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天使の証明6

『こちら潜入班、これより目標の廃屋内部へと侵入します』


『こちら待機班、廃屋の外に異常は確認できず………こういうのなんかワクワクするね』


『真面目にやってください。片倉と一緒に帰ってもらいますよ』


なんで俺まで!という叫びが向こう側から聞こえてきた気がしたが志賀は無視して通信を切断する。

いくら誓約書を書かせたとはいえ一般人を危険に晒したら所長に大目玉を食らう。故に彼女らには見張りを任せて志賀と佐々木が廃屋内部を調査することになった。

窓の位置等から予測される間取りは4LDKではあるがボロボロの外観はそれを感じさせないほどに小さく見える。

裏の庭からリビングを伺うが人の気配はおろか虫などの気配も感じられない。部屋の向こうにある扉を開ければそのまま無へと繋がっているのではとさえ思わせるような静寂がそこにある。

そんな未知に突入せんとする志賀の手には、片倉の持ってきていた棒型のスタンガンが握られていた。

この棒に衝撃があると電圧がかかる中々ハイテクなブツなのだが全く信用できない。

しかしもっと信用できないものが彼の隣に立っていた。

彼の横に立つ佐々木の手には、彼女の身長程もある鉄パイプが握られているだけだ。

まくられたワイシャツの袖から見える彼女の腕はそこら辺の女性のようにプルプルとはしておらず、程よく引き締まってはいる。だがただそれだけであった。

彼女のシルエットから予測されるやや平坦な上半身や、スカートから覗かせる足などは本当にスポーツ少女といった感じのものだ。

いくら武術の達人とはいえ所詮は型にはめられた中での達人なのでは?と志賀の脳裏に不安がよぎる。


「佐々木さん、そんなものだけで大丈夫なの?」


「し、失礼な!私を誰だと思ってるんですか!」


「いやあ、だって至って普通の体格だし、やっぱり武術の達人とは思えないというか…」


「強さは純粋な力じゃなくてバランスで決まるんです!なんならここで強さを見せてあげます!」


「分かったよ、強いってことでいいからそろそろ中に入ろう」


そんな適当なのは嫌です!と言う彼女の怒りを無視して志賀はさっさと廃屋に足を踏み入れた。

空はもう宵へと変わろうとしている。さっさと片付けて帰らないと佐々木の親からクレームが入るのではという心配が彼を焦らせていた。

彼はリビングの中央に立つとコンタクトレンズを起動した。紫の光を発するそれは温度や赤外線等を可視化させ、彼に認識をさせる。


「おおっ、これで壁の向こう側が透けてみえるのか」


「そんなので遊んでないで早く終わらせて下さい」


そう言う佐々木は先ほど軽くあしらわれたからか見るからに拗ねていた。だが今の彼に見えているのは物体の放つ不可視光線だけだ。彼女の表情など全く見えていない。


「見たところ二階にも人影はないな…僕はこれから上に行くけど佐々木さんはどうする?」


「私も着いていかなきゃいけないからさっさと終わらせてって頼んでるんです」


佐々木にマジなトーンで怒られて少しへこんだ志賀は彼女を引き連れ二階へと上がった。

その二階には三つの部屋が廊下に沿って作られていた。

その内の中央の部屋には荒れ果てた部屋にはミスマッチな新しいライターとタバコが置かれていた。

古いシングルベッドの上には新しいマットレスが敷かれていることからおそらく表の言っていた集団の一人はここで寝ていたのだろう。

佐々木は鉄パイプを傍らに置いてさっさとライターとタバコを写真に収めるとハンカチで持ち、ビニールに入れて志賀の尻ポケットに突っ込んた。

思わぬセクハラを受けて体を震わせる志賀だったが彼女はそれを無視してマットレスに付着した毛髪の採集に取り掛かった。

佐々木の思わぬ地雷を踏んでしまった志賀は彼女の怒りが冷めるのを待つように彼女の作業を待っていた。


「ふぅ…何ぼやっとしてるんです?さっさと次のところに行きますよ」


「あの、謝るから機嫌直してくれない?ほら、飴あげるから」


「機嫌は別に先程とは変わっていませんよ。あと飴くらいで女心が変わるとは思わないでください」


「でも飴は食べるのか…」


「べ、別にいいじゃないですか!ほら、さっさと終わらせて帰りましょうよ!」


志賀に指摘された彼女は茹でダコのように紅くなった顔を志賀から背けてそそくさと次の部屋に移ってしまった。志賀の目には血行が良くなり温度が急上昇した彼女の顔が映っていたのだがまた地雷を踏むのは嫌だという思いから放置を決め込んだ。

