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天使の証明4

表はとあるビルの屋上で、今までにない高揚感と快感に浸っていた。極度の興奮に火照る身体は朝焼けを運ぶ風ですら冷やすことはできなかった。

無理もない。彼女は金額にして200万の、ガラス板で構成されたCONNECTデバイスを手に入れたのだ。

表にはこれのの良さが分からない。

曰く、そのデザインと現在のものに劣らないそのスペックに惹かれる人間が数多くいるらしいのだが、そんなことはどうでもいい。すごいものならば何でもいいのだ。

これを"Angel"よりも先に手に入れたことで自分の知力を、技術力と、運を、全てを証明できたのだ。

もし、このたかがガラス板を"Angel"の前にちらつかせたら、あいつらはあたしの手のひらでどのように踊ってくれるのだろうか。

もし、このたかがガラス板をこのビルから落としたら、"Angel"は一体どんな顔をするのだろうか。

そんなことを考えただけでも全身に快感が走り抜ける。

それにしてもこれはどうやって起動するのだろうか。

物理ボタンはないし、表面を触ったりしてみても動かない。もしや表裏逆なのかとも思ったがそれも違うようだ。

まあいいか、と表は200万を起動することを諦めた。

だがこれは表にとって最大のミスであった。

幾つもの幸運と偶然の積み重ねで作戦を成功させた彼女はそのことにすら気づかない。




深海より深い思考の中、天使のことが頭に浮かんでいた。

天の川のようにどこまでも長く、金色に輝く髪。全てを見通すような透き通った目。そして脳を溶かすような甘い声。全てが自分の想像していた通りの天使であった。

ふと思う。彼女は民衆の注目を引くために作られたのだろうか?もしそうであったら僕が何とかしてあげないと――――

そこで志賀の目が覚めた。慌てて時計を確認すると時刻は午前4時を少し回ったところであった。表に謎の注射を打たれてから2時間が経過していることになる。

彼は急いで着替えを始め、それと平行して所長に電話をかけた。彼が大失態を犯したから、ではない。彼の手には表が持って行ったはずのガラス板が握られていた。

しばらくするとそのガラス板越しに所長の眠そうな声が響いてきた。


『………モーニングコールにしても早すぎやしないか?』


「所長、早速ですがやられました」


『この時間ってことはどうやらハニートラップにも引っかからなかったようだな。奴の狙いは何だったんだ?』


「僕のガラス板、扶帝製CONNECTデバイスです」


『あのプレミア価格のついてるやつか。だから新しいのに変えろとあれほど』


「説教は後で受けるんで早く迎えにきてきださい。彼女が逃げて2時間が過ぎています」


しばらくしてビルの前に黒いバンが現れた。

高校の制服に着替えた志賀はその見るからに怪しい車両に躊躇いなく乗り込んだ。

意外なことに運転手は那須野が務め、所長は後ろに乗っている。


「だから新しいのに変えろとあれほど言っただろ」


「開口一番がそれですか所長…それにしてもなんでマサさんが運転してるんですか?」


「なんでって、バンが欲しいんだけどって所長から電話が来たからだよ」


ああそういうことかと志賀は納得する。この車は那須野の私物なのだ。

志賀は那須野に本物のガラス板を渡した。そのガラス板には現在の表の位置が赤いマーカーとして映し出されていた。

マーカーの動きが遅いことから恐らく表は徒歩で移動していることが分かる。

彼女に掴ませたレプリカは那須野お手製の位置情報発信機でも、温度検知センサーでもある。

なんでそんな仕掛けがあるのかといえばそれは製作した那須野の個人的な趣味なのだが、まあ今回のように役に立つ時があるのだ。


「お前は昨日の昼間、彼女を泊める泊めないで揉めてた時、私にだけ奴は怪しいと言ったな。何であいつが怪しいと思ったのか、改めて理由を聞かせてもらおうか」


