七話 止められない流れ
大変遅れました。第七話です
ハローハロー、異世界。俺はどうしてこんなに勇者基質なのか、誰か答えてくれないか?目の前に居る魔物は唸り声しかあげないし、人の言葉喋ってくれととても言いたい。けどまぁ人の言葉が分かるようになったらそれはそれで危険だからな。うん、前言撤回で。
「数が多いんだよッ!!!燃え尽きろ!『地獄の炎!』」
俺が元居た世界で言う高位魔法を使うと地面がガラス化してしまうから中位ぐらいの魔法を連発する。この世界は魔法技術が遅れているせいか、これぐらいでも戦略級魔法とか呼ばれるみたいだ。俺にとってはどうでもいいが高位魔法を使って、あまり噂されてどこかの国に縛られたり冒険者ギルドに捕まって首輪を付けられるのだけは避けたい。
目の前の魔物を焼けばいいだけなのにどうしてこれだけ気を使わなければいけないのか。全くもって理解出来ない。魔法技術が遅れているこの世界が悪いんだ。俺は悪くない。うん。
「もうそろそろ橋が爆破される頃か。あとは持久戦。あの川幅と深さなら魔物は渡れんだろう」
ここに来るまでに見た川幅は凡そ100メイル。ちなみにこの世界の長さの単位はメートルだ。カケルが居た世界とどうやら同じらしい。更に説明すると1メイルは1メートルと同じだ。まぁ、名称の違いだと思えば簡単だ。
次に深さは凡そ10メイル。10メイルの『光りの矢』を突き刺してちょっと『光の矢』がはみ出たぐらいだ。恐らくその深さのまま100メイル続いていると考えられる。皮の鎧しか着ていない魔物だけど泳いで渡る事は不可能だろう。増援が来るまでの時間はしっかりと稼げるはずだ。
そんな事を考えながら俺ことアルフレッド・フォン・マルセイユは適当に魔物を蹴散らしながら退路を急いでいる。出来るなら橋が爆破される前に渡りたい。ちょっと風の魔法を使えば100メイルぐらい余裕で飛び越えられるけど無闇に使ってカケルの迷惑にはなりたくない。
「畜生、俺はもう神の試練とやらはいらないんだぞ」
ぼやきながら俺は全力で橋まで走り続ける。向こう岸に叫んでいる騎士団の連中が見えた。「早くこっちに来い」と言っているんだろう。そんな事は分かっている。だから俺は走っているんだ。
「お前ら下がれぇ!!爆破するぞー!!!」
橋の丁度真ん中辺りに差し掛かったその時に俺は叫んで、高位魔法の詠唱を始めた。
「ここだ、入ってくれ」
翔が案内されたのは、冒険者ギルドの建物だった。元々冒険者は荒くれ者が多い傾向がある。更にザルスガル城塞都市という地形もあってか、この冒険者ギルドザルスガル城塞都市支部は他の支部に比べてかなり頑丈に出来ていた。その為、防衛拠点として優秀な建物であり、避難民達を匿う避難場所として機能していた。
「・・・・・・少ない、ですね」
「逃げられる人は殆ど逃げたさ。ここに居るのは逃げたくても逃げられない人達。ここにしか家がなく、知り合いが居ない者。子供連れの者、老人、怪我人。逃げ遅れた人。そういう人達を守るのが今、私達に課せられた役目だ」
ギルドの建物内に居るのは、イリーナの説明通りの人達だった。突然の魔物の襲撃に暗い顔をしている人が多い。ギルドの職員であろう人もまた、帰ってこない冒険者の多さに俯き加減だ。
「そういえば途中でアリシアという女性と出会ったけど、知ってる?髪は長い金色で、プレートメイルを着た冒険者なんだけど・・・」
「・・・・・・いや、知らないな」
「さっき出会った場所で別れたんだ。50人ぐらいの避難民達連れて今も逃げてる、はず」
「そうか、アレクセイ!アンダーソン!今の話は聞いていたな。見つけ次第ここに誘導してこい!」
イリーナは二人の騎士に命令を飛ばす。二人の騎士は勢い良く敬礼し、駆け足で冒険者ギルドの建物から出て行った。
「行かないの?」
「カケルに聞きたいことがあるのでな。一先ず二階に行こう、ここでは話せん」
