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悪魔たちの正義  作者: 嘉月青史
3rd 〝神の力〟を持つ者
41/99

第2話

2、


「アタシはねぇ、アンタみたいな餓鬼が一番嫌いなのさ」

 女は言う。

 動物の毛皮を織り込んで作られた絨毯、ガラス製のテーブルに繊細かつ絢爛な照明具、部屋の内装といい各所に置かれた装飾具――そのどれもが高級品であり、しかも下品にならないように調和の取れた配置をされている。

 金持ちの屋敷では、自分の財力を客人に誇示するかのように、高級品をこれ見よがしに設置するところもある。そういう場所は、大抵の場合成金か、あるいは富はあっても心は卑しい人間の住まう所だ。

 その点この屋敷は、置かれているものひとつひとつが高価な品であるものの、決してその価値を見せつけようとせず、あくまで広間の一家具としての役割を果たしている。このような場所は、先ほど述べたような半端な富豪ではなく、いわゆる本物が住んでいる証拠であった。

 そんな豪華な内装の広間の中、向かい合う男女の姿がある。

 互いにソファーにかけており、その内濃紺のゴシック調の男装服に紅のビロードマントを羽織った女が、向かいの男を睨んでいた。マントと同じ紅の髪にアクアマリンの瞳を持つ、気の強そうな相貌の持ち主である。女性の身であるが『男前』という言葉が似合う顔かたちで、睥睨ひとつにしても迫力が伴っていた。

「こうやってアタシが頭を下げてやってるのに、その好意を無視して、頑なに要求を拒む。いい加減理解しな。こうしている間にも、そちらのお嬢様には危険が迫ってるのよ」

「――何度も申しておりますが、そちらの要求には応えられません」

 女の恫喝に、男は動じることなく受け答えた。

 銀髪赤眼の精悍な面立ち、男性の礼服であるモーニングコートに身を包んだ青年である。まだ齢は二十代前半であろうが、礼節を弁えた清流のような穏やかな空気と、岩山のような厳格な空気とを混在させた奇妙なオーラを持つ男だった。

 一目見れば、誰でも彼がただ者ではないことには気がつく、そんな不思議な青年だ。

 彼が否定の言葉を返したことに、女は苛立たしげに睨みを効かせる。

 が、彼はそれをあっさりと受け流すと、彼女の目から目を逸らすことなく言葉を紡いだ。

「先代より、お嬢様が魔術に関わることを禁じるようにと言い渡されております。そちらの要望は、とてもお受けできません」

「埒が明かないねぇ……」

 やんわりとしつつも明確な拒否の返答に、女が溜息まじりに天を仰いだ。

 小型のシャンデリアを備え付けた真っ白な天井を見上げ、女は双眸を静かに細める。

 途端、いきなり彼女は男へと目を戻し、ガラスのテーブルを掌で勢いよく叩いた。

「――つうか、このやりとりだけでもう三日よ、三日!! いい加減折れろや、このクソ餓鬼!!」

「………………」

 女の怒声に、しかし男はほとんど顔色を変えなかった。せいぜい彼女が叩いたテーブルの箇所を見て、軽く目を細めた程度であった。

 彼の視線は、彼女が拳を打ちすえたテーブルへと向いている。幸いテーブルにヒビは入らなかったが、表面に多少傷が入ったことだろう。

 それを確認すると、彼は両目の付け根に右手の親指と人差し指をそれぞれ据えた。どうやら目の前の女の激昂より、調具の具合の方が大事らしい。

 青年は、テーブルに置いてあった紅茶入りのティーカップを手に取る。それを口に運んでから、

「私の事をどのように呼ぼうとお好きなように。しかし、屋敷の調具を壊しませんように」

 そう言うと、彼は一口だけ含んだ紅茶を呑みこみ、カップをテーブルに戻した。その悠然とした態度に、女は口を閉じて眼光の輝きを増す。その目には、明らかに目の前の男に舐められていることへの苛立ちと怒気に溢れていた。

