。
「でもさ、この人犯罪者みたいな扱いしなかったぞ?」
「コイツはいつもこんな話し方なんだよ。どんな奴に対してもな」
「そんなの分かるわけねぇだろうが!」
「はいはい。ここで押し問答してても迷惑になるだけだから、とっとと金出して先に街入ってろよ」
「クソがぁぁ・・・。はいどうぞ」
「あ、はい。受け取りました。どうぞお入りください」
すごく不服だがバルトラの言っていることは至極全うだ。
覚えてろよ。後で文句垂れまくってやる。
恨みがましい目でバルトラを睨みつけるが、ニヤニヤしながら、はよ行けと言わんばかりに手を振っていた。