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Bクラスの恋(明日香視点)

 この話は、明日香視点の話で、影路との出会い辺りの内容です。

 ああもう。何であんなこと言っちゃったんだろう。

 思いっきり自己嫌悪だ。

「佐久間は貴方があまりに悲観的で何の能力もないって嘆くだけのうっとうしい考え方をしているから、貴方に自信をつけさせようとしてるの――って、何様よ」

 トイレの鏡に映る私は情けない姿だ。


 あんな言葉、言うつもりはなかった。

 ただ、佐久間があまりに嬉しそうにDクラスである影路の話をするから……魔が差してしまったのだ。実際会ってみた影路は、私が長身な方であるせいか、余計に小柄にみえた。

 気が付いたら居なくなってしまいそうなぐらい自己主張の薄い子。そんな子に対して、辛辣な言葉を私はぶつけた。私の言葉で泣かなかったから、胆は座っていると思う。でも傷ついただろう。

 大抵の女子は、私が怖いらしく、少しきつい言葉をかけると、すぐに逃げ出すか泣く。そして陰でひそひそと悪口を言うのだ。

 普通に考えて、誰が嫌われたいものか。

 女の子の周りに合わせる話し方なども苦手で、必然的に男と付き合う方が多くなった。ただ問題は、男とつるみ過ぎたせいで、今度は女らしさというのが分からなくなって、男同士としての付き合い方しかできなくなった。

 それは気になる相手でも同じ。そして照れ隠しで、結構きつい言葉をぶつけてしまったりもする。

 そんな状況で突如現れた、Dクラスの少女。

 私とは違い、すぐに壊れてしまいそうな子。そして私が気になる相手を助け、パートナーを熱望されている子。しかも佐久間は、助けられたこともあってか、あの子の事が好きなようだ。

 私と佐久間はどちらも攻撃型だからパートナーになる事はない。たまに1人では荷が重い事件の時に一緒に仕事をする事になるぐらいだ。

 だから悔しかった。私が手に入れられなかったものが目の前にぶら下がっているのに、それを掴まないあの子が。

 でもだからって、あの発言はないとも思う。


「終ったものは仕方ないわよね。とにかく、今回はあの子を守りきって……後で謝ろう」

 佐久間がどれだけパートナーに望んでも、相手はDクラス。上司がどう判断するかは分からない。だとしたら、これっきりの別れになるかもなのだ。だったらこんなもやもやした状態で終わりたくはない。

 守る事が今回の罪滅ぼしと思い、私は影路と佐久間がいる方へ向かう。

 向かった先では、楽しげに佐久間と影路が雑談していた。その姿に、イラッとくる。遊びに来ているわけではないのだ。今からするのは、とても危険な仕事なのに。

「足を引っ張らないでよね」

 開口一発、何を言ってるだろう、私は。

 自分のこらえ性のない口を縫い付けてやりたい気持ちでいっぱいになる。絶対今の発言は引かれた。

「大丈夫だって。何かあったら俺がフォローするし」

「フォローしたら、役立ってるかどうか分からないじゃない」

 佐久間が庇おうとして、余計に私はいらない一言を積み重ねる。

 そんな事が言いたかったわけではないのに。ああもう、本当、佐久間邪魔っ!! 【私が守る】、ただそれだけを伝えたかったのに。どうしてこうなるの。

 再び自己嫌悪だ。


「じゃあ、行ってくる」

「あっ……」

 そう言って影路は何も言い返さず行ってしまった。

 絶対、怖い女だと思ったに違いない。私は八つ当たりで佐久間を睨みつける。

「な、何だよ」

「別に」

 どうして私は佐久間が好きなのだろう。そうでなければ、こんなことにならないのに。深くため息をつくと、無線で影路の声が聞こえた。

『人質の数は15人。うち8人が職員で残りがお客。子供は2人。1人妊婦。犯人は全部で5……いえ、6人。1人隠れている。突入をしたらたぶんその人が何らかの攻撃をするのだと思う』

 ……早い。

 こんな早く立てこもっている中の情報が聞けるなんて。確か影路の能力は【無関心】。今まで聞いた事もない能力で、影を薄くするだけという事だが……凄い。

 私ではこんな風に情報を事前に集める事は出来ない。

『中に入ります』

『ちょっと待て。大丈夫なのか?!』

『私は』

 えっ。何?中にまで入るの?

 私はギョッとした。いくらなんでもそこまでは私たちも求めていなかった。影路にお願いしたのは、中の情報を的確に伝えてもらう事だけ。


 それ以降無線から影路の声は聞こえない。発砲音はないけれど、影路は大丈夫だろうか。

 心配だ。

 もしかして私が足を引っ張らないでなんて辛辣な事を言ったから、無理をしようとしているのだろうか。そんなつもりなかったのに。私は別に影路が嫌いではないのだ。

 どうしよう。

 不安に思っていると、突然近くで足音が聞こえた。

「えっ?! いつの間に?」

 足音の先を見れば影路がいて驚く。

 こんなにすぐ近くまで影路に近づかれている事に気が付かなかったなんて。しかも影路の隣には妊婦と子供までいる。

 確かに考え事はしていたけれど、周りに気を配っていないわけではなかったはずなのに。

「というか、手。どうしたんだよっ!!」

「この間佐久間にしたのと同じことをした。気を失っていてくれると楽だけど。やっぱり意識ある人間に使うのは怖いね」

 影路の手からは血が流れていた。どうやら怪我をしているらしい。

「怖いじゃなくて、何かあったらどうするんだよ」

「一応これでも考えてる。子供と妊婦を助けるのは最優先だと思ったから。何かあっても、私が盾になるし」

「盾って。俺はそんな為に頼んだんじゃなくてなっ!!」

「知ってる」

 佐久間の怒鳴り声にも影路は冷静だ。

 全然怯まない。

「じゃあ、次は客を順番に出していく」

 私が止める間もなく、影路は再び犯人の元へ行ってしまった。





◇◆◇◆◇◆◇◆






 結局影路はすべての人質を助け出してしまった。

 その上、犯人が人質の振りをしている事にも気が付き、危険を冒してまで中で戦っている私達にそれを伝えに来てくれた。その事によって影路は拳銃で撃たれ、現在警察病院で入院している。

