拾われ勇者
「緊急防災無線、緊急防災無線。魔物が村を襲撃中!大変危険です!これから繰り返す地区の方々は今すぐ避難してください!命を失う恐れがあります!ザンボイ地区、下シロガナス地区、中央地区……」
燃え盛る村役場を背に、コルビン以下50人の職員と村人が駆ける。
「進め!敵を恐れるな!」
力の限り叫んだ。逃げてくる村人達を収容しながら50人の戦士達は燃える村の中を進んだ。逃げ惑う村人を尻目にどんどん敵の方角へと走る。時折敵魔物に遭遇したが、せいぜい数体程度であり主に農民達の怒りのクワによって頭蓋を粉砕された。
「畑作業で鍛えたクワの味、思い知るがいいべ!」
「厄介な木の根に比べれば魔物の頭くらいちょろいもんだ!」
などと物騒なことを嘯いている。
「村を守るんだ!」
「許すまじ魔王!」
少数だが敵を蹴散らしていることで否応なく士気は高まっている。しかし村役場から西のルンツ地区へ入る一本道はくすぶる瓦礫で埋まっていた。一人ならいざ知らず、50人ともなるとこのような道は進めない。
「逃げてきた村人や職員の話を総合するに、敵の主力は一旦村中心部から離れ、西のはずれザンボイ地区にいる模様!」
「ルンツ地区を通るのが一番の近道だが……しかし抜け道があったはず」
「抜け道も見て見ましたが、倒木があちこちに散乱し著しく通行困難です!」
コルビンは嫌な予感がした。こちらが通る道が限定されているようだ。
「どうしたものか」
ここで別働隊およそ10人と合流。警邏部の部長であるサイクスが下ウェンデン地区の視察から戻ってきていたのだ。
「コルビン殿!ここは通れぬ。少し遠回りになるが下シロガナス地区から参ろう」
「どうも匂うのです。敵の罠かもしれない」
「しかし、このまま座して待っていては田畑が荒らされ無辜の村人が殺されるだけ。下ウェンデン地区もすっかり焦土と化しておった。コルビン殿、進むのが上策だ!」
コルビンは考える。このままサイクスの口車に乗ってしまっては危険だ。こちらにも相当の死傷者が出ることを覚悟しなければならない。しかし敵地での仲間割れは絶対に避けなければならない。苦渋の決断を迫られた。
「……わかりました。下シロガナスへ参りましょう。そこからザンボイ地区へ。村の土地からすべてのモンスターを駆逐せねばなりません」
誰かが進撃のラッパを吹いた。集団が一つの生き物のように進みだす。どのみち敵モンスターとの会戦は避けられない。罠ならば突き破るのみである。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ」
少しばかり西に進んだところで、なにやら先頭が騒がしくなった。
「コルビンさん、人が倒れてるぞ!」
「うら若き女性だべな。しかしこの村のモンではないな」
長い髪の女性だった。しかし上から下まできっちりよろいで身を固め、おまけに背中に佩いている刀はなかなかのものである。
「う……」
「気が付いたようだ」
「旅の剣士さん、ここは危険です。村の東側はまだ安全なので、あっちへ逃げてください。なんでしたら職員も同行させましょう」
「あ、あたしは……」
「?」
きょとんとした大きな目がコルビンに向けられている。
「あたしは、誰?」
……
村の東側は比較的戦火を免れていた。ヴィスワはアカリ姫や他の非戦闘員と一緒に避難を続けていた。
「コルビンさん……大丈夫かな……」
「大丈夫!あいつはそう簡単に死ぬような奴じゃないから」
「そうですか?!」
つぶやきを人に聞かれたことにどぎまぎしつつヴィスワは振り向いた。アカリ姫の屈託のない笑顔がそこにあった。
「見くびりすぎだよ。みんなで敵地に向かったわけだし大丈夫だよ」
「……それならいいのですが……」
「コルビンは往生際が悪いから安心せい」
「あ……父上」
担架で運ばれているのは村長である。彼は生きていた。たまたま通りかかった警邏部の職員が割って入り、敵ボスの注意を逸らすことに成功したのだ。
「部長がいなければ今頃どうなっていたか」
少し前を歩いていた巨大な干草用フォークを担いでいる男が村長を振り返った。
「しかし間に合って良かった。何せ村長はこの村の総大将ですからな」
そしてこの人こそ今頃コルビンと行動を共にしているはずのナシフ村警邏部部長、サイクスその人だったのである。




