勇者一行の生き残り
室内は重い空気で包まれていた。勇者のパーティが一人を除いて全滅したと知れれば、村の滅亡は時間の問題である。
「こうなったらもういっそ村民全員で移住しますか。もっと安全なところへ……」
「そうじゃなあ……」
「ん、なんだか外が騒がしいですね」
役場の受付から声が聞こえてくる。
「ちょっと、放しなさい!わたしを誰と心得ているの?!」
「まあまあそう言わずこらえてくださいよ。関係者以外立ち入りはお断りしているんですよ」
「あーもううるさいわね!入れろったら入れるのよ!」
ひと悶着起きているようだ。それ自体は役所では日常茶飯事で特段何事もないことなのだが、今回は違った。どうやら若い女性が押しかけてきているようなのだ。コルビンは気になった。
「ちょっと見てきます」
そんなコルビンから何かを感じ取ったのか、村長ものこのこ付いてきた。そして何故かインメルマインも付いてきた。事務の女の子もだ。ちょっとした大名行列だ。
「あなたは、アカリ姫じゃありませんか」
え?と応対に当たっていた職員がコルビンの方を向く。村長はその職員を張り倒した。「瞬間湯沸かし器」インメルマインも倒れた職員に追撃を加えた。
「こ、コルビンさん、今見ましたよね?これは立派な暴行罪では?」
「馬鹿モン!お前こそ不敬罪でクビじゃ!」
アカリ姫。それは村を救った勇者のパーティで唯一の生き残りだった。大きな目をぱちくりさせ、ようやく話のできる責任者が現れたかと安堵の表情を浮かべた。しかしすぐ目を吊り上げぷりぷり怒り出した。
「ちょっと、コルビン!なんでこの下っ端はわたしが中に入ろうとするのを邪魔するの!?」
「すみません、姫。こいつには後からよく言い含めておきますんで」
「それで、お姫様が何故こんなしなびた村役場に?」
「へっへーん」
とアカリ姫は腰に手を当て笑いかける。コルビンは真剣にその行動の意図するものがわからず、何故か一筋の冷や汗を流した。
「今困ってるんでしたわよね?」
「そりゃあもちろん魔王城ができてから年がら年中困ってますよ。何か手助けでもして頂けるんですか?」
「ご明察!わたしはブリギット王国の第一王女だってことは知ってるわよね?」
「はあ。王宮暮らしに飽きて2年前に飛び出してきたところまで知ってますけども」
「そう!それでこんな辺鄙というのすらおこがましい超弩級ド田舎までやってきたんだけど……」
「はあ」
「わたしを村役場で雇いなさい!」
「えっ!!!」
さっきの冷や汗はこれだったのか、とコルビンはまた冷や汗を流した。
「しかしどの部署に?まさか警邏部に入って戦いの中で勇者一行の恨みを晴らそうとかお考えではございますまいな、アカリ姫?」
「助役付けということで」
「へっ???」
「臆病者」コルビンは再び汗を流した。今度は一筋で済むような代物ではない。なかなか帰国を言い出さないなと思ったらそんなことを考えていたのか。
「ねえいいでしょお村長?わたしがここの助役付けになれば、この村はブリギット王国の後ろ盾を得たも同じことなのよ」
「い、いやわしはもちろん否はないのじゃが、何故またそんなお考えをお持ちになりましたのじゃ?」
「どうせ村の外は強い魔物がウロウロしてるし帰れないし。だったらやりたいことしたほうがいいじゃない?」
姫の言葉に抗うことができるものがいるはずもなく、結局アカリ姫は助役付けということでコルビンの元にねじ込まれた。
「よろしくね、コルビン♪」
「はあ……」
何故か楽しそうなアカリ姫とは対照的にコルビンとしてはただただ困惑の二文字であった。