 その時、両者しかいなかった広間に、遠慮気味に入ってくるメイドの影があった。二十代前半の、どこか頼りなさそうな顔立ちの女性である。

「ダンテ殿。例の、エキドナ様のお知り合いという方が到着いたしました」

「……分かりました。お疲れ様です」

 彼女の言葉に青年――ダンテは労うような会釈と微笑を返す。

 目の前の女には、頑なに否定的な構えを崩さなかったが、それとはまるで違う柔らかな表情である。美形と格付けていいだろう青年の微笑を向けられ、その家政婦はやや頬を赤らめた。

 が、すぐに何かを思い出したように、彼女は戸惑いの表情を露わにする。ソファーから立ち上がろうとしたダンテは、目敏くそれに気がついた。

「いかがなさいましたか?」

「いえ……その。聞いていた方の他に、三人ほど御付きの人がいるようで」

 彼女の言葉にダンテは訝しげに目を細めた後、問うように視線を対面の女――エキドナへと向けた。

 それに対し、エキドナは肩を竦める。

「アタシは知らないわよ。アイツが、勝手に連れてきたんでしょう」

「……そうですか」

 ダンテは了解の意思として小さく顎を引いたが、納得はしていないらしく、相貌には疑心がはっきり表れていた。

 彼はソファーを立ち上がると、そのまま広間を出ようと歩きだす。一歩遅れて、エキドナもそれに続いた。

 広間を出た後、ふとダンテが足を止める。

 一歩遅れてエキドナも足を止めると、ダンテは彼女に振り返りながら口を開いた。

「もし……力づくで来るのなら御覚悟ください。ただでは済ませませんよ」

「……調子乗んなよ、クソ餓鬼」

 挑戦的な彼の言葉に、エキドナは苛立たしげな悪態を吐き捨てた。



 黒に染まった鉄製の門をくぐり、敬一たち四人はエーデルワイス邸の敷地へと足を踏み入れていた。

 手入れのよく行き届いた芝生の中をアスファルトで舗装された通路が走り、広々とした空間には遮蔽物が一切ない。数百メートル先にある屋敷の本館や、屋敷の敷地を囲む鉄の防柵、その先にある森の木々まで見通す事が可能だった。

「……なんか、連続密室殺人事件が起きそうな豪邸だな」

 門から屋敷へと向かう最中、敬一がそう漏らすとサムが吹きかける。一方、彼らを先導する家政婦は、敬一に顔を向けぬまま苛立ちを面に浮かべていた。当然だが、自分の勤め先をかのように評されて怒りを覚えない人間などいまい。

「確かに、雨とか降り出したらそういう雰囲気になりそうだね」

「夜になったら更に雰囲気出るな。屋敷の中に人が集まれる広間とかあったら完璧だ」

 サムと敬一が妙に盛り上がっていると、家政婦が小さく舌を打つ。微かにだが、憤怒の気配も漂っている。

 が、それに対し反応を示したのは幸のみで、他の三人は無反応だった。敬一はすでに屋敷に着いたために森の真っただ中で放りだされる懸念がなくなったためかもはや遠慮はなく、サムは元々そういうことに頓着しない性質であり、メディアにいたっては他人の心情に興味がない。もっとも、幸も反応といっても目を瞬かせる程度のもので、あまり大きな反応ではなかった。

