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不幸の果ての異世界転移  作者: まつたけ
第1章 白き軍の侵食
4/20

4話 邂逅

「さて、何から始めれば良いのやら・・・」


身体を動かすかと決めたは良いものの何から手をつけて良いのやらよく分からない。


「取り敢えず・・・刀でも抜いてみるか?」


何も思いつかなかったので、日本では触ったことも無かった刀に目を移した。


「吸血鬼が刀って意味分かんないよなぁ・・・」


どうでもいい事をグチグチ言いながら刀を抜く。

飾り気の無い真っ黒な刀だが、不思議とそれでも美しいと思えた。そして、その感情は鞘から出てきた刀身を見てより一層大きくなった。


「いい贈り物を貰ったよ」


はたから見たら俺はどう見えているのだろうか?

森の中で黒く輝く刀身を見てニヤニヤしている制服姿の少女。

・・・怪しさ満点だね!!


◇◆◇


それから数時間身体を動かした結果、いろいろなことが分かった。


総じて言えることは身体能力が凄まじい、ということ。


まず、腕力は木をも容易にへし折ることが可能なレベル。最初の方は木の枝などをチョップで叩き折っていたのだが、まだイケるような気がして一気にハードルを上げた結果出来てしまった。


次に、跳躍力だがこれは素直にビビってしまった。

試しに近くにある目測20m強の木の頂上を目標にジャンプしてみたのだが・・・・・・余裕で越えることが可能だった。だが、浮き上がると当然待っているものがある。そう、落下である。これは、ジャンプで木を越えた時以上にビビった。落下というものは、落ちる直前の点が高ければ高いほど地面に着くのが遅くなる。20mの高さから人が生身で落ちるとどうなるか。まぁ、パニックになりますよね?そこでこのセレーネさんはどうしたのかと言いますと―――


「はっ!そうだ、速度を相殺出来れば!」


っというわけで、何となく使い方が分かった俺は

黒炎魔法(インフェルノ)】を下方向へと放ちました。すると、確かに着地は出来ましたよ、着地は。そう、炎なんですよ。まぁ、お察しの通り山火事ならぬ森火事になります。俺、焦ります。


「やらかした〜!!」


でも、冷静になるとふとルナの言っていた言葉が思い出される。

(本人の意思が無いと消えない不滅の炎)

つまり、俺が消えろと思うだけで良いわけだ。

すると、炎はどんどん威力が衰えていき、次第に鎮火した。


「やっぱり黒い炎って不気味だよなぁ・・・」


閑話休題。


話がズレたが、最後は俊敏性。

これは他2つに比べるとどうにも測りにくく、よく分からなかった。取り敢えず、周辺を走ってはみたがコレばっかりは客観的視点で見ないと速い、遅いの判断は難しいだろう。ただ、スタミナは人のそれではない事は分かった。何故なら、この検証に最も時間を費やし、およそ2分の1くらいはずっと走っていたのだから。


◇◆◇


そうやって結果を頭の中で整理していると、何やら微かに獣の声が聞こえた。


『グルオオオオオ・・・・・・!!』


この世界初の生き物の声だった。

どうしようか・・・。魔物だったら嫌だよなぁ。

まぁ、怖いけど俺には【黒炎魔法】があるし、何とかなるだろう。

それに、生き物がいる近くには水がある可能性が高い。ここら辺には川や湖といった物が全く無く、探し回らなくてはならないのかと憂鬱になっていたが、運が良ければ解決する可能性もある。

よし。取り敢えず理由付けも出来たし、行動してみるか。


――――――――――――――――――


よぉ。俺の名前はバルトラ。近くの町『ロークス』で冒険者ってのをやっている。ランクはDだ。

冒険者は国家と独立した『冒険者組合(ギルド)』ってのに所属した一攫千金を狙うロマンチストが多くいる集団だ。

かく言う俺も最初はそういった奴らの仲間だった。だが、結婚し、娘ができると安定した収入が欲しくなってくる。そのため、一度冒険者稼業を休止し、『ロークス』で知り合いのやっている店を手伝ったり、報酬の良かった『魔石灰』の運搬作業で生計を立てていた。しかしそれも、娘が低齢(ていれい)学園に入学するまでだった。娘の入学金を払い終えると俺はもう一度冒険者稼業を再開した。が──


