11話 報告
俺たちは白熊との遭遇、及び戦闘の報告をするために一旦ギルドへと引き返していた。
「あれ?アンタらさっき出発したばかりだろ?どうした?何かあったのか?」
いくら適当にやっているからと言え、さすがにほんの数十分前に出ていったばかりのAランク冒険者を忘れる門兵は居ない。
そのAランク冒険者が難しい顔をして引き返して来たなら、何かあったと思い尋ねるのは当然の道理だ。
「いや、依頼はきっちり終わらせて来た。だが、少し気になることがあってな」
アレスタさんはその問いに、白熊のことは濁しつつ答える。
それを聞き、門兵は「何かあったら頼むよ」と門兵としてそれはどうなのかと問いたくなるような反応を見せた。
「そう難しい顔をするなよ嬢ちゃん。俺たち衛兵はまともに戦闘訓練を受けていないんだ。ほとんどが一般人と大差ねぇんだよ」
何故胸を張ってそれを言えるのか甚だ疑問だが、どうやらこの衛兵の様子から訓練を受ける気は無いことが分かった。
「それって、もしアレスタさんが暴れだしたりしたらどうするんですか?」
「あたしはそんなことしねぇけどな」
「もしもの話ですよ」
「そうなったら、セリエナさんが止めてくれるんじゃないか?あ、そこでセリエナさんも協力してくれなかったから、この街は終わるね」
いっそ清々しいほどの笑顔でこの街の滅亡を語る門兵。
大丈夫か?この街。つまり、アレスタさん級の魔物が3体以上同時に襲って来た場合、止めれる人が居ないんだろ?
「Aランク冒険者ならもう1人いるだろ?」
「いやぁ、あの人は駄目だ。どうせ、領主に無理言われて動けねぇよ」
どうやら、もう1人アレスタさん級の冒険者がいるらしい。
しかし、領主のせいで動けないらしく数には数えられないそうだ。
「おっと、長話もいけねぇな。後ろが支えてる。悪いな呼び止めて」
「問題無い。しっかり仕事しろよ、給料泥棒」
「ハッハハハ!楽して稼ぐ、これに限るぜ!」
だから、何故胸を張る・・・。
◇◆◇
ギルドの扉を潜ると、辺りは喧騒に包まれていた。
「あれ?俺らが初めて来た時、こんなに賑やかでしたっけ?」
俺たちが来た時、1階にいる人は疎らで寧ろ、閑散としていると言っても相違無いぐらいだった。
それが今はどうだ。主にセラさんのいた真ん中のカウンターを取り囲むように半円状に冒険者たちが群がっている。
「どうなってやがる!」
「ギルドマスターは何を考えているんだ!」
冒険者たちは受付嬢さんに方々から怒号を放つなど、どうやら穏やかでは無い様子だ。
「うう・・・。あ!アレスタさん、おかえりなさい!それと、助けて下さい!」
セラさんが涙目になりながら、助かったと言わんばかりにアレスタさんに笑顔で嘆願する。
「アレスタだと?ようやく気やがったか!」
「おい、アレスタ!お前、魔族を連れてきたって本当か!」
ギクッ!おいおい、この騒ぎの原因俺じゃないか・・・。それにしても、新人の情報ってそんなに早く出回るのか?
「これを見やがれ!」
そう言いながら、冒険者の1人がドンッ!と効果音が付きそうな勢いで俺たちの目の前に突き出したそれ。
「新人冒険者情報?何だこれ?」
貼り紙のような物には、アレスタさんが読み上げた通り『新人冒険者情報』が紙の上部にデカデカと書かれていた。
内容は、新人の名前、性別、身体的特徴、得物、推薦者、そして最後に「魔族だが、悪いやつじゃない。みんな仲良くしてやってくれ」と書いてあった。
・・・何か、転入生みたいな気分だな。
「アッハハハハ!あのギルマス、なかなか面白いことしてくれるじゃん」
「いや、笑い事じゃ無いですって・・・」
「どうなんだ、アレスタ!ここに書いてあることは本当なのか!」
「ほんと、ほんと。んで、こっちがその新人ってわけだ。ついさっきも、依頼を終わらせて来たところだよ」
「テメェか。確かに、身体的特徴は一致するな」
「ちょっと待て。これで何が分かるんだよ」
紙に書かれていた身体的特徴、それは『可愛いと乳がそこそこ大きい』。一体、これで何が伝わると言うのか。
「騒がしいのぅ。これでも書類仕事に情報整理にといろいろ忙しい身なのじゃ。ちと、静かにして貰えんか」
いつの間にやら降りてきていたギルドマスター、チェル二ィが放った殺気により、一瞬にして静まり返る冒険者一同。
だが、一瞬は一瞬でしか無く・・・
「アンタが魔族を冒険者登録しやがったからだろうが!」
「そうだそうだ!丁度いい、真意をお聞かせ願おうじゃねぇか!」
至って正論である。この騒ぎの種を作ったのは貴女ですギルドマスター。
まったく、自分の撒いた種に癇癪を起こすなんてまるで子ども・・・・・・ハッ!?