 そんな中、屋敷の扉が内側から開かれる。そこからは二つの人影、紅髪にビロードマントを羽織った女と執事風のモーニングコートを着こなす銀髪の男が姿を現わした。

 敬一たちそれに気がつく中、

「お、いた」

 二人を見て、メディアがそう言葉を溢す。

 その言葉に、敬一が不審げな眼で彼女に口を開きかけるが、それより早くそちら側から声が割り込んできた。

「お~。久しぶりねぇ~、メディア」

 五十メートル以上離れているにもかかわらず、はっきりと聞こえてきたその声に、メディアと先頭の家政婦を除いた三人の顔に不審の表情が浮かぶ。

 今度こそ、敬一はメディアに尋ねた。

「あれが、お前の言っていた知り合いの魔女か?」

「あぁ。エキドナ・メイガス――旧くからの知り合いだ」

「……メイガス?」

 メディアの口から伝えられた魔女の名に、幸が疑問の声を洩らす。

「メディアの、親戚?」

「いや。メイガスというのはだな――さっき言ったような魔術界における〝魔女″のように、ある一定のレベルに達した魔法使いのみが名乗れる名称のことだよ」

 メディアはそう手短に説明すると、消える。

 次の瞬間、彼女はエキドナの待つ玄関のすぐ手前にふわりと降り立っていた。その現象に、家政婦は微かに驚きを露わにしたが、エキドナも銀髪の男も大きな反応はしめさなかった。

 外套の中から、メディアはエキドナに対して手を持ち上げる。

「久しぶり――いつ以来だろうな、エキドナ」

「さあねぇ……三十年は固いんじゃないかい?」

 再会の言葉を口にしたメディアに、エキドナはケラケラと品はないが磊落な笑みを浮かべる。メディアもゆるりと口の端を吊り上げると、今度は彼女の斜め後ろに立つ男へと目を向けた。

