16話 念動魔法
大変遅くなりました。
ライラちゃんと共同で依頼を受けるにあたり、どうしても確認しなければならない事がある。
それは、ライラちゃんが戦えるかどうか。
いや、白熊を退けたと言っていたから戦えるのだろうが、やはり実際にこの目で見ないと確証が持てない。
「ライラちゃんって何が出来るんだ?」
「ライラで良いですよ。そうですねぇ、どれだけ戦えるか・・・説明し難いですね。あ、ちょっと模擬戦でもしてみますか?」
お?そう来たか。だが、これは僥倖だ。
口で色々説明されるより、戦った方が早いよな。
百聞は一見にしかずと言うし。
「ほっほっほ。血気盛んじゃのう。では、わしが場を整えよう。どれ・・・【精霊結界】」
老の目が赤く光り、俺とライラちゃんを中心に半径50mを薄い膜が覆った。
「これは?」
「精霊結界と呼ばれる上位精霊のみが行使することの出来る断絶空間じゃ。見た目は薄い膜じゃが、本質は実に強固な物じゃ。不安ならば試しに、魔術なり何なり撃ってみるが良い」
「・・・分かった」
やけに自身があるな、ってことはここは威力重視のやつを1発ぶちかましてやるとしようか。
まず【月光牙】に黒炎を纏わせる。そして、魔力をさらに込める。
以前アレスタさんに聞いたことがある。
魔法の威力を左右するのは、魔力量と魔力制御力だと。
魔力制御力は一朝一夕でどうにかなる物では無いが、魔力量の方は、吸血鬼である俺は元々人より多いらしい。つまり、稚拙な魔力制御力を元来より多い魔力量でカバーしてしまえば良いのだ。
魔力を与え続けた炎は黒さを増し、さらに禍々しく揺れる。
「割られても文句言うなよ。【灼炎絶光】!!」
イメージは飛翔する斬撃。しかし、この場合飛ぶのは斬撃では無く黒々と燃え盛る炎。
その炎は音速もかくやというレベルで壁に迫り激突した。激突と同時に結界が音を立て大きく揺らぐ。しかし、それだけだった。
「くそっ!さすが言うだけのことはあるな。まあ、結界が強固なことに越したことは無いか」
「ふぉっふぉっふぉ!危ない危ない。何という無茶苦茶な魔力を込めよったのじゃ。にも関わらず魔力切れどころか息切れすらせんとは・・・。ルナの奴が送り込んで来るだけあって、やはり階級は【真祖】の様じゃな」
何か言っている様だが、ジジイの高笑いがウザ過ぎて何も入ってこない。駄目だ、切り替えろ。
今はライラの実力を確認することだけに専念するんだ。
「あわわ、恐ろしい火力です。あんなの当たったら最後、私なんて灰も残りませんよ・・・」
ふと、ライラの方を見ると・・・こっちもこっちで何やらブツブツ言っていた。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題無い」
「それ、大丈夫じゃ無い時のやつだぞ・・・。ってか、何でそのネタ知ってるんだよ」
「モーマンタイですよ!早く始めましょうか!」
「お、おう。ところで、ライラの得物は?」
「ああいえ、私には必要無いですので、お構い無く」
武器が必要無い?まさか、ライラって格闘術の使い手だとかそういうのか?それにしても、刀に対して無手何て本当に大丈夫なのか?まあ、悩んでいても仕方ないか。
「それじゃあ、始めようか。先手は貰うぞ!」
とはいえ、無策に突っ込むのは自殺行為だ。
ここは様子見に軽めの黒炎だな。
「なるほど。様子見ですね、ではお返しします」
「なっ!?」
突如、放った黒炎は進路を変え俺の方へと帰って来た。
どういうことだ?ライラは黒炎に触れてすらいないんだぞ。
「くそっ!どうなってる!?」
帰って来た黒炎を月光牙で斬り裂き、試しにもう一度黒炎を今度は2発放つ。
「魔法を斬った!?そのような事が・・・。しかし、何発撃とうが無駄なことです。私にその技は通じませんよ?」
まただ。また触れてもいないのに黒炎が進路を変え戻って来る。それも2発ともほぼ同時に。俺も2発を横一文字に同時に斬り裂き、また振り出しに。
「このまま撃って返してを続けても埒が明きませんね。では、こちらからも攻めるとしましょうか・・・【蛇髪天】」
すると、ライラの薄い紫色の髪が蛇へと次々に姿を変えていく。間も無く、俺の目の前のライラは神話に描かれているメドゥーサの姿へとなった。
「いかにもメドゥーサですって風貌だな。
なるほど、確かに武器が要らない訳だ。自分の髪自体が武器になるってことだもんな・・・」
「行きます。【蛇顎撃】!」
「くっ!」
数十匹の蛇となった髪が一斉に押し寄せてくる。
不味い!この量を相手取るとなっては分が悪過ぎる!一気に焼き払おうにもあの正体不明の技に返されては元も子も無い。あ、そうだ。
「【原初の炎】!」
カッコ良く原初の炎などと言っているが、その実イグナイテッドを和訳すると《点火》である。
俺の周りに黒炎が渦巻く。いくら姿が蛇になろうと元が髪だということには変わりない。それが炎に触れようものなら・・・
ブオオオオオ!!