「長期間依頼をお受けになっていないようなので、コチラのギルドカードは無効となっています」


とまぁ、約6年近くの間一切依頼を受けていなかったせいでギルドカードの再発行を余儀なくされ、ランクも最底辺から上げ直し。

まぁ、そもそもそんなに高くなかったからそこまでの痛手では無かったのだが・・・。


そんな俺が何故ここ『ロークス大森林』にいるかと言うと、件のギルドの依頼で《ホーンラビット》を10匹討伐に来ている。

《ホーンラビット》というのは、うさぎの額から数cmの角が1本生えている温厚な性格をしている魔獣で、肉は柔らかく、毛皮は保温性に優れている。

低級冒険者にしてはなかなか稼げる依頼で、簡単で安全なのだ。


◇◆◇



誰だよ簡単で安全とか言ったやつ・・・。


いや、依頼自体は簡単で安全だったハズなのだ。しかし、俺は欲を出してしまった。


3匹目のホーンラビットを狩った近くで、俺はホーンラビットの巣穴を見つけた。

ホーンラビットは集団で穴を掘ってそこに住む性質を持っている。

つまり、ここであの巣穴の近くで待ち伏せをしていれば10匹と言わずその倍くらいの量は獲れる。

そう思い、俺は行動に移した。




それがいけなかった。





『グルルルル・・・』


明らかに草食のホーンラビットとは違う肉食動物の唸り声。

しかも、視認できる範囲にいる。

冷や汗が止まらなかった。しかし、動くわけにはいかない。

俺にはこの唸り声に心当たりがあった。


《ホーンベア》


C-ランクの魔物で、性格はかなり好戦的。

鋭利な爪と尖った長い角を持ち、巨大に見合わずかなり素速い。


「ッ!?」


今、目が合ったような・・・。気のせいだよな。


『グルオオオオオ・・・!!』


「気のせいじゃ無かった!!」


俺は脇目も振らず走り出した。この時の俺の頭の中には既にホーンラビットの巣穴のことなんか残っていなかった。


「うおっ!!」


急に近くの木が目の前に倒れてきて、退路を塞いできた。

だが、こんな所に立ち止まっていては命が危ない。そこで今度は左に──


「なっ!?」


左に向かおうと首を横に向けた瞬間、何かが木を根元付近から切断した。

まさか、


『グルルルル・・・』


腕を振り終えたかのようなポーズをしているホーンベア。


「【斬波】か・・・・・・。とっとと、殺さねぇで退路を塞いでジワジワと・・・いい性格してやがるぜ」


C-ランクというのは、Dランクの冒険者が5人掛りでようやく討伐が出来るレベルだ。

つまり、C-ランクの魔物にDランクの冒険者がサシで挑むなんて自殺行為に以外の何物でもない。

だが、この状況で右に逃げようとした場合はほぼ確実に同じように退路を塞いで来る。


「覚悟を決めるか・・・」


『グルオオオオオ・・・・・・!!』


まったく・・・。安全な依頼のハズがとんだ強敵に出くわしちまったぜ・・・。

セリエナ、アレスタ、俺死んじまうかも知んねぇよ。


「うおおおおお!!」


ホーンベアに負けじと自前の大剣を構えて、声を張り上げ吶喊する。


一番注意しなきゃなんねぇのは、アイツのところまでに【斬波】を撃たれて真っ二つになることだ。

剣でもあの威力なら受けきれねぇ可能性の方が高い。


「来たっ!」


ならば、よく見て避ける。大丈夫、あの速度なら絶対に避けれないってほどじゃない。


『グガッ!?』


案の定、ギリギリだが何とかなった。

この勢いのままアイツにこの剣を叩き込めば──


ガキィィン・・・


「硬っ!?」


硬すぎるだろ!何だよコイツの毛皮!これ肉まで届いてねぇぞ。


「やべ!」


自らの腹の下辺りで蹈鞴を踏んでいる俺へとホーンベアは腕を横薙ぎに払う。


「グハッ!!」


痛てぇ・・・。だが、助かった。爪の方じゃ無かったから被害はせいぜい骨折程度。


「ウッ!こりゃダメだな・・・」


マズイ・・・。左腕があらぬ方向に曲がってやがる。俺の大剣は両手で持ってようやく振るえる程の重量だ。片腕じゃあ持ち上がりはしても、重心が定まらねぇし威力もでねぇ。


「ハハッ・・・自業自得ってヤツか?」


欲を出しちまった自分を思い出すと同時に自嘲の笑みを浮かべる。

まぁ、せいぜい足掻けたかな。無様に逃げ惑って死ぬよりは幾分かマシだろう。

そうこうしているうちにホーンベアは俺を見下ろせる位置に陣取り腕を振り上げる。

俺は少しでも恐怖を和らげるために強く目を瞑った。


ギイイイイィィン!!