その後も各部屋のクローゼットを開けたりするも結局二階にはそれ以上めぼしいものはなかった。

だが志賀の頭には依然として疑念が残っていた。

彼は熟考をするためにリビングに置かれた椅子に腰をかけた。表曰くここにパソコンが置かれていたらしいのだがその痕跡は消えていた。

そのままぼーっとしていると一階の偵察を終えた佐々木が帰ってきた。


「ちょっと志賀君?そんなところで休んでないで捜索を手伝ってくださいよ」


「…………佐々木さん、そっちに部屋はいくつあった?」


「へ?こっちにはキッチンと玄関、それにお風呂とトイレだけですが?」


「そっか………ねえ、何か変じゃないかな?」


「変?具体的に何処がですか?」


「この家は予想では4LDKのはずだよね。なのに僕たちはまだ三つしか部屋を確認できていない」


「予測が外れたんじゃないですかね。良くあることですよ」


佐々木はそう言うと志賀の向かいへと座った。志賀はそれを確認すると話を再開した。


「それだけならまだいいんだ。だけど怪しいところは他にもある」


「怪しいところ、ですか?」


「表によるとここを拠点としていた奴らは複数人いるはずだ。だがベッドは一つしか確認できなかった」


ただぼーっとしていただけじゃなくて一応こんなことを考えていたのか、流石所長の助手を務めるだけあるな、と佐々木は先ほどの怒りを忘れ感心する。


「でも、一階にも怪しいところは特にありませんでしたよ?」


「そっかあ…一応これでも確認してみるから一緒に着いてきてくれるかな?」


志賀はそう言って暗闇の中不気味に光る目を指差す。

佐々木は心なしか頼もしく感じる志賀のことを信じ、再び鉄パイプを携えた。

それを見て志賀は言う。


「あの、本当にそれで大丈夫?」


「……………分かりました。じゃあこれでどうですか?」


ブンという風切り音が志賀の耳に届いたかと思ったその時には既に彼の鼻先に鉄パイプが突きつけられていた。

佐々木の方を目だけで確認すると片手だけで鉄パイプを構える彼女の姿があるのみだ。

まさに一瞬の出来事にビビる彼の表情を見た佐々木は満足そうに笑う。


「これで十分ですか?」


「ご、ごめんなさい。佐々木さんは最強です」




「佐々木さん、この見るからに怪しい扉は何かな?」


「何って…見るからに普通のクローゼットのドアじゃないんですか?」


そう言う佐々木さんの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。

それを見て志賀は頭を抱える。


「あのさあ、なんで内装がここまでボロボロなのにここまで新しい扉が設置されてるの?」


「あっ………さ、流石所長さんの助手!目の付け所が違いますね!」


志賀のマグライトに照らされたその扉は付近の壁紙に反してやたら新しかった。

これに気づけないというのは探偵失格なのでは?という志賀の視線に抗議するかのように佐々木は反論を開始した。


「でも、中は何ともありませんでしたよ!」


「本当かよそれ。今の佐々木さんの意見は信じられないというかなんというか…」


志賀は顔を真っ赤にして何かを叫ぶ彼女を無視して扉を開ける。

案の定、内側も比較的新しいベニヤで覆われていた。

奥のベニヤをノックするとやはり向こう側は空洞となっているこちは確認できた。

側面を確認してみると手をかけやすそうなところを右側に発見する。。

志賀はそこに手を掛け、中に引いた。

すると板が外れ、隠された部屋へ続く空洞が現れた。


「はぁー、先程も確認しましたけどこんなところはありませんでした」


「いやいや、佐々木さんが見つけられなかっただけでしょ」


そんなやりとりをしながら中へと入っていく。

中の広さは大体12畳ほどであった。

特筆するべきは数台のパソコンと布団が設置されていることだ。

パソコンの電源は入っており、今も稼働を続けていた。


「やはりか…佐々木さんはここの写真を撮っておいて。僕はパソコンからデータ取るから」


志賀は佐々木に指示するとパソコン本体に自身の持つCONNECTデバイス本体を繋いだ。

それと同時に彼は中のデータを確認する。


「(表の証言通り名簿があるな…僕の名前も…あった。うわあ本当に住所まである)」


志賀はそんなことを考えて色々とCONNECTデバイスを確認した。彼の予想では既にデータの転送は終わっているはずなのだが何故だか完了度を表すゲージは半分にも満ちていなかった。

しかし彼のデバイスの容量は着実に蝕まれていっている。

不審に思った志賀はパソコンを改めて確認する。

その時彼の頭にある可能性が浮かんだ。


「(もしかして、リアルタイムで大量のデータがこのパソコンに転送されているのかな?)」


そう思った志賀は内部のデータを漁っていくと志賀はある隠しファイルを見つけた。

そのファイルの名前は――


『こちら待機班、廃屋に向かう集団を確認した』


「こちら潜入班、相手の具体的な人数は?」


『数は5人。全員男で一応手ぶらだ』


「了解、先輩達は所長に連絡を。僕らはとらえずやり過ごすので逃げてください」


志賀は一方的に通信を遮断すると佐々木とアイコンタクトを取る。

彼女の頬には一筋の汗が伝っていた。だがいよいよ自分の本領を発揮できるからか、その口元には笑みが浮かんでいる。

志賀は佐々木の元に駆け寄り、相手の侵入を息を殺して待った。

静寂が支配する廃屋に数人の足音がギシギシと響く。

入ってきたところを叩くしかない、そう思った志賀は警棒を強く握りしめ、偽装されたクローゼットの裏側に背を預ける。

彼の緊張がまさに頂点に達するという時、突然肩に衝撃が走った。驚いてそちらを見ると佐々木の手が志賀の肩を叩いていた。


「志賀君、そこでの待ち伏せは悪手です」


「なんでだ?人数も負けている今、僕達には不意打ちしかないじゃないか」


「相手の足音から察するに彼らは恐らく私たちに気づいています。すぐにここに来ないで家中を回っているのがその証拠です」


「成る程…じゃあ一体どうすれば」


「私に一つ、作戦があります」


読んでくれてどうもありがと(・ω<)☆

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