「まず第一に、謎の集団は監視カメラに映っていたのにも関わらず表はそれより前に映っていませんでした」


「ふむ、死角から入ったというのも考えられるがそれは怪しすぎるしな…それに表の証言の曲がり角は行き止まりだ」


「そうです。次に裸で寝ていたのに近くに服がなかったことがあげられます。僕が起きた直後ベッド周辺の資料の山が荒れていたのでそこに何かと一緒に隠してあったのかと…」


だから片付けくらいしろと言っただろと志賀は所長にはたかれる。

志賀はその仕打ちにもう慣れたのか少しリアクションを取るだけで話を続行する。


「それに一番怪しかったのはホノカさんが僕をナオ君呼ばわりした後の態度の豹変っぷりです」


「あれか…目の前であんな密談していたら誰でも怪しいって気付くよな」


ですよねー、と志賀は座席に深く腰掛ける。変な体勢で床に寝てたせいで身体中が痛いのだ。


「おそらく表は"志賀直人"という人物がガラス板を持っていることを知っていた。ユイが志賀君と呼んでいたときは殴られて錯乱してたしそれを確認出来たのがあの場面だったんだろうな」


「そういえば、所長はいつから表は怪しいと思ったんですか?」


「強いていえばユイから報告を受けた時かな」


「早っ、なんでそんなに早いんですか?」


「ずっと寝てたくせにしばらくしてから見つかるってどう考えてもおかしいだろ。おそらく表は何処かにずっと隠れていた。しかし見つかりそうになって寝たふりを、いや自分に睡眠薬を打ったのかな。それに事務所に尋ねてきた奴がなんで資料室にいるんだ」


そう聞くと志賀は納得した表情を浮かべる。


「それにしても、なんで表は僕のガラス板の存在を知っていたんだろう?」


「元々知っていたのはあいつじゃなくて集団の方だったりしてな。以前裏にいた時にはそういった盗品を扱っていたりもしたが、そういうものを生業にするグループもあったんだ」


「マサさんが言うと説得力ありますね…でもそれだとますます分からないな」


「何も分からなくてもあいつを捕まえて尋問にかければ一発だろ。気にしすぎると私みたいに美しくなれないぞ」


「所長みたいにですか(笑)」


「お前は尋問のときの椅子にしてやる」


そんなことを話して20分、黒いバンはとあるビルの前に辿り着いた。

志賀は那須野から返してもらったガラス板を確認すると赤いマークはこのビルで停止していた。周囲の温度も36度と高いことからレプリカは彼女、もしくはその仲間が所持している可能性が高い。

所長は車後部へと移りいそいそと何かの準備を始める。


「おい、何ぼーっとしてるんだよ。お前も準備をしろ」


「僕の格好を見て下さい。制服ですよ?これでアクションなんてしたら間違いなくビリビリになります」


「それは着てきたお前が悪い。自分でやると決めたなら最後までやり通さんか」


渋々後ろへと回ると所長はすごい格好をしていた。

全身を黒のエナメルスーツが包んでいるのだがその所々に機構が備えられている。

例えば、手のひら側の手首には縦向きに円筒形の膨らみが備え付けられていた。その円筒からうっすらとした何本もの筋が腕、肩を通って腰周りを強調するようにに取り付けられた大きな二つの円筒に繋がっていた。

その円筒からは再び筋が彼女の太ももを通り、ウエスタンブーツへと伸びていた。


「何というか、目のやりどころに困りますね」


「褒めても何も出ないぞ。ナオのはそこにあるから」


「いやいや僕はこんなの着ませんよ」


「お前は取り付け式の方がいいのか?ならこの中に装備が入ってるぞ」


そう言う所長は黒のコートを羽織るとやや大きめのアタッシュケースを開いた。

その中には同じく円筒形のついた黒い手袋と、リュックサック、そしてつま先側の靴底はゴムで踵側が金属の変なブーツが入っていた。どちらにせよ変なのを取り付けなきゃいけないという事実を悟った志賀は諦めて取り付け式の方を手に取った。