「で、この男は?」

「……エーデルワイス家で執事を務めております、ダンテ・ジークフリードと申します。メディア・メイガス殿ですね」

 右腕を胸部と腹部の間に畳み、微かに頭を下げながら、ダンテは慇懃に名乗りを上げる。

 その礼儀正しい態度に、メディアは少し意外そうに目を瞬かせた。

「ふむ……。すまんな、一瞬この女の知り合いかと勘違いした。不快だったか?」

「――いえ。特には」

 メディアの言葉に、ダンテは薄ら笑みを浮かべながら頭を振る。やや苦っぽいのは、その言葉が多少なり的を得ていたためだろう。

 一方、それを聞いていたエキドナは不満そうに眉根を寄せる。

「引っ掛かる言い方だねぇ。まるで私とかかわりがあるだけで値打ちが下がるみたいじゃないか」

「おや? お主は自分が高貴で畏れ多い人物だと思っておるのか?」

「まさか。そんなご身分、願い下げさね」

 舌を軽く出して視線を逸らしたエキドナに、「だろうな」とメディアは小さく頷く。

 このやりとりだけで、彼女らが長い付き合いであることは一目瞭然だった。

 そんな中、エキドナがふと視線を横に流すと、こちらへ近寄ってくる敬一たちの姿を見て目を細める。

「んで、メディア……何だいその餓鬼たちは? こっちはまったく聞いてないよ」

「戦力になりそうだから連れて来たのだ。生身なら、お前よりずっと役に立つぞ」

「あァッ?!」

 メディアの言葉に、エキドナはカッと、何故か敬一たちを睥睨した。

 その眼光に、家政婦と幸がおもわず仰け反る。

「何、見てんのよ!」

「……お前が見たんだろ」

 いきなり因縁をつけてきた彼女に、玄関の手前まで着いていた敬一がぼそっと呟いた。

 その顔には、非常に嫌そうな、面倒くさそうな表情が浮かんでいる。メディアの知り合いと聞いていたため、厄介な人物に違いないと邪推しており、それを今確信したのだろう。

「戦力、と言われましたが、一体何に対する物でしょうか?」

 しばしメディアとエキドナの会話を静観していたダンテが、そこで口を挟むとメディアに視線を向けた。その目には微かだが警戒が浮かんでいる。

 鋭い眼差しに、メディアはしかし平然と彼を正視する。

「ん? 『魔女狩り』のこと、こいつから聞いておらんのか? 守るのに人数は多い方がいいと思ったのだが」

「……左様ですか」

 彼女の説明に、男は納得したのかどうなのか、曖昧に顎を引いた。

 その反応にメディアは不審気に目を細めるが、ダンテはその視線を意に介すことなく、今度は敬一たちに目を向ける。

 すると彼の赤い瞳と、彼らの先頭であった敬一の黒瞳が偶然にもぶつかった。窺がうようなダンテの視線に、敬一は怪訝そうに眉根を寄せる。

 ダンテは彼を見ながら口を開き、しかしメディアへと問いかける。

「それで、あの人たちはどのような方たちで?」

「傭兵だよ。といっても、口ばかりのゴロツキではないから、安心しろ」

「了解しました」

 メディアの言葉を受け、ダンテは敬一たちに向かって軽く会釈をする。そしてすぐに、彼らからメディアたちへと目を戻した。

 魔女に連れられて来た傭兵――彼らに、改まって挨拶する必要はないと踏んだのだろう。

 見ようによっては冷たい、侮辱的に感じる者もいよう扱いだが、敬一が眉を吊り上げることはなかった。こういう富豪の屋敷に来た時点で、傭兵である自分にどんな態度をとられるかなど想定済みであった。丁寧に扱われることも、まして歓迎されるとも思っていない。

「――で、今の所何も起こっておらんな?」

 敬一たちのことをひとまず無視し、メディアがエキドナへと訊ねる。

 起こっていない、というのは、『魔女狩り』によっての被害のことである。ここの屋敷の一人娘が魔女となる才能をもっていることから、『魔女狩り』によって襲われるのをメディアたちは警戒しているが、絶対に襲撃を受けるという確信があるわけでない。

『魔女狩り』というのは、魔法使いになりうる才を持つ人間の殺害を目論む〝とある集団〟の行動であるが、前もって予告されるものでもないため、いつ彼らが襲撃してくるかという目安は存在しない。

 可能性だけでいうなら、『魔女狩り』の者たちが気がつかずに終わり、襲撃が行なわれる確率もあるのだ。それで済むならば、取り越し苦労ではあるが最良だ。

 念のための確認したメディアだったが、それに対しエキドナは眉を曇らせる。

「いや。すでに一度、来たわ」

「……何だと?」

 思わぬ返答に、メディアは訝しげに眉根を寄せる。

「つい昨日さ。まぁ、屋敷の敷地外で撃退したから問題はなかったけど」

「……早いな。もう、動かれたか」

 エキドナの報告に、メディアは小さく唸る。

 どうやら、彼女の予測よりも敵の動きが早かったようだ。少なくとも、自分がここに着くまでは大丈夫だと踏んでいたらしく、メディアの顔は険しいものとなっていた。

 そんな彼女に、エキドナは頷く。

「そう。だから、早くここから彼女を移動させようって話をしたんだけどねぇ……」

 言って、エキドナは横に立つ男に指を向ける。

「この男が、なかなか了承してくれなくてね、困ってんのよ」

「ほう。この男が後見役も務めておるのか?」

 苦っぽく吐かれるエキドナの言葉に、メディアは意外そう瞠目する。

 ダンテは、メディアの言葉に肯定を示すように小さく頷いた。

 それを見て、メディアは愉しげな笑みを口元に浮かべる。見た所、まだ二十代前半の青年である。そんな男が両親のいない魔術師の名家の一人娘の後見を務めているという話に興味を抱いたのだろう。

 指一つ、愉快げな視線ひとつ向けられて、しかしダンテの顔に変化はない。泰然としている。その立ち振る舞いは、若くして重役を任されているのもおもわず納得してしまいそうな貫禄があった。

 彼ら三人のやりとりを、少し離れた位置で敬一は静観していた。無闇に自分が介入するようなものでないと弁えたのだろう。

 そんな彼を、服の裾を引っ張って幸が呼んだ。

「……敬一。あの人たち、何の話をしてるの?」

「ん? そうだな、掻い摘んで言うと……」

 彼女たちの話の内容がいまいち分かっていない様子の幸に、敬一は少し言葉を考えてから口を開く。

「おそらく、『魔女狩り』の件ですでにこの屋敷に襲撃があったんだろう。幸い未遂に終わったらしいが、標的となっている女性はまだ屋敷にいるから、以後も襲撃が繰り返されるかもしれない。そこでどこか別の場所に彼女を搬送しようと、あのエキドナってメディアの知り合いの魔女が提案しているんだが――」

