3話 転生
恐ろしい勢いで投稿してます。
──黒神の間 ──
「随分とくせぇ芝居じゃねえか」
「いつから見てたんです?オルカニス」
薄暗い空間──黒神の間──に2人の男女がいた。
1人は先程月本を異世界へと転生させたルナ。
もう1人はオルカニスと呼ばれた闇を感じさせる黒い翼を背中から生やした端整な顔立ちをした男。
「というより、どうやってこの空間に入ってきたんですか?」
「クッククク、そいつぁ企業秘密ってやつだ。
で?なんであいつを助けた?別に放っておいてもよかったろうに。それに、あんな嘘までついて」
「はぁ・・・。自分は適当にはぐらかすクセにあなたは質問攻めですか。・・・別に嘘は言ってませんよ。白神によって無理矢理進化させられたのも事実ですし、それを哀れに思ったのも事実です」
相変わらず不思議で謎の多い男だと呆れつつも聞かれた事にはしっかりと答えるルナ。
しかし、オルカニスはその回答に満足しなかったのか更に追求する。
「そういうことを言ってんじゃねぇよ。俺が言いたいのは何であたかも偶然選ばれたかのように伝えたのかって事だよ。」
「・・・・・・その事ですか。何ででしょうねぇ。自分でもよく分からないんですよ。何か気を引くものでもあったんですかねぇ」
「例えばだが・・・もし、あの場にさっきのヤツがいない場合──つまり、他のヤツが犠牲になった場合、お前はどう動いた?」
「・・・・・・助けた、とは言えないですね。むしろ、見捨てた可能性の方が高いかも知れません」
「お前がヤツを選ばなかったら、普通に勇者として召喚されたかもしれねぇっていうのに」
「・・・それだけは、何故か嫌だったんですよ・・・」
後半は尻すぼみになり、オルカニスにはよく聞こえなかったが何かを言っているのは分かった。
だが、オルカニスもそれ以上は追求しようとはせず、口を閉ざす。
会話が途切れ、静まり返った中、オルカニスが思い出したかのようにルナに言葉を投げかける。
「男・・・。ん?あ、そういえば・・・。お前言ってねぇだろ」
「え?何をですか?」
「・・・・・・転生後のことだよ」
「・・・ん?あぁ!!忘れてました!!」
「しっかりしろよ。アルカディアの時はそんなこと無かっただろうが」
「・・・後で謝っときますか」
バツが悪そうに頬を掻きながら話すルナに今度はオルカニスが大きく溜息を吐いた。
◇◆◇
知らない天じょ・・・・・・う?
・・・・・・あれ?何で空が見えるんだ?それに、周りに生えている木々。
確か俺は転生したんだよな。そうなると、俺は何処かの家の中にいるのが普通なんじゃ・・・。
異世界転生といえば、赤ん坊から前世の知識を使って強くなり無双的な話が多かった。少なくとも俺の読んだことのあるラノベではそうだった。
では、何故天井が見えない、まるで森のようなところに俺は1人居るのだろうか。
考え得る可能性は・・・捨てられたか、そういう子育ての方法をとる親か。
・・・後者は無いな。いくらなんでもそれは鬼畜過ぎる。例えそうだとしても、母親か父親が近くにいるハズだが、人の気配が全くない。
ってことは、やっぱり・・・・・・
(違います)
「うお!?」
・・・・・・ん?声が変じゃなかったか?声?
あれ?俺今、声を発したよな。
・・・マジかぁ。この世界の赤ん坊は声を出せるのか。
(違います)
・・・・・・まぁ、知ってた。だって、そんな赤ん坊嫌だもん。考えてもみてくれ。生まれた途端、鳴き声ではなく普通に声を発する赤ちゃん。シュールだろ?
(そうですね。確かにそれはシュールです)
・・・・・・。別にお前に同意を求めた訳じゃねえよ。
いや、それなら誰に向かって言ってんだって話だけどな。
(そろそろ落ち着きましたか?私説明したいんですが)
何か納得いかないが現状に若干戸惑っていたことは確かだから落ち着かせてくれたというなら感謝するよ。納得いかないけどな!!
(えぇ、コホン。では、あなたの現状についてご説明します)
スゲェな。あれを普通にスルーするんだ。
(・・・・・・。)
・・・続けてください。
(では、まずコチラをご覧ください)
――――――――――――――――――
名前 なし
種族 吸血鬼
性別 女
年齢 ???
