14話 事情
「最初の異変は些細なものじゃった。
突如として森の深奥部に現れた白い斑点。
それはまるで、降り始めたばかりの新雪のように、ポツポツと各地に白い跡を残しておった。
このロークスの森には【森主】と呼ばれる魔物が生息しておる。
とは言っても、言葉を話すほどの知能は無いがのぅ。
わしが斑点を最初に見つけた所こそが、その森主の住まう川の上流じゃった。
その斑点には邪悪を神聖で押し固めたような底知れぬ違和感があった。
どうにも気になったわしはこの斑点を研究することにした。
そんな時に現れたのがライラじゃった。
初めは此奴が元凶かと疑いもしたが、会ってみるとどうも違った。
あの斑点のような違和感が無かったのじゃ。
じゃが、怪しかったことには相違無い。
それもそうじゃ。この森には上位魔族が生まれるほどの大量の魔素が存在しないのじゃから。
そこでわしは、ライラを近くに置くことで監視をしようと試みた。
結果として、ライラは無関係じゃった。
ただのイレギュラーで生まれた【ユニーク魔法】持ちの上位魔族じゃった。」
「おい、それ全然『ただの』じゃ無いからな。
一体どんな監視の仕方してたんだよ」
「そんなもの、普段の生活の様子をじっと見つめておっただけじゃよ。当然、水浴びや着替えものぅ。いやぁ、眼福眼前じゃ」
「ただの変態じゃねぇか!?何やってんだよ!
それでよく監視とか言えたな!やってること覗きと変わりないからな!」
「ふぉっふぉっふぉ。ちなみに、お主の尻に敷かれた時もなかなかに来るものがあったぞ?むちっとした柔らかい肉が───」
「やめろぉぉ!」
「まあ、冗談じゃが。まあ、ライラが無関係じゃと決定付けたのは、白い熊に襲われておった精霊をライラが助けたからなんじゃがな」
「何だったんだよ、さっきのやり取りは!」
こいつ、すげえ扱いづらい・・・。
だが、この娘はあの白熊を倒せるほどの実力者ってことが分かった。
あの首を撥ねても死ななかった白熊をだ。
そうなると、俺と同じように全体を消し飛ばすことが出来る広範囲殲滅技を持っているってことだ。
上位魔族でユニーク魔法か・・・。
何か、俺と似たところを感じるな。
「そうそう、あの白熊の正体じゃが・・・」
「え?分かるの?」
「ふぉっふぉっふぉっ。当然じゃ。
あやつの正体は【泥人形】と呼ばれる土塊を使って分体を作り出す魔物じゃ。
ただ、通常種では無く、おそらく【特殊個体】じゃ。大きな違いは生み出す分体じゃ。
通常種じゃと、先程言った通り土塊を使ってる生み出すのがせいぜいじゃが、この森を跋扈しておるクレイマンは例の斑点を分体に変える能力を持っておると思われる」
「じゃあ、そのクレイマンって魔物がその斑点を生み出しているのか?」
「いや、その考えは些か早計過ぎるじゃろう。
おそらくクレイマンは斑点を生み出す何者かの尖兵じゃ。最悪の場合、その何者かがクレイマンを生み出しておる可能性も無きにしもあらずじゃ」
まあ、そう上手く行くわけ無いよな。
しかし、そうなるとクレイマンを倒したとしてもその斑点製造機を倒さない限り、また新たなクレイマンが現れる可能性があるってことだ。
しかし、その斑点製造機の情報が余りに少な過ぎる。
このだだっ広い森を虱潰しに探すとなると、相当な労力と人数が必要になる。
まあ、そういう事は全部ギルマスの仕事だろうし、俺の預かり知らぬところだ。
それに俺はアレスタさんじゃ無い。
俺の仕事は偵察だ。十分に仕事は果たしたと言えるだろう。
「一旦この情報はギルドに持ち帰らせて貰うよ。そこから、冒険者たちでこの森の捜索、元凶の発見、討伐って流れになると思うから。・・・あとは時間が解決してくれるだろう」
「むぅ・・・そうか。じゃが、それは厳しいやも知れぬ」
「どういう事だ?」
「お主はこの精霊の隠れ家をどう思っておる?」
「ん?どう思うって、そりゃ良い場所なんじゃないのか?」
「そうじゃのうて、何故精霊が隠れておるのかという事じゃよ」
「え?ここの精霊ってここが好きで居るんじゃないのか?」
「本来、精霊というものは一所に留まらず思うままに放浪する生き物じゃ。わしは特別じゃとして、こやつらは違う」
「何か理由があるって事だよな」
「左様。それは、この森のどこかにおる斑点事件の元凶の能力じゃ」
「クレイマンを生み出す可能性があるってやつか?」
「それも厄介じゃが、分かっておる能力がもう一つある」
「まだあるのか!?」
今の時点でかなり厄介なのに、更に別の能力があるだと・・・。
ものによっては、返り討ちに遭う可能性があるぞ。
「それは【魔物、魔獣、精霊への洗脳能力】。
事実、この森に訪れた精霊や森に住んでいた魔物が突如凶暴になり、冒険者や同朋を襲っているのが目撃されておる」
「そ、その能力が人間にも効果がある可能性は?」
「無いとは言いづらいじゃろうな・・・」
おいおい。その能力が人間に効くとしたら大量の冒険者が操られ、同士討ちが始まっちまう・・・。
「人海戦術が使えないってことか」
「さて、そこでお主に依頼をしよう」
「だから、今はギルドの依頼を受けてるんだって・・・」
「心配無用。ギルドの依頼のついでのような物じゃから」
「・・・・・・」
いやな予感がする。
「お主にはこの元凶を討伐してもらいたい」
「アレスタさぁぁぁぁぁん!!」
ひょっとしたら、アレスタさんもこんなやり取りがあって殲滅作業に移ったのだろうか・・・。
いや、あの人のことだ。何も考えて無かったのだろう。
しかし、ここで受けてしまったらアレスタさんと同じようにギルマスに小言を言われそうだし・・・。
まあ、良いか。
俺がギルドに戻って人を連れて来てしまったら、被害が広がるだけだ。
それに、俺が洗脳されたとしても俺程度ならどうとでもなるだろう。
「この依頼は2人で当たってもらう。
ライラ、お主とセレーネで当たって欲しい。
セレーネ、ライラのことを頼んで良いか?」
「はぁ・・・。まあ、良いけど」
「よろしくお願いしますセレーネさん。お爺ちゃん、私頑張るからね!」
そう言いながら胸の前で手をグッと握るライラちゃん。
・・・ライラちゃん、可愛い。
まあ、可愛い娘が一緒なら少しはモチベーションも上がるってものだ。
適度に頑張ろう・・・。
種族 蛇王妃
名前 ライラ
性別 女
年齢 ???
称号 【???】【イレギュラー】
【ユニークスキル】
《???》
【エクストラスキル】
《???》《???》
【種族スキル】
《???》《???》
【ユニーク魔法】
《念動魔法》