チラリと避難民の方を見るイリーナ。何か重要な事を聞くのであれば、ここでは話しにくい。どうせ戦いに参加しろだのなんだの言ってくるのだろう。そう思い、辟易しながらも翔はイリーナの後ろに着いて行った。
イリーナに連れて来られたのは、ギルドの二階にある会議室。いくつかある会議室の中でも、一番こじんまりとした場所だった。
「他の場所は重傷者の病室になっていてな。今使えるのはここだけだ。まぁ、広い部屋で話すのも少し寂しい」
「・・・・・・要件は?」
「色々と聞きたい事があるんじゃないのか?」
「聞きたくない、話したくもない。イリーナには感謝しているけど、あの国だけは許せない。だから聞かない」
翔はイリーナにそう告げる。翔はあの国とはもう関わりを持ちたくはなかった。
「そうか・・・なら聞こう。あの魔物の大群はどこから来た?」
「転移魔法」
「本当か!?」
机を勢い良く叩いてイリーナが立ち上がる。
「本当」
「街を攻略出来る程転移魔法を使えるなら・・・既に使っているか」
「だろうね。たぶんあれが最後じゃないかな。たぶん魔力はもうないはず。いくら魔族でも、転移魔法を使えるのは限られるだろうし」
「同感だ。だが敵が魔族と決まった訳ではないぞ。何しろ魔族側には何のメリットもないからな。この街には魔族も居る。翔も下で保護されている魔族を見たはずだ。突然魔物に襲われて怯える魔族の方達を。それに魔族領と人間領を唯一繋いでいるこのザルスガルだ。貿易の拠点でもあるここを襲って何の意味がある?今更世界征服だとかそんな事を言うのか?」
「一部の強行派とか?人間も同じようなもんだし」
イリーナと翔は同じ事を考えたのか、同じように苦い顔をした。イリーナはため息をつきながら、話を続ける。
「まぁ確かにな。何が裏で動いているかは後回しだ。話が逸れた、続きと行こう」
「・・・戦えって?」
「・・・・・・それは言わずもがな、だ。以前のように戦う力がなければ私は何も言わなかった。避難民と同じくここに居させるつもりだった。だがあの武器。私が以前に君から聞いた『ジュウ』・・・・・・だったな。あれであの魔物の大群を殺しきったんだろう?」
「うん・・・・・・」
「あの時、君が使えなかった『ジュウ』を、今使っている。つまり、君は逃げる事は出来なくなった」
「・・・・・・」
「私は、理解しているつもりだ。あの時、君がどう思い、どう考えて、なぜ逃げたのか。だが君はもう、『戦える力』を得てしまった。・・・・・・追い詰める言い方をして悪いとは思う、だが・・・・・・・・・」
そしてイリーナは頭を下げる。
「頼む、民を護るために、力を貸してくれ」
翔は考えた。まず、なぜ今になって銃を使えるようになったのか。
もっと早く使えるようになって欲しかった。守れる者も居たし、殺さずに済んだ者も居たはずだ。それを裏切るように、この力を、『今』手に入れてしまった。まるで逃げる事を許さないかのように。今までは力がないから、逃げる事が出来た。だが、今の翔は力を得てしまった。
実を言うと戦える力はあったが、翔はそれを隠していた。それは『ゲーム』で、プレイヤーキルをしていた時に覚えた技であり、それが体に染み付いていた。この世界で言う、『スキル』という形にはなっていなくとも、それは翔にとって攻撃手段であり、防御手段でもあった。
翔はそれを使うことを嫌った。自衛の為に、軽々と使えるモノではなかったからだ。それは暗闇から忍び寄り、首をかっ裂く技であり、背後から首をへし折る技であり・・・どれも陰湿な暗殺の技だ。だから翔はそれを使いたくなかった。
しかし、今の翔には力がある。これは陰湿な技ではない。1つ間違えば殺戮を行えるが、それは魔法でも剣術でも同じ事だ。それを逃げ道にする気はない。使用者がどう使うかで用途が違ってくるのはどの道具でもよくあることだ。
翔はもう逃げる事は出来ない。
翔は、下げた目線を上に上げて、ため息をついた。
「いいですよ。どうせ逃げられないし、アルだって戦ってるんだ。やってやりますよ」
とても嫌な顔をしながら、翔はそう答えた。