称号 転生者 悪運
『ユニークスキル』
【報酬】 【蓄蔵】
『エクストラスキル』
【全言語理解】
『種族スキル』
【吸血】【幽寂閑雅】
『固有魔法』
【黒炎魔法】
『属性魔法』
【光】
『契約宝具』
邪刀【月光牙】
『加護』
【月光神】の加護
――――――――――――――――――
(これが俗にいうあなたの『ステータス』です)
ナニコレ。ってか、ステータスってこんな感じなんだな。てっきり、レベルとか攻撃力とかも表示されるのかと思ったわ。
(そんなものある訳無いですよ。あぁ、あれですか?あなたの世界にあるゲームと同じように考えてます?)
まぁ、ステータスって言われたら真っ先に思い付くのがゲームだよなぁ。
・・・いやいやいや。なにのんきに「ゲームだよなぁ」とか言ってるんだよ!これじゃあ、現実逃避ととられても反論出来ないぞ。
ハア・・・。ツッコミ所が多すぎてどれから手を付けたら良いのやら。
取り敢えず上から見ていくか・・・。
まず、『名前』。何で無いの?
(転生して姿と魂が変わったからですね)
魂が変わったらどうなるんだ?
(名前というモノは魂に直接刻み込まれているものなのです。そして、その魂が変わるということは名前が無くなることを意味します)
じゃあ、俺の名前どうするんだ?自分で付ければ良いのか?
(駄目ですよ。名前というモノは自分で付けるものではなく付けられるもの。そこで、私が名前を考えてさしあげましょう)
おお!それは助かる。じゃあ、できるだけかっこいい名前を頼むよ。
(任せてください!でも、今のあなたはかっこいい名前よりキレイな名前や可愛い名前の方が似合うと思いますよ?)
・・・・・・止めてくれ。その攻撃は俺に効く。
第一、俺はまだ女になったという実感が無い。それに、キレイな名前ならまだしも可愛い名前は耐え難い・・・。
(そうですか・・・。ああ、その事ですがあなたに謝罪したい事があります)
急にどうしたんだ?
(ええっと、本当は転生前に言う事なんですが・・・転生後は必ず性別が逆になるんですよ。女なら男に、男なら女になってしまいます)
何でそんな大事なこと言わなかったんだよ・・・。それさぁ、タチの悪い金融が契約書を書いてから「金利は60%です」とか言ってんのと変わんないよ?
(うっかり忘れてまして・・・。本当に申し訳ありませんでした)
はぁ・・・。まぁ、いいや。終わったことをグチグチ言っても仕方ないし。それより、名前だ名前。早く付けてくれよ。
(・・・・・・ありがとうございます。名前の方ですが──セレーネ、なんて如何でしょうか?)
セレーネ?確かギリシャ語か何かで【月】を意味する言葉だったっけ?
(そうなんですか?完全に思い付いたモノを言っただけだったんですがね。まぁでも、あなたの元の名前も『月本』ですし良いんじゃないんですか?)
まぁ、割と真面目な名前付けてくれてホッとしたよ。
《個体名:セレーネ・・・・・・登録しました》
・・・何か感情の欠片も無い無機質な声が聞こえたんだが?
(その声は『聖言』と呼ばれるさっき見せたステータスに影響を与える時に本人だけが聞くことができる声です)
何か本当にゲームみたいだな。何とは言わないが『ピカチ〇ウは10万ボルトを覚えたいようだ・・・』みたいなそんなノリのような気がする。
(何を仰っているのでしょうか?馬鹿なこと言ってないでそろそろ起き上がったらどうですか?)
そういえば、仰向けに倒れたままだったなと思い出し、身体を起こしてみる。
(取り敢えず、身体に異常が無いか確認してみて下さい)
異常しかねぇよ!いや、正常だけど異常だよ!
まず、腕細っ!大丈夫かコレ?何か持っただけで折れたりしないよな?
(そんな柔な身体の構造をしている生物なんていませんよ?)
そんなこと分かってるよ!いちいちちゃちゃ入れてくるんじゃねぇよ。
(またまたぁ、静かなった途端寂しくなったとか言い出すのがオチなんですから、ここは大人しく話し相手が出来たと思って我慢して下さい)
ハア・・・。分かったからちょっとだけ静かにしてくれ。
(仕方ないですねぇ。ちょっとだけですよ?)
なんなんだアイツは・・・。喋らないと死ぬ病にでも罹ってんのか?
そんなことより、身辺の確認だと首を振り思考を戻す。
・・・・・やっぱり女なんだよなあ。
以前の俺には無かった下方向への視線を遮る物体を見てそんなことを思ってしまう。
そういえば俺って年齢『???』だが、一体何歳くらいに見えるのだろうか。
(見た目16、7くらいですかね。実際は0歳ですけどね)
ようやく有用なことを言ってくれたよ・・・。
そうか、前の俺と見た目の年齢はそう変わってないか・・・。だが、身長は少し縮んで176cmくらいだったからおそらく169cm程度だと思われる。
服装は何故か俺が着ていた学生服で白のカッターシャツに紺のブレザーにネクタイ、それにズボンである。
髪は日本人の名残なのか黒く、驚くほどにサラサラしていた。
(終わりました?)