 本当に立つ瀬がないというのはこの事だ。

 何がBクラスだろう。結局あの事件で犠牲がでなかったのは、全て影路のおかげ。足を引っ張ったのはどっちだと言う話である。

 だから私は、潔く佐久間から身を引く事を決めた。

 トイレに行くと言って、病室に佐久間と影路を2人きりにしてきた。きっと、今頃佐久間は影路をパートナーに誘っているだろう。もしかしたら、それ以上かもしれない。

 小柄な影路と佐久間は、私よりずっとお似合いだ。

 Dクラスと言って、不釣り合いという人もいるかもしれないけれど、影路の能力はクラスだけじゃ測れない。普通はあんな銃弾が飛び交う中に、ちゃんと戦闘訓練をうけた人でも怯んで入ってこれない。相当強い意志がないと。

 きっと、影路も佐久間の事が好きなのだろう。アイツは馬鹿だから、気が付いていないだろうけど。

 

「そろそろ、戻ろうっと」

 私はトイレから出て、再び影路がいる病室へ向かった。

 もしも病室でイチャイチャしていたらどうしよう。……佐久間を蹴ってから、ここがどこなのかをきっちり話せばいいか。

「ただいま」

「むごごご」

「おかえりなさい」

 ……イチャイチャはしてないようね。

 影路が貰っただろうお菓子を口いっぱい頬張る佐久間を見て、私は自分の妄想に笑いたくなる。そう言えば、佐久間はヘタレなのだ。そう簡単に進展するはずもない。

「佐久間、お願いごとがあるのだけど」

「……んぐっ。何だ?」

「喉が渇いたから、一階にある自販機でミネラルウォターを買ってきてほしい」

「いいぜ。俺も何か飲み物欲しいし。明日香は、炭酸でいいか?」

「えっ。あ、うん」

 私と入れ替わるように佐久間が出ていってしまって、私は唐突に影路と2人きりになった。


 えっ。どうしよう。

 これは、謝るチャンス?

 オロオロと心の中で考えていると、先に影路が口を開いた。

「迷惑をかけてごめんなさい」

「は? 迷惑?」

「私がもう少ししっかりと調べておけば、自分が怪我をしなくてもすんだと思う。私が怪我をした事で明日香さんに迷惑を――」

「迷惑じゃないわよ。いい? あの事件は、影路のおかげで解決したと言ってもいいの。勝手に謝らないでよ。調子が狂うじゃない。さっきも言ったけど卑屈は嫌いなの」

 あああ。また私はそんな言い方を。

 自己嫌悪再びだ。

 きっと何言ってるんだ、この女だろう。涙目で見られたくないんだけどと思いそろっと影路を見れば……笑っていた。

 可愛らしい笑顔に、ぽかんとしてしまう。

「うん。なら、ありがとう」

「……どういたしまして」

 あまりに素直なお礼に、私もまた素直に言葉がでた。

「私の事を心配してくれて嬉しかった」

「心配ぐらい、誰でもするわよ」

 すると影路は首を横に振った。


「私はDクラスだから。卑屈とかではなくて……家族ぐらいしか心配してもらえない。明日香さんが優しい人でよかった」

「……さんは、要らないわ。最初に、影路に酷い事を言ってごめんなさい」

 まさかあれだけ酷い事を言って、優しいと言われるなんて思ってもいなかった。だから私もその場の勢いで、当初の予定通り謝る。これが佐久間だったら上手くいかなかっただろう。

「別にいい。本当の事だから。それに明日香は佐久間の事が好きなのだから、突然私が佐久間の友人として現れたら心配になると思う」

「す、すっ、好き?!」

「うん。私も佐久間の事が好きだから。何となくそうだと思った」

 ……冷静な子ね。

 影路は動揺や恥ずかしがっている素振りをまったく見せない。なんだか隠そうとしている私の方がおかしいみたいだ。

「私は好きな人ができたのは初めてだから、同志がいて嬉しい」

「えっ? 初めて?」

「ええ。私でも人を好きになれるのだと知って、嬉しかった。それに、優しい明日香が佐久間を好きでいてくれるのが嬉しい」

 直球だ。

 嫉妬も何もないのだろうか。……もしかしたら、影路の好きは恋愛感情とは少しずれているのかもしれない。まだ未発達の恋。

 ライバルがいて嬉しいとか、私が佐久間が好きで嬉しいとか……どうなんだろう。この子に嫉妬を感じている私が馬鹿みたいだ。


「ねえ。聞くんだけど、もしかして影路って、私の事も好きだったりする?」

「うん。……迷惑になったら申し訳ないけど」

 佐久間、可哀想に。

 まだまだ先は長そうだ。影路の好きが恋へと変わるまでは。

「卑屈は嫌いと言ったでしょ。好意を向けられて、迷惑なわけないじゃない。そう言えば、下の名前は綾よね。これから綾って呼んでもいい?」

「問題ない」

「私も綾の事好きよ」

 佐久間の事があってもなくても、私は多分この子が好きだ。あれだけの事を言っても、まっすぐに私を見てくれる綾が。

 しばらくは、私も恋愛なんてどうでもいいか。

 新しくできた女の子の友人に私は笑った。

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