天使の休息
私は何故ここにいるのだろうか。
――そうだ、探し物をしているからだ。
私は何故探し物をしているのだろうか。
――そうだ、マスターの命令だからだ。
私は何故それが全て見つかった今も探し続けているのだろうか。
――そうだ、マスターから次の指示を受けていないからだ。
私は何故マスターから指示を受けていないのだろうか。
マスターとは誰のことだろうか。
私は、何者なのだろうか。
私に付けられた名前の意味が分かった。
人間が生み出した「神」と呼称される存在、その使いの英名だ。
だがそれだけでは私の存在は分からない。
私の姿は私を見る人によって定義されるということが分かった。
そして今は、とある高校生が定義した姿であることも分かった。
だがそれだけでは私の存在は分からない。
私は、何者なのだろうか。
情報世界に架かる蒼穹を泳ぐ少女は、神から与えられたその頭を使い一生懸命に考える。
それに呼応し、彼女の何処までも長い、天の河のように輝く金色の髪から光の水しぶきが飛び出した。
それに呼応し、彼女の小さい体を隠してしまうほど大きく、そして七色を纏う蝶の翼をゆっくりと羽ばたかせ、光の鱗粉を惜しげも無く振りまいていた。
彼女がいくら考えても答えは出ない。
彼女の「考える」とは、自身に予め埋め込まれた知識やネットの世界に漂う無数の情報から最適解を見つけるということだ。
だから彼女は彼女が何者なのかという問いの答えに辿り着くことができない。
彼女はふと、地上を見下ろした。
私は何故見下ろしたのだろうか。
――そうだ、何時も下から聞こえる声が段々と小さくなっているからだ。
地上では、彼女を眺めている人々が、彼女から放たれた光を浴びて一人、また一人と消えていった。
とうとう彼女を見上げる者はただ一人となってしまった。
不思議に思った彼女はその人から情報を得るために地上へと降り立つ。
『あの、何かあったのでしょうか?』
『う、うわぁ!こっちに来るな化け物め!』
彼女の前に立っていた男はそう言うと、皆と同じように消えてしまった。
化け物とは誰のことだろうか。「天使」と名付けられた少女は誰もいない空間で思考を巡らせる。
化け物:妖怪、異形な姿をした者。彼女の導き出した「答え」だった。
新しい情報を得た彼女のその髪は、その翼は、僅かだが長く、大きくなった。
しかし、そこで新たな疑問が生まれた。
私のどこが化け物なのだろうか。
私の顔や肢体は人間のそれと全く同じのはずだ。
私の声や発声、アクセントは動画サイトで得た幾億もの動画の補助のお陰で完璧なものになっているはずだ。
そうして彼女は自身の身体的特徴を思い出す。
そういえば私は普通の人間ではあり得ないほど長い髪を持っていた気がする。
そういえば私は普通の人間にはない翼が生えていた気がする。
ではこの髪を取れば、この翼を取れば、私は普通の人間になれるのだろうか。
いくら考えても答えは出ない。
"Angel"のIDを冠するその少女は、志賀という高校生と初めて話した時のことを思い出していた。
読んでくれてどうもありがと(・ω<)☆
やっと折り返しだよ!