それぞれを装着し、それぞれを固定するハーネスを取り付け立ち上がる。


「ん?これめちゃくちゃ軽いんですね」


「ハーネスのおかげだ。こっちではこのスーツが人工筋肉になって負荷が減るんだが、そっちだとそのハーネスが人工筋肉となってお前をサポートしてくれる」


「すごいハイテクですね…もしかしてこれもマサさんが?」


志賀の声に反応して那須野はハンドルを握る手を軽く上げる。彼は本当に何者なのだろうか。


「ああそうそう、あのガラス板がレプリカだってことは最後まで秘密にしておけよ」


「分かってます。それをバラしたら再び逃げられた時に追跡できなくなりますし、なによりガラス板を人質にとる相手の最終手段を潰してしまいますからね」


「その通りだ。じゃあマサはここで待機、私達がヘマをしたら私達を置いて勝手に追跡をしてくれ」


「了解。あとこれも持ってけ」


那須野は車から降りて志賀にゴツゴツして重量のある黒い何かを渡した。

それを受け取る志賀の手がプルプルと震えている。


「あの、これって、チ、チャカって呼ばれてる奴ですか」


「そう、その通りだ。くれぐれも人に向けて撃ったりしないでくれ、後始末がたいへんだから」


そう言って那須野はニヤリと笑う。

何かとてつもないことに巻き込まれてる気がする、と志賀は今更ながらことの大きさに震えた。




「さて、位置情報を確認すると表はこの7階建てビルの屋上にいる。そういうわけでこれからこのビルに登るわけだが、その前にこれの使い方を教えようと思う」


「えっ、これって自動で動くパワードスーツじゃないんですか?」


「人工筋肉はあくまでこれによって増加した質量を支える役割しかない。まあやってみれば分かるか、まず左手を反らせてみろ」


志賀は所長に言われた通りに左手を反らす。すると手に取り付けられた円筒の端から赤いレーザー光が照射された。

所長も左手から光線を出し、その光を屋上近くの壁に向ける。


「それはこんなふうに照準を合わせるために使うものだ。そして反らした手を強く握ると」


その瞬間、所長の握り拳、その下から銀色の弾が音も無く発射された。その弾は光の着地点に寸分の狂いもなく到達した。


「こんな風に弾が発射される。そしてあの弾とこの円筒を黒いワイヤーが結んでいるわけだ」


所長はそう言うとコートのポケットからライトを取り出し左手を照らす。

先ほどまでは暗さに隠れて見えなかったがそこにはかなり太めのコードが白い光に照らされていた。

志賀の脳裏によぎる嫌な予感。彼は一瞬だけ躊躇うも、その嫌な予感を口に出す。


「もしかしてですけど、このワイヤーを辿って屋上に登るんですか?」


「そうだ。そしてワイヤーを引っ張って安全性を確かめた後、手首を外側に捻って」


「いやいや、スルーしないでくださいよ!どう考えてもこんなの途中で切れるにきまってるじゃないですか!」


「大丈夫だって、言っておくがこれはメイドインジャパンだぞ?」


「ぐっ、そう言われると一気に安心感が心に広がりますね」


「だろ?じゃあレッツトライだ」


魔法の言葉に騙された志賀は所長の言われるがまま標準を合わせ、そして拳を握る。

無音の衝撃とともに彼の手からも銀弾が飛び出す。

横風を無視できるほど加速させられたその弾はやはりレーザーの着地点にピタリと壁に到着した。

志賀はやはり心配なのか全体重をかけて黒いワイヤーを引っ張ったが全く外れそうになかった。


「安全確認は済んだな。そしたら手首を外に捻るんだ。そうすれば、この筒にかかっているワイヤーの固定を解除できる」


志賀は彼女に従い動作を行う。

カチャリ、という音と共にワイヤーに遊びが生まれた。

所長も同様にワイヤーを自由にした後、左のブーツの踵で地面を軽く叩く。するとつま先から金属製のフックが飛び出した。


「このフックをワイヤーに引っ掛けるんだ。こうすることであちらに着いたとき随分と楽になるぞ」


「………よし、準備終わりました。次はどうすれば?」


「うむ、今度は手首を内側に捻るんだ。そうすれば」


最後まで話す前に所長は夜空へと飛んでいった。かなりの速度で銀弾の着弾点へ向かい、停止した。

傍から見ればまるで闇夜に紛れてビルへと侵入するスパイのようであった。

志賀は恐怖とちょっぴりワクワクを抱えながら手首を内側に捻る。

左手に付属している円筒形がギュルギュルと音を立てながらワイヤーを巻き上げていく。

足をワイヤーにかけているため上昇するときに必然的に体が上下逆さまで引き上げられていることが彼の恐怖心を増幅させた。

彼もまた銀弾のある壁にちょうど左足から着地した。足から着地したためバランスも取りやすく、なによりつま先に付けられたゴムの靴底により壁に静止できる。後々楽になるとはこのことらしい。

