敗北
ここは意思を持つ機械が生きる世界「ウロヴァス」そこは、機械人間が暮らしている。その世界で最も広く大きな街「アルティア」は人口約3000万人で工業が非常に発達していた。しかし、街発展のために採掘場を求めて争う戦争が絶えず起こっていた。その戦いはいつも悲惨な結果に終わる。二度と攻撃してこないようにするために敵にトドメを刺さなければいけないからだ。そして必ずどちらかが採掘場を勝ち取る。
こんなサイクルに嫌気をさすものはたくさんいたが、軍に逆らったり脱走しようとしたものは最後、処刑されて終わり。
この街の軍に入ったら最後、生きて帰れない。と言われているが、全くその通りであった。
そして今、一つの戦いが終わろうとしていた。
「……俺等は…何のために戦ってるんだ?」
一人の青年が、仰向けに倒れながらふと言った。その全身は傷だらけになって、腕は大量の血で真っ赤に染まり、脚にも同じような深い傷を覆っていた。
他にも、眉間を撃たれた傷口からは血が流れ、全身は弾丸のかすり傷でいっぱいになっていた。
動くと全身に強烈な痛みが走る様な状態だったが、痛みが麻痺していたため、それほど苦しくなかった。
横を向くと自軍の兵士がたくさん倒れていた。殆どはもう完全に機能が停止している者たちである。
いわゆる、死と同じものだ。
ほんの一部は青年同様に、半死状態の仲間がいたが、すぐに力尽きてしまった。
辺りを見渡すが、立ち上がっている自軍の兵士はいないようだった。
見えるのは倒れている自軍の兵と編隊を組み、ゆっくりとこちらへ向かってくる敵軍だけだった。
敵軍は、息のある者にトドメを刺しながら進んでくる。
いずれ俺も殺されるのだと、青年は思った。そして、遂に敵軍は青年のすぐ近くまで来た。
その青年を見た敵兵は叫んだ。
「隊長、目標の人物を発見いたしました!」
「間違い無いな?」
敵軍の隊長、アヴァロンという名のゴツイ大男は低い声で言った
「情報を適合させたところ、間違いないと思われます!」
「そうか」
目標の人物は倒れている青年のことである。髪の色は着ているロングコートとほとんど同じ白銀色、黒色の上着にライフルの照準のようなマークが付き、黒色のズボンを履いている。
アヴァロンは薄笑みをこぼし、青年に近づいた。そして首を掴み、持ち上げた。
「うぐ…」
首を閉めつけられ、身体が数十cmほど浮くような態勢になった。しかし、もがく気力は無かった。
「会えて光栄に思うぞ、リア・ビスマルク」
リア・ビスマルクとは青年の名前である。
「…とても光栄に思う態度には見えないな」
リアは苦し紛れの声で言った。
「んなこたぁどうでもいい。とりあえずお前にはここで死んでもらうが、最後に何か言い残す言葉はあるか?」
「…そうだな」
アヴァロンの後方にいる部下を見て答えた。
「これからも部下に優しく生きろ」
「…は?」
アヴァロンは唖然としたがリアは構わず話を続けた。
「お前は部下を大事にしている珍しい奴だと聞いた。さらに勇敢とも聞いているぞ」
「俺がそんなことをしているとでも?」
敵軍の隊長はリアを睨みつけた
「お前の基地の近くに行った時にお前の部下が言ってたんだ。間違いないだろ」
「本気で潰すぞ」
アヴァロンは怒りに震えていた。そこにリアが追撃する様に言った。
「やってみろよ、できるならな」
言い終えた瞬間にリアの身体は大きく振り上げられ、地面に思いきり叩きつけられた。意識が遠のく中、リアは彼の言葉を聞いた。
「次、会うことがあったらこの手でお前を潰す。覚えておけ」
アヴァロンは部隊に全員帰還命令を出した。
「…本当、優しい奴だな、あいつは…」
リアはそうこぼした後、意識を失った。
その後、何者かがリアの身柄を基地に持って帰り、謎の転送装置に入れられた。
「実験段階の転送装置は何が起こるか分からないからな。そこらへんに落ちてたこいつを実験台に使ってみるか」
そして、謎の転送装置は起動し、リアはどこかへ転送された。