勢い良く燃え、燃えたそばから灰となる。だが、一定の範囲から先に全く火の手が伸びていない。何故だ?いや、よく見ると燃えていないどころか炎の様子がおかしいぞ。何やら炎が石の様に固まって・・・
「まさか!【石化の邪眼】まであるのか!?ありゃ、メドゥーサじゃ無くてゴルゴンの能力じゃなかったか!?」
「何故、邪眼のことを知っているのかは存じませんが、よくも私の髪を燃やしてくれましたね・・・」
「燃やしてくれましたねじゃねぇよ!お前、さっきまでと髪の長さまるで変わってないからな!」
そう、炎による煤や燃えた跡なども全く見受けられないのだ。何だ?分からないことが多すぎる。返ってくる炎に長さが変化しない髪・・・。そして、さっきから全く動かない俺の身体。不思議なことに石化したようにも見えない。
「な・・・に・・・を・・・」
「喋れることに驚きを禁じ得ませんよ。やはり、魔力量の差で完全に支配することは不可能することは叶いませんか」
そうだ。身体の異常ならば光魔法での治癒が出来るかもしれない。だが、試したことは無い。完全にぶっつけ本番である。でも、やらなきゃ負ける!
「なっ!光魔法!?セレーネさんは吸血鬼のハズなのに!?それに固有魔法を既に持っているハズ!」
動揺してるな。だが、お前がそうこうしている内に身体の異常はすっかり良くなったぜ。
「さて、反撃開始だ!」
もう同じ轍は踏まない。ライラの得意とするのはおそらく中距離戦闘。剣の間合いにさえ入ることが出来れば俺の勝ちだ。俺は全力で走り出す。
「突っ込んで来ますか・・・。ですが接近は叶いませんよ!【蛇顎撃・千紫万紅】!」
今度は数十匹の蛇が一斉では無く多段に襲い掛かって来ており、休む暇を与えないつもりのようだ。だが──
「その蛇、あまりに燃え易過ぎやしないか?」
俺は即座に原初の炎を展開し、道を切り開く。
誰だって炎が渦巻いている中に可燃性の高い自身の髪なんて放り込みたく無い。そして、ライラは原初の炎が展開されていないと分かるや否や襲って来た。だが甘い。これくらいの火を点ける程度の魔法ならいくら魔力操作が拙い俺でも予備動作無しで撃つことが出来る。轟轟と燃える蛇の合間をすり抜けるようにして走り抜ける。もう少しで剣の間合いだ。そう思った時だった。
「貴女は重大なことを忘れています。何故、貴女の元に黒炎が戻って来たのか。そのタネ明かしをするとしましょう【念動術・蜘蛛縛り】!」
ライラがそう口にするのと同時にライラの着物の袖口から細長い鋼糸のような物が現れ俺を縛り上げる。
「私のユニーク魔法【念動魔法】。あらゆる物を意のままに操る魔法です。貴女の魔法を返したのも、貴女の身体を動けなくしたのも全てこの力です。チートでしょうか?いいえ誰でも」
「その言い回し止めろ!」
しかしライラの魔法は強力過ぎる。これを相手に勝てって言うのか・・・?この鋼糸も原初の炎を通過出来たところを見るに少しは火には強いようだし。さて、どうしようか・・・。
「貴女の行動は今完全に封印されています。
【念動術・浮遊】!これで終わりです!」
今度は着物の懐から出て来た7本の短刀が刃先をこちらに向けて空中で静止している。さすがにこの原初の炎に鉄を溶かせるほどの火力は無い。しかし、終わりだと言った時ほど、そう簡単には終わらないものだ。
「知ってるか?そう言うの《フラグ》って言うんだぜ?」