「あそこの執事の人がそれを許してくれない、ってところだね」

 敬一の言葉尻を、サムが自身も確認のためか引き受けて答える。

 正しい推察であったため、敬一は二人に頷いた。

 幸は納得したように小さく顎を引き、サムはそれを踏まえて周囲に目を馳せる。屋敷の本館、今横切った芝生の庭、そして防柵の向こうに広がる山や森を見渡すと、彼の目に疑念が浮かびあがった。

「でもこの屋敷、山奥にあるし人気配に乏しい。もし襲撃者が着ても、迎撃も簡単そうだし、別に移動する必要もないんじゃないか? 俺たちも来たことだし」

 サムの言う通りである。

 人里離れた山中の屋敷の周囲には、人の気配というものはまるでない。それどころか生物の気配が希薄であり、少し注意を払えば、離れた位置でも人がどこにいるかはおおよそ見当がつく。

 おまけに、広々とした敷地には遮蔽物が一切ないため、もし屋敷内に向かう不審な者がいてもすぐに発見することができるだろうし、そもそも魔術師の屋敷、富豪の屋敷ということだけあって、侵入者に対する対策は整っているはずである。

 常識的に考えて、この屋敷は防御に適している。

 が、

「……相手が楽な連中なら、それで済むんだけどな」

 敬一がぼそりと洩らした独白に、サムが目を細める。

 彼や幸に向けた物なのか、あるいは誰に対してのものでもない独白なのか不明ながら、妙に気味の悪い、聞く者を不安にさせるような言葉だ。

 サムが、敬一に対して目を細める。

「……ねぇ敬一。気になることがあるんだけど」

「何だ?」

「俺らはまだ知らないけど、君は『魔女狩り』を行なっている集団のこと、よく知っているみたいだね」

 サムの問いに、敬一は顔を向ける。

 その顔には、驚きは浮かんでない。むしろそのように言われるだろうことを予知していたかのような、納得と苦渋がない交ぜになった顔であった。

「……あぁ。知ってる」

 あっさりと頷く敬一に、訊いた本人であるサムが眉根を寄せた。

 隠す気がないのは表情を見て分かっていたが、すぐに認めるとも思っていなかったのだろう。

「何で、その人間たちについて話そうとしないんだ? これから戦うかもしれない相手なんだし、前もって話してくれれば俺や幸も動きやすくなるのは分かっているだろ? ――それとも、俺らに隠す必要があるような奴らなのか?」

 疑念を増したサムは、ほぼ反射的にそう尋ねる。

 敬一は、サムや幸にほとんど隠し事はせず、大抵のことは胸襟を広げて話す人間だ。もちろんそれにも例外があり、どうしても他人に話したくない事、語るべきでないことについては絶対口にしないという極端な一面もあるが、共に戦う時そのような態度を取ったことはこれまでの半年の付き合いで一度もない。

 サムの疑念に、幸も同調したのか、視線を向ける。

 二つの視線に敬一はしばらく押し黙っていたが、やがて溜息を洩らすと、後頭部を掻きながら肩を落とした。

「そうだな……。黙っていたところでどうしようもない、か」

 観念したように言うと、彼は一度メディアたちの方を窺がう。彼女らが何やら言葉を交わしてこちらへ意識を向けていないのを確認すると、敬一は二人に目を向けた。

 その顔は、普段に増して真剣だ。

「――【ベレシス】だよ」

「え?」

 敬一の言葉に、サムは瞠目し、幸は目を丸めて茫然とする。

 間髪いれずに、敬一は告げる。

「『魔女狩り』を主導しているのは【ベレシス】だ。しかも主犯格は――〝あの〟ロキの野郎だ」

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