2話 依頼
2話目の投稿です。
目を開けるとそこは真っ暗な空間だった。
だが、目が見えなくなったという訳では無いようだ。
目の前に手をもっていくとちゃんと見えるし、下を向くと足も見える。
「ここは・・・何処だ?」
「ここは『黒神の間』。私が貴方をここに呼びました」
「うお!?びっくりした!」
背後から急に声をかけられ慌てて振り向くとそこには12、3歳くらいの少女がいた。
真っ暗な空間のハズなのに彼女の姿だけがハッキリと見える。不思議な子だ。
それより、なんだって?黒神?ってことは神?
うーん・・・。普通の少女だ。
「少女って・・・。私一応神様なんですが・・・。分かりませんか?この滲み出る威厳とか?」
威厳なんて微塵も感じないんだが…ってか、何で思ったことバレてんだよ?
まぁでも、自称神様だし、そういうことを出来てもおかしくはない・・・・・・のか?
「で?なんで俺をこんな所に呼んだんだ?それに、他の皆は?ついでに、これからどうなるのかとかも教えてもらえると助かる」
「1度に幾つも聞かないで下さい。それと、自称では無く、れっきとした神ですからね?それも、慈悲と愛情に溢れた【黒神】です」
慈悲と愛情に溢れているか何だか知らんが【黒神】の一言で全部台無しだよ。
言葉のニュアンス的には邪神とかそういうのと同系列なんじゃないかなぁって思うんだけど・・・。
「失敬ですね!あんな神(笑)みたいなヤツと一緒にしないでください!」
「わ、悪かったって。怒んなよ・・・。ってかさ、コッチの質問にも答えてもらっちゃくれんかね?」
「あぁ、すみません。取り乱しました。では、答えましょう。まず、何故あなたをココに呼んだかですが・・・・・・・・・それはズバリ、貴方が“当たりを引いた”からです!」
なんか言ってやがるよ。
だいたい当たりってなんだよ。俺、そんなもん引いた記憶ねぇわ。
「いえ、正確には引いたのが私で当たったのが貴方です。」
「何でそんな引いたや当たったみたいな事なってるんだよ?」
「それがですねぇ・・・。怒らないでくださいよ?」
「あぁ。怒らないから言ってみろ」
「あぁ!それ絶対怒るやつですよね!」
うぜえ。コイツめちゃくちゃうぜえ。
「あれ?そんな態度取るんですか?私はいいですよ別に。貴方が教えてくれって言うから私は教えてあげているんですけどね?」
「・・・・・・・・・もういい。教えてくれなくて結構だ」
「え?えぇ!?そこはごめんなさいって言って再度説明を乞う場面じゃないんですか!?」
「知るかそんなもん。お前に教える気が無いなら無理に聞き出しはしねぇよ」
「ごめんなさい!嘘ですから!怒らないでください!私が悪かったですから説明させてください!むしろ、話させてください!」
「・・・・・・続けろ」
「顔怖いですよ?」
「誰のせいだよ!!」
「オホン。えぇ、何でこんな事になっているかでしたっけ?」
「・・・まぁ、そうだな」
「えぇ。今回のこの召喚劇を作り出した犯人は『白神』と呼ばれる連中で私達『黒神』とついになる存在なんですが。召喚の際にある不具合が生じてしまして」
「不具合?」
「はい。実は『白神』共が異世界召喚をするという情報は仕入れてはいたのですが、当初は何分興味が湧かなかったんです」
「それで?」
「ですが、召喚に対する魔力量が0.5人分足りないと聞いてしまった以上知らぬ存ぜぬではいかなくなってしまいました」
「0.5人分とはどういう事だ?」
「文字通り魔力量が圧倒的に足りてないわけでも充分足りているわけでもない状態です。もし、私があの術式に割り込んでいなければ、貴方は今頃向こうの世界で上半身のみあるいは下半身のみが送られ、そのまま・・・」
「・・・死亡コースだったと」
「はい。ですので、私達は『白神』共の都合で勝手に殺されるのはあまりに可哀想だと思い、こうして助けたわけです」
「なるほど。まぁ、お前らが良い奴だってことは分かったよ。そういえば、何で俺だったんだ?単純に運悪くその0.5人分の所に当たったとかか?」
「いえ。『白神』共は完全にランダムに召喚者を選び始めました。そこで、私達は急いである抽選具を使い無作為に抽出しました。そこで、当選したのが貴方という事です」
「じゃあ、それに当たらなければ今頃俺の代わりに誰かがここに来て、俺はみんなと召喚されてたってことか?」
「確かにそうなります。ですが、貴方は素晴らしい強運の持ち主です。恐らく何度やっても同じ結果になったでしょう」
ガッデム!!なんて事だ畜生!!
前々から運は良くない方だとは思っていたがここまでとは!