ああ、終わったよ。それにしても、『吸血鬼』とか書いてあってが、人間とそんなに変わらないな。少し前より肌が白くなっているくらいじゃないか?
(いえいえ、吸血鬼の特徴に肌の白さは含まれていませんよ?むしろ、どうして光を苦手とする吸血鬼が普通の人と同じ肌の色だったりするんですか?)
言われてみれば確かにそうかと納得する。
そうなると、俺はさっきからすごい日光当たってるんだけど大丈夫なのか?
(その件については問題無いですよ。なぜなら、通常魔族が絶対に覚えることが出来ない『光魔法』を私の力で習得させたので日光による消滅は絶対に起こりません)
・・・神の力すごいな。
(いえいえ、吸血鬼になって一番困ることがそれですからね。サービスですよ)
やっぱりルナは悪いヤツでは無いな・・・。
ただ、ちょっとおしゃべりなのと煽り癖があるだけなのだ。
(そういえば、もう1つのおまけがその辺にあると思うのですが?)
大盤振る舞いだな・・・。お?これか?
辺りを見回してみると、すぐ近くに漆黒の美しい刀が無造作に置かれていた。
(ああ!それです!それです!名を邪刀『月光牙』といって、私のコレクションの1つです。能力は魔法や空気、水などの通常切断出来ないものの切断です。ああ、ちゃんと普通の刀としても使えるので魔法とかしか斬れないというわけではありませんよ?)
何か凄そうなものだが、貰っていいのか?
(ええ。それに、もう契約してしまっているので返品も出来ませんからね)
いつの間にそんなことしたんだよ・・・。
(あなたが眠っている間に済ませておきました)
あっそ・・・。勝手に契約とかして問題が起こっても知らないからな。
(大丈夫ですよ。なるようになります。他に聞きたいことありませんか?)
じゃあ、魔法について教えてくれ。
(がってんです!ええ、まず魔法の種類についてお教えします。魔法は大きく分けて
【元素魔法】と【特殊魔法】、【古代魔法】があります。それを細かく分けると、【元素魔法】は【属性魔法】と【固有魔法】に【特殊魔法】は【召喚魔法】と【特有魔法】になります。【古代魔法】は量が多いので詳しく分けるのは困難です。【精神魔法】や【時空魔法】はこれに含まれますね。ですが、消費魔力が極めて多くこれを使いこなすことが出来る人はまずいないでしょう)
ようするに、属性──炎や水などの自然界に存在するもの──を操る魔法とそれ以外を操る魔法、使用者が極小数の魔法に分けられるってことか。
それで、俺の持っているのは書いてあった通り【黒炎魔法】も【光魔法】も【元素魔法】に分類されるってことか。
(そういうことですね。ちなみに、【黒炎魔法】の能力は不滅の炎で、一度着火すると術者が念じない限り永遠に燃え続けます)
怖っ!!なんでそんな恐ろしい能力授けたんだよ!
(強い能力を授けますって言ったじゃないですか〜)
じゃあ、スキルの方もこんな感じになってるのか?
(いえいえ、魔法が『高火力』なのに対してスキルの方は『万能』をコンセプトに授けましたのでそうはなっていないですよ?まず、【報酬】は倒した相手のスキルや魔法を奪い、【蓄蔵】は道具や武器を異空間に収納し、出し入れ出来る能力となっています。
あとは、種族スキルの【幽寂閑雅】と【吸血】ですが、種族スキルというのがその名の通り種族ごとに持っているスキルで、種族としての格を上げるとスキルも増えます。そして、【幽寂閑雅】は隠密系のスキルで気配を完全に遮断します。次に【吸血】は血を吸うことにより回復力を高め、筋力を増幅させるスキルです)
確かに便利だ。それに、割と強そうだ。
ただ・・・今は必要無いんだよなあ。
(そうですよねぇ。無一文で倒す魔物などもいないければ、血を吸える人間もいない。
あ!ちょ、ちょっとまだ駄目ですぅ!!)
急にどうしたんだ?
(ちょっと時間がまずいんです!あぁ!!切れる!まだお話したかったのに!え、えぇと最後に、これから色々あると思いますが、頑張ってくださ―――)
あ、切れた・・・。騒がしいヤツだったなぁ・・・。なんかすぐにでも再会出来そうな気がするが・・・取り敢えず──
「身体動かそうかなぁ・・・」
そう呟いた俺の声はやはり最初に出した声同様、とても可愛らしい綺麗な声だった。