いつまで経っても来ない痛みに戸惑い、そして聞こえてきた金属同士の衝突音のようなモノに更に戸惑った。

そっと目を開けると、飛び込んできたのは先程までの荘厳な巨熊とは全く異なる華奢な人間の背中と背中まである長い髪だった。


「大丈夫か?いや、大丈夫そうじゃないな。腕、痛むか?」


目の前の人物の発した高く綺麗な声でその人物が女だと理解した。

それより、なんて言った?大丈夫か、だと。


「おい!嬢ちゃん!こんな所に居ちゃ危ねぇ!ホーンベアが・・・ちか・・・なっ!?」


俺は見た。いや、見えてしまった。

女の子の右手に握られている奇妙な剣の刃に受け止められたホーンベアの爪を。


『グルルルル・・・』


自らの爪が受け止められたことに腹を立てたのかホーンベアは一唸りし、もう片方の腕で女の子に切り裂きにかかった。


「おい!危ねぇぞ!」


俺は未だに横顔を俺の方へ向けたままの女の子に声をかける。


「ん?チッ!こっちには怪我人がいるんだよ。お前に構ってる暇は無いんだ、よ!!」


次の瞬間、イライラした様子の女の子は力任せに剣を振るい、競り合っていたホーンベアの腕を押し返した。


「『黒炎伝導衝波ブレイズコンダクション』!!」


女の子が何か言うと、黒い波動のようなものが放射状に広がりホーンベアを灰も残さず消し去った。

何だ・・・今の・・・。


――――――――――――――――――


声のした方向に着いたが、小動物が通れるくらいの穴以外、特に何も無かった。


「おかしいな・・・。確かここら辺だったよなぁ・・・」


『グルオオオオオ・・・!!』

『うおおおおおお!!』


先程と同じ声のすぐ後に聞こえたのは恐らく人の声。


「第1異世界人発見か?」


人の声を聞いてより一層興味が湧いたので、聞こえた声の方へと向かう。

すると───


「あれ、ヤバくないか?」


デカイ熊に吹っ飛ばされて木に激突する大柄の茶髪のオッサン。

そして、腕を振り上げその鋭利な爪でオッサンを切り殺そうとする熊。

それとは対照的に目に涙を浮かべながらも顔には貼り付けたような笑みを浮かべるオッサン。


目を閉じていくオッサンを見て俺は思った。


「こういうのって普通、ピンチなのは可愛い女の子じゃないの?」


分かってる。明らかに場違いで不謹慎だ。

いや、助けに入りますよ?助けますけど・・・。


実際、心ではぶつくさ言いながらも刀を抜いてしっかりと熊の一撃を受け止めていた。


「大丈夫か?いや、大丈夫そうじゃないな。腕、痛むか?」


一応安心させてやろうと横顔だけ向け、チラッとオッサンを見ながら言うと、とんでもない方向に曲がってしまった腕が目に入った。


当の声をかけられたオッサンは目を見開き、何かブツブツ言っている。


『グルルルル・・・』

「おい!危ねぇぞ!」


言われて熊のいる方向を見ると、もう片方の腕で切り裂こうと振りかぶっていた。


「ん?チッ!こっちには怪我人がいるんだよ。お前に構ってる暇は無いんだ、よ!!」


力任せに腕を振るとそれだけで熊を引き離すことに成功する。

悪いな熊よ。お前をここで放置していたらうかうかオッサンの手当ても出来ない。

だから、俺の考えた中二病全開技でトドメをさしてやるよ。


「【黒炎伝導衝波ブレイズコンダクション】!!」


少し前にイメージした通りに魔法が動くと分かり、そこからヒントを得て作った技なのだが、明らかにオーバーキルだな。これ。


ほらぁ、オッサンも若干びびってるし。

取り敢えず、手当てだな。医療の知識は皆無だが、この世界には魔法という便利能力があるんだ。それに、アテが無いわけじゃない。


「惚けてないでとっとと、腕を治療した方が良いんじゃないのか?」


ちょっとトゲのある言い方になってしまったが、人見知りだから仕方ない。


「あ、あぁ・・・そうだな。それと、助かったよ」

「気にするな。それより──」

「あ、悪い。今手持ちがねぇんだ」