「因みに、その抽選具って何だったんだ?」
「新井式廻轉抽籤器です!」
「新井式回転抽選器?」
「まぁ、馴染みのある言葉で言えばガラポンですね。それを回したら貴方の名前が書かれた球がコロコロっと出てきまして」
「人の運命をそんなもんで決めてんじゃねぇ!!」
この後俺はこの神様に人にとって運命とは何たるかを小一時間熱弁してやった。
「ごめんなさい。もうしません。許してください。足がしびれて痛いです」
だいぶしおらしくなってしまったが問題無いだろう。
「あ、そうだ。ついつい熱弁してしまったが、質問の続きだ。みんなは何処だ?まぁ、話の流れからしておそらく『白神』の所、さしずめ『白神の間』か?」
「はい。ですが、もう旅立った恐れもあります」
「そうか。じゃあ俺も行かないとな」
「待ってください!貴方、ここから出る方法ご存知なんですか?」
「・・・・・・・・・くるしゅうない。案内したまえ」
「はぁ。その前に貴方の最後の質問にお答えします。
予め言っておきます。
“あなたに拒否権はありません”
貴方のクラスメイト達はこれから勇者として異世界『アルシオン』に召喚されます。ですが、貴方は全く違うルートから同じ世界に行ってもらいます。彼等が転移なのに対し貴方は転生。つまり、生まれ変わってもらいます」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!何で生まれ変わらないと行けないんだ!?お前の力で俺をみんなと同じように転移させれば良いんじゃないのか!?」
「先程も申し上げた通り、貴方に拒否権はありません。そもそも、私が割り込めたのが転移の寸前。『白神』の魔力を0.5人分浴びてしまっている貴方に更に私の魔力を注ぎ込んだ場合、魔力の無い世界で生きてきた貴方の身体は負荷に耐えきれずこの場で爆散してしまうこと必至でしょう。どうします?ここで死にますか?それとも生まれ変わってクラスメイト達と再会しますか?」
急に声を低くし、鋭い目で睨みつけてくる黒神。
その姿は最初に見たものとは違い威厳に満ち溢れていた。
「・・・俺はまだ生きたい。転生を・・・選ぶよ」
「そうですか。では、サービスです。前世の記憶を引き継いだ状態で転生させることをお約束し、更に私、『月光神 ルナ』の加護を差し上げます」
この時初めて名前を知った少女ルナの声は先程とは違いまるで子を慈しむ母のように優しい声色だった。
「そうか。まぁ、俺の記憶が受け継がれるならみんなに会っても覚えていられるな。」
「貴方も薄々気付いているとは思いますが勇者として召喚される世界はそれ即ち──」
「剣と魔法のファンタジー世界・・・。そして、勇者とは常に対となる存在ももちろん・・・」
「はい、います。そして当然、魔物も。これから行く世界は地球とは違い命がとても軽く、簡単に命が奪われてしまいます。ですが、貴方にはそう簡単に死んで欲しくありません。よって、転生先は強力な個体になるように手を回しておきます」
「所謂チート的な?」
「いえ、そこまであからさまな物ではありません。ですが、努力次第ではどこまでも強くなれる可能性を秘めている、そういった感じの身体です」
「そっか、ズルして強くなっても仕方ないもんな・・・。まぁ、心配するな。育成ゲーは大好きだ。」
「ふふふふふ、頼もしいですね。では、そろそろ送りますか。あ、そうです。ついでにお願いしてもよろしいですか?」
「ん?お願い?」
「はい。貴方も同じクラスに居たのに貴方だけ勇者じゃないなんて不公平でしょう。ですから、勇者としての依頼です。」
「まぁ、死ぬ寸前で助けてもらったんだ。依頼の1つや2つ聞こうじゃないか」
「では、『7体の大罪獣の討伐』を貴方に依頼します」
「大罪獣の討伐?それは何だ?」
7体の大罪獣とは──
<憤怒> <傲慢> <暴食> <嫉妬>
<怠惰> <強欲> <色欲> をそれぞれ司る7体の魔物なのだそうだ。普通の魔物より知力が高く、特別な能力を持っていたり、通常では有り得ない進化を成していたりするらしい。
「その大罪獣を倒す理由とかはあるのか?」
「あります。大罪獣は我々の仲間『7つの大罪』に抵抗する為に『白神』共が作り出した哀れな存在なのです。本来とは別の魔力を外部から直接加えられ変異した生物、それが大罪獣です」
「あぁ、何が言いたいか分かったよ。その可哀想な魔物を解放してやって欲しいって事だろう?」
「お願いできますか?」
「やっぱりお前は良い奴だ。それに引き換え『白神』共には虫唾が走る。安心しろ。この勇者いや、断罪者光牙が責任を持って大罪獣を解放してやる」
「よろしくお願いします。・・・では、そろそろ送りますね」
「あぁ頼むよ」
そう応えたのと同時に足元に黒い魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣の光は俺を包み込み、意識を闇に落としていった。