撃ち込まれた銀弾を見てみると何やら赤い接着剤らしきもので壁と完全に接合されていた。

おそらく弾の先端にこの接着剤が入った袋が搭載され、壁に衝突するときにそれが破れ、接着される仕組みだろう。

彼らは余った右手で屋上にあるフェンスを掴む。

所長は右手が安定したものを掴んだことを確認すると左手首を外に捻りワイヤーの固定を解除した。

そのまま自由になった左手もフェンスに預けると左足のフックを銀弾に引っ掛け、屋上を確認する。

志賀もそれに続き屋上を覗き込んだ。ここからは反対側のフェンスに体を預けている女性の姿が確認できた。


「所長、突入する前にあれですけどこのケーブルってどうやって壁から外すんですか?」


「それは反対側の手首を外に捻れば取れるぞ…さて、突入するか」


所長は勢いをつけ屋上へ登り右手を捻った。それによりケーブルが銀弾から切断され再びスーツへ格納された。

志賀も足にあるゴムの摩擦力を足がかりにして屋上へ上がり、余分なものをしまう。

二人はアイコンタクトを図り、フェンスを飛び越えた。

その際の着地音に気づいた女性は機敏な動きで振り返る。


「表玲奈だな、私の可愛いメンバーから盗んだものを返してもらおうか」




空を覆う黒幕が朝日によって今にも取り去られそうな中、三人の戦いは始まった。

先手を打ったのは所長だった。彼女は右手を強く握り銀弾を表へと飛ばす。

だが表は身体を捻り弾をやすやすとかわし、二人の元へ突っ込んできた。

表はその勢いを活かし高く跳ぶと、所長へ思いっきりドロップキックをかます。

だがさすが所長であった。それをまるで予期していたかのように腕を前で組むとそのまま表の足を受け止める姿勢へと


「ぶっっっっ!!!!!」


この謎の音は所長の顔面に表の足が突き刺さった時に所長が漏らした声だった。

表の全体重を顔で受け止めた彼女はそのまま受け身もろくにとれずに後ろに吹き飛ばされフェンスに激突する。


「えええええっ!!!!見かけの割に所長弱すぎだろ!!!!」


「う、うるさい!見てないでさっさと表を捕まえろ!!」


そう言われてふと出口付近を見ると表はまさに扉へ手をかけようとしているところであった。

志賀は彼女がドアノブを回そうとするその一瞬の隙を見逃さなかった。

先ほどの通りに右手を開き、レーザー光を彼女へと標準を合わせ、そして手を握った。彼の手から発射された銀弾はそのまま表の脇腹へ――


「ここで真打ちの登場!!!!」


その声とともに突然屋上の扉が開かれた。目の前に立っていた表は勢い良く開いた扉に腕と顔面を強打し後ろへ倒れる。

扉の向こうから現れたのは何故か芹沢であった。

ここで一つ疑問が生まれる。先ほど志賀が放った銀弾は目標が倒れた今、誰に飛んでいくだろうか?