「は?何の話だよ」

「いや、こういう時って普通、金銭を要求されるもんだろ?」


何それ。全然普通じゃ無いんだが。


「金は欲しいことは欲しいが、今は別に要らないよ。俺が言いたいのは、その腕を治すアテがあるのかって事だよ」

「そ、そうか?変わった嬢ちゃんだな・・・。えぇっと、治すアテだったか?ないことも無いが、すげぇ高いんだよ」

「なんなら俺がちょっと見てやろうか?」

「嬢ちゃんが?」


オッサンが怪訝な目を向けてくるが、それよりもさっきから気になっていたことがある・・・。


「ああ、俺がだ。それと、嬢ちゃんって言うな。俺はセレーネだ」


そう。元男の俺からしたら嬢ちゃんって呼ばれるのはどうもむず痒い。


「悪かったな。俺はバルトラって名前だ。それより、じょ──じゃねぇや、セレーネは中位以上のポーションでも持ってんのか?」


ポーション?ポーションって何ぞ?


「ポーション?」

「何だ、ダメじゃねぇか」

「いや、ポーションなんて無くても治せるかも知れないぞ?」

「どうやってだよ。あ、そういうスキルでも持ってんのか?」

「惜しいな。正解は──」


そう言いながら、バルトラに手のひらを向けて魔法を使う。


「お、おい。何をする気だよ!?」

「大丈夫、大丈夫。多分」

「お前今多分って言っただろ!」

「言ってない、言ってない」

「いや、不安しかねぇよ!」


(ここからしばし水掛け論だったので割愛)


ここで、俺のやろうとしていた事を説明しよう。

ほとんど賭けだったが俺、バルトラともに失うものは特に無い。強いていえば時間ぐらいだ。

そこで考えたのが『光魔法による治癒』だ。

何となく光と言うと、回復や治癒といったイメージがある。

魔法はイメージによるところが大きい。

つまり、俺が腕が治るイメージをすると、多分治る。


結果としてその目論見は見事に成功した。

だが、したらしたで次の面倒事がやってきた。



「なぁ、どうやったんだ今の?お前、闇魔法を使ってたから魔族だと思ってたのに、光魔法を使えるってことは違うのか?」

「俺は吸血鬼だから魔族では無いかなぁ」

「何言ってやがる・・・。吸血鬼なんて魔族を代表する最強の一角じゃねえか」

「へ〜。あ、魔族って知られない方がいいと思うか?」

「そりゃそうだろ。魔族のほとんどは人族と敵対しているからな。それに、人族の魔族に対して残忍や卑劣、凶暴ってな感じで良くないイメージを持ってるからな」


マジかぁ。ってか、印象悪すぎるだろ魔族。

何やらかしたらそこまで嫌われるんだよ。


「バルトラはどうなんだ?目の前にその魔族最強の一角がいる訳だが」

「俺か?まあ、俺は客観的な視点で物を見ることが出来ると自負しているからな。種族ごときでビクビクするような質じゃねぇんだ」


おお!バルトラ!お前、思ったよりいい奴じゃねえか!アレだな最近出会った奴ら揃いも揃っていい奴だな。


「ところでよ、さっきの光魔法だが」


光魔法に関しては説明が難しいんだよなぁ。

言える範囲が狭すぎる。ってことで、


「あ、そうだ。この近くに街とかあるか?」


無視を決め込みます。悪いな、言ったところで信じて貰えんだろうし。


「おい。まだ、俺の質問が──」

「俺は生まれたばかりで何も知らん」


バルトラがまだ何か言ってきたので、真顔で言い放ってやった。

それでもなんかブツブツ言っていたようだがそれはもう無視だ。


「じゃあ、せめて階級だ!階級はいくつだ?」

「階級?階級って魔族のか?」

「違う違う。吸血鬼の階級だ。まさか、それも知らねぇのか?」

「当たり前だ。さっきも言ったが、俺は生まれたてだ。知識が全く無い」

「仕方ねぇ。生まれたての赤ん坊さんに博識な俺が教えてしんぜよう」


・・・最近出会った奴らは揃っていい奴らだが、揃ってめんどくせぇな!


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