何故ライラは原初の炎を操らなかった?今思うとどうしても不自然だ。ライラは言った。自身の魔法はあらゆる物を意のままに操る魔法だと。だが操らなかった。いや、操れなかったとしたらどうだろう?あの魔法には何か制限があったんだ。効果範囲が狭い?確かに、最初に放った黒炎もある1点から急に路線を変更した。しかし、1度操られた黒炎は効果範囲を無視して俺のいた位置まで届いた。それに、急に起きた身体の硬直だってそうだ。効果範囲と思われる範囲を遥かに逸脱している。・・・考えろ。駄目だ、どうしてもあの身体の硬直の件が思考を邪魔する。
まさか!あの自身の告白の中にブラフを忍ばせておいたのか。そして、わざわざ俺にタネ明かしをしたあの言葉。「黒炎を返したのも、貴女の身体を動かなくしたのも全てこのこの力」。では、聞こうか。何故石化の邪眼を使わなかった?いや、実際は使っていたのだろう。おそらく石化したのは目には見えぬ神経か何か。だが、何らかの理由により完全に石化はせず。そしてこの硬直を除外し考えると、導き出される答えは。
「ライラ、お前の念動力の弱点見抜いたぜ。
君の魔法の欠点は《物を操る際、それに使用者がいた場合、その物は使用者から一定以上離れなければならない》って制限があることだろ?」
「ですが、それならば今貴女の身体を拘束している鋼糸や私の周りに浮かんでいる短刀の説明が着きませんよ?」
あ、ホントだ・・・。恥ずかしい!!
鋼糸や短刀の使用者はライラだ。だが、俺の予想では物は使用者から一定以上離れないといけない。ハァ・・・、初心者ながらに頑張って考えたんだがなぁ・・・。
「ふふふ。何て顔をしているんですか。ごめんなさい、私が意地悪でした。貴女の予想は当たっていますから心配なさらないで下さい。ただし、そこに私の魔力を予め通された道具は除外するというものが着くんですけどね」
「えっ!?当たってたの!?そうかぁ、いやぁ一生懸命考えた甲斐あったなぁ」
「そうですね。本当によく分かりましたね」
「おーい!喋っておらんと早う決着を着けたらどうじゃ?」
「老もああ言っていることだ。さて、ラストスパートといこうか【炎火扇動】!」
「くっ!」
原初の炎が種火だとするならば、これは宛ら火柱だ。俺を中心として燃え上がった火柱は鋼糸を焼き切り、熱風でライラを後退させた。そして、拘束を抜け出した俺は瞬時に駆け出し、ライラに接近する。
「【念動術・射出】!」
俺の行く手を阻もうとライラは周囲に待機させておいた、短刀を凄まじい速度で放ってくる。だが、高々7本。構わず突っ切る!
「うおおおおお!!」
飛来する短刀を叩き落とし、時に吹き飛ばす。しかし、全てに対応することは出来ずいくつかは俺を穿つ。痛い。ものすごく痛い・・・。だが、これを我慢すれば・・・。とうとう、俺はライラに剣の間合いまで近づき首元に刀をあてがった。
「・・・負けました」
「そこまでじゃ。この試合、セレーネの勝ちじゃな」
「しゃああああ!!」
勝利が嬉しく拳を突き上げ、声を上げる。
「ふぉっふぉっふぉ。喜ぶのは良いがお主、血塗れじゃぞ?早う回復せよ。痛々し過ぎて見てられんわい」
「ああ、そうだ・・・な・・・」
あれ?何だ?身体が痺れて・・・。
「あ、ライラよ、お主麻痺毒塗りの短刀を使いおったな?」
ええ・・・。何やってくれちゃってんの?
「ラ、ライラぁ・・・」
「はわわわ!?だって、私だって必死だったんですもん!」
必死だったんですもんじゃねぇよ!
お前、模擬戦やったってのに怪我してるの俺だけじゃねぇか!
「普通の人間ならとうにぶっ倒れておるほどの大怪我じゃがな・・・。やはり、吸血鬼は生命力が馬鹿げておるのぅ」
「馬鹿げてます!」
「ライラぁ・・・!!」
新しく2作目を始めたのでそちらの方もよろしくお願いします。
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