「ぐうあっ!?……ぎゃああああああ!!!脇腹から血が!!!メイド服が汚れちゃうううううう!!!」


「ホノカさん落ち着いてください!それは接着剤です!」


「分かったからナオ君は手首を捻ってこれを外して!早く落とさないとシミになっちゃうじゃないの!」


志賀は芹沢の見たことない気迫に押され右手を回す。


「ああああああ逆だって!私を釣り上げてどうするの!!!」


彼が銀弾を右手から発射している。故に彼は左手を回すことによって銀弾のアンカーを切り離すことができるのだ。

しかし今の志賀にはそんなことを考える余裕はない。

高校生を数秒で20m以上の高さへと引っ張り上げる力でこちらへと迫る芹沢をどうやって止めようかという脳内シミュレーションが頭を占めていた。

幾重にも重ねた熟考の結果、彼が導き出した答えは手袋を外すことだった。

手袋を外した瞬間、綱引きの体勢で巻かれるワイヤーに対抗してた芹沢は当然のように力のつり合いを一瞬で失い頭から屋上の床に叩きつけられた。


「志賀アアァァァァァアアア!!!!!」


「ホノカさん顔と口調が凄いことになってますよ!!!!」


「お前らそんなことはいいから早く表を捕まえろ!」


所長の鶴の一声で志賀と芹沢は本来の目的を思い出す。

慌てて振り返るとよろめきながらも逃げようとする表の姿があった。

表が扉に手をかけたその時、再び勢い良く扉が開かれた。

その衝撃を顔面へもろに食らった表は扉と一緒に裏へと追いやられる。

扉の向こうから現れたのは佐々木であった。佐々木は膝に手を置き息絶え絶えに口を開く。


「ホノカさん、階段では、対象を、発見、できませんでした」




市内にあるとある7階建てビルの屋上、そこに漂う混沌とした空気は爽やかに煌めく朝日でさえ吹き飛ばせなかった。

かたや扉にべっとりとついた血を専用の薬品で掃除する女子高生がいた。

かたや男子高校生を椅子にし、あまつさえその高校生の財布をチェックしている脇腹から出血したようなメイドがいた。

かたや顔面血だらけの女性の足の甲を縛り、それを屋上から吊るす黒ずくめの女性とスキンヘッドのヤクザがいた。


「おい志賀ァ!お前3万しか持ってないってどういうことだよ!」


「メイド服って最高で1万くらいしかしませんよね?だったらそれくらいで足りるんじゃ」


「これはわざわざ中世フランス王室のメイド服を資料から再現して、それをフランスの有名ブランドに製作してもらったものなんだよ!」


「なんでそんな無駄なことをしてるんですか…」


「私の店のモットーは『極限までリアルを追求する』なの!ナース服だって、警察の制服だって、チャイナドレスだって全部本物なの!損害分回収できるまで私の店で働いてもらうからな!」


メイドはそう言うと椅子の頭に財布を叩きつける。

椅子は力尽きたらしくその場で潰れた。

だが芹沢はそれを許さずもう一度志賀の頭を叩く。

彼は叩かれた衝撃のわずかな違いからその意味を汲み取るとそのまま彼女を背負ってヤクザの拷問現場へと向かった。


「所長、表は何か吐きましたか?」


「いや、吐くまえに気絶したよ」


その言葉を受けて志賀はフェンスに体を預け下を覗き込む。

そこにはエノキのようにプラプラとぶら下がる表の姿があった。

彼女の表情を伺うため体を乗り出すと芹沢が志賀の頭を三たび叩いた。


「バカ!私をここから落とす気なの?」


「ああすいません。ホノカさん軽いんで素で忘れていましたよ」


「えっそうかなあ…ってお世辞には乗らないからね」


そんなやりとりをしながらしばらく待っていると表が長い眠りから目覚めた。

彼女は自分の置かれている状況を一瞬で理解し足を縛るロープにしがみつく。


「あの、失礼ですが私を引き上げていただけないでしょうか?」


「その前にやるべきことがたくさんあるよなあ?貴様はまずなにからやるのかな?」


「顔面にドロップキックを食らわせて大変申し訳ありませんでした!」


「最初に私への謝罪を述べるのはいい心がけだ。だがまずは事務所を荒らしたことを謝るにが筋じゃないか?」


「いやあれはあたしのしたことじゃ…ちょっと!すごい速度で落下してくんですけど!」


相変わらず人をいじめるのが好きだなと志賀は呆れ気味に所長の横顔を見る。だがその顔には焦燥が浮かんでいた。


「ってまさかリールが壊れたんですか?」


「分かってるなら手伝え!早く!」


志賀は急いで所長の腕のワイヤーを引っぱる。

彼の努力のおかげで表は何とか地面スレスレで停止することができたようだ。

二人掛かりでズルズルと引き上げ、今度はフェンスにワイヤーを引っ掛けて尋問が再開された。


「それじゃあまず最初に、お前は"志賀直人"がガラス板を所持していると何処で知った?」


所長の問いかけに表は一切答えない。

彼女を激しく上下動させても声すら出さなかった。

不審に思った志賀はワイヤーを那須野に預け下を伺う。


「あー、また気絶してますね」

読んでくれてどうもありがと(・ω<)☆

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