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物自体

「偉大なる神アサンチョミィア様は我々に究極の力をお与えになった。

偉大なる肉体は死を二つ避け、歪なる人間を超越した。


「天空都市ウメボシを仰ぎみろ。我らの精神の孤高を映し出す鏡なのだ。

死を避けた我々に課された使命。

それは無産的基礎経験を明白にし、人間の感情を理解することにある。


「人間の本質的なものはロゴスにあらず、感情に支配されうるのだ。

精神の高揚と人間の向上力は図りしれず、時として害を生むことになる。

人間は精神の方向を導くだけの力足り得ず、やがて争いを生む。


「アサンチョミィア様は、こう仰せられた。

「我々は隠れ行くものである」

我々は滅びゆく定めを背負いながら、理解をやめてはならぬ。

人間が害ならしめうるものであるならば、神に学ぶしか道はない。

アサンチョミィア様は、我らに隠れろと仰せられた。

我々は隠れ行き、いずれ中心になる」


粛々たる面持ちで語る初老の男性。

彼は辺境国「隠れ行くもの」の副士エートス。




辺境国は、争いを避け逃げた人々の国だ。

囲まれるような山々に加え、どこから見ても魅力のない荒れ地。

荒れ地なのは500年前に周辺の国々が争ったためと伝わっている。

「永遠の不毛」などと呼ばれている。


そんな立地のおかげか他国は辺境国を気にも留めない。


「おい、ボーン。何をしている」

俺もそんな一人だ。


「すみません。親方」

副士の演説が終わり、仕事が始まる。






この国は独自の宗教がある。

「隠れ行くもの」。


この不毛の土地が成り立っている秘密だ。


辺境国の空には、都市が浮かんでいる。

それが見える者は、ここに住むと諦めた者のみらしい。


少なくとも、この国の外から来た奴らには見えなかった。

この国は、変だ。


荒れ地にありながら、食物が行きとどいている。

もっとも、最低限しかない。死なない程度にはあるというだけだ。

しかし、その食料は空から来る。


副士が言う「ウメボシ」からだ。

支離滅裂だが、事実だ。他国の人間からは頭がおかしいと言われている。

事実そうだ。俺は違うが。


この国で生まれた人間は、死んでも一回は死なないのだ。

矛盾しているが、事実だ。








かつて、この国を攻め込んだわけのわからない国があった。

なんでも異教徒だからという話らしい。

一応俺の故郷の国なのだが、面倒なのでいいや。


この国はすぐ終わると思い、俺は逃げ出そうとした。

しかし、不毛過ぎた土地を攻め込むのはやっていられなかったに違いない。

ある程度攻め込んで帰って行った。

辺境国は、本当に何もない国なのだ。



しばらくして、俺は...

未だに事実と思えない。いや、頭がおかしくなったのだろう。

そうである。そうだ。



「おい、ボーン!どうした」

俺と同じ大工仲間のダイが話かける。


ダイは...

そうだ。聞いてみればいい。

違っていれば、寝ぼけていたとでも言えばいい。

俺は少し寝ぼけていただけだ。


「なぁ、ダイ?」


「どうしたボーン、眠そうな顔して?」

ダイは俺の顔を見るなり、いつもそう言う。

礼儀がなってないクソガキだ。

でも...

「いや...」







「なんだボーン!辛気臭いな何か困っているなら言えよ!!」



ああ、そうだ。こいつはクソガキだが、いいやつなんだ。

俺の寝言にもすぐに笑ってくれるさ。


意を決して俺は聞いた。

「なあ、ダイ。お前死んだよな?」


「ああ、ようやく生き返ったんだ」

ダイは生きている。


死んだんだ。


死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ

死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ

死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ



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