「ぐふぅっ!」
「お主も学習せぬヤツよのぅ。貴様は自らの首を絞めるのが余程好きだと視える」
一瞬にして距離を詰められ、顔面に回し蹴りを喰らう。
よく、首折れてないよな俺。それにしても、俺に対する扱いがえらく雑なのは気のせいだろうか。
「この程度で斃るような身体はしておらんじゃろう。普通の者に同じことをすると首の骨が砕けておるところじゃぞ?」
「そんな攻撃を罰に使わないで下さい!!」
ほら!アレだけ勢い立っていた冒険者たちも今や憐憫の眼差しを向けてきていますよ!
「うわぁ・・・」
そこ!うわぁとか言わない!呻きたいのはこっちだよ!
「セレーネちゃん!大丈夫?痛くない?」
「うぅ・・・。痛くないわけ無いじゃないですか。このペースだと俺、数ヶ月後生きて無いんじゃないですかね?」
「お主が気を付ければ良い事じゃろう」
「貴女も加減をして下さい!」
「して、お主らは確かそこの吸血鬼を冒険者にしたことを憤っておったのじゃったか?」
話を聞けぃ!もう嫌だこの人!
「あー、そのー、もういいや。何て言うんだ?まあ、頑張れよ嬢ちゃん!」
「強く生きろよ!」
「諦めたらそこで試合終了ですよ」
慰めが痛い!ってか、最後のヤツ何でそのネタ知ってんだよ!どこ情報だ!
「ふむ。張り合いが無いのぅ。とんだ、腰抜けばかりじゃ」
「一段落着いたならちょっといいか?」
「何じゃ、アレスタ。ここじゃ話さぬのか?」
「伝えるだけなら、ここでも出来る。だが、これは話し合いが必要だ。どこか、部屋を貸してくれないか?」
「ふむ。では、妾の部屋に行こう。コイツもついでに連れて行くとするか」
「まあ、セレーネも当事者の1人だしな。異論は無い」
登録1、2時間で何でギルマス室に呼ばれないといけないんだか・・・。
称号【悪運】は伊達じゃないってことか・・・。
◇◆◇
現在、俺たちはギルマス室にてちょっとした茶会のようなことをしている。
並びとしては、俺とアレスタさんが3人掛けのソファに座り、テーブルを挟んで向かいの同じく3人掛けのソファにチェル二ィさんが座っている。
お茶を一口含み、喉を潤したアレスタさんがまず森で何があったかを報告した。
「そのような魔物、見たことも聞いたことも無いのぅ。突然変異かそれとも、新種か。伸びる腕に首を落とされても行動する生命力・・・何とも奇っ怪じゃのぅ」
「ああ。だが、あれは何つぅか生き物じゃ無いような気がするんだよなぁ」
「ほぅ?じゃが、その魔物はお主の魔力感知がしっかり捉えたのじゃろう?」
「うーん・・・。あ!そう言えば、あいつの魔力の感じに似ている魔物が居たな」
「それを先に言わぬか。して、その魔物とは?」
「《魔導石像》と《スライム》とかが1番近いと思う」
「意思無き生命体、【魔導生物】か・・・。」
「アンノウンって何です?」
知らない単語が出て来た。
あれかな?めざめるパワーのみ覚えるアルファベットの形をした・・・。絶対違うね。
「お主が的外れなことを考えているのは理解出来た。【アンノウン】とは、意思を持たずただただそこに存在する生物の総称じゃよ。魔素から生まれることから一応魔物と定義されてはいるが、生態も行動の理由も全く分かっておらぬの」
そんな魔物とあの白熊が同系列だと。
言われてみれば、あの目は虚ろと言うより生命の光が宿っていないと解釈した方がしっくり来るような気がする。
「どちらにせよ、そのような魔物が他に居らぬとも限らぬ。森の警戒を引き上げる必要がありそうじゃな」
「だがよ、もしあれが出た場合、倒す方法は跡形も無く吹き飛ばすしかねぇ。そんなことが出来る冒険者なんて・・・」
「・・・ん」
ん?何ですか。何で俺を指差しているんですか?
「ピッタリな人材がここにおるではないか」
「いやぁ、それはさすがに酷じゃないか?」
「何ですか!俺を放置して話を進めないで下さいよ!」
「ギルマスは、あんたを森に駐在させて、森の動向を観察。もし、白熊が出たら発見次第殲滅させようって腹らしい」
「嫌ですよそんなの!その間の飯とかどうするんですか!」
「いや、そこじゃないだろう」
「心配要らぬ。魔族は魔素さえあれば、飯を取らずともある程度はもつと聞く。じゃから、安心して行ってくるといい」
「それは、あんまりですよ!せめて、飯代は下さい!保存食買って来ますので!」
「ふむ。では、こうしよう。お主に今からギルドから指名依頼を出す。その報酬から準備費を差し引き、先に渡しておく。残りは達成した時に渡す。これでどうじゃ?」
「まさか、あんた依頼も出さずにセレーネを扱き使う気だったのか!?」
「妾を何だと思うておる。端から依頼は出すつもりじゃったわ。じゃが、こやつが所持金0という予定外なことが起きてのぅ。余計な手筈を踏まなければいけなくなったというだけの話じゃよ」
すみません。財布空っぽで申し訳ありません。
その財布すら持っていなくてすみません。
けど、仕方ねぇよコンチキショー!
いきなり転生させて、金も持たさず森に放り込んだ悪魔が居るんだもの!