ニムタンスがブロックを待つが……
アパートに帰ったニムタンスは、ブロックが帰ってくる前に調理場に立った。
「我ながら考えが浅はかだねぇ……」
手料理を作って、ブロックを陥落させようと考えている。もしかしたら、ローイ=メドンの事を、ペラペラ教えてくれるかもしれない。
「これでいいんだよね……」
料理には不慣れながらも、本を読みながら料理を作るニムタンス。
「まあ、ブロックの事だから、本当の事を言えば、教えてくれるでしょう……」
フレア=ゼナンという歌手が、ローイ=メドンの事を探している。ブロックとフレア=ゼナンを会わせるのは阻止した上で、ローイ=メドンの事を聞き出すだけのことである。
「褒賞が出るなんて嘘をつかなきゃよかった……」
ごまかすために、ブロックの勘違いに乗って言った言葉だが、いまになってそれが足かせになってきている。
「自分で褒賞を用意する事も考えないと……」
彼は、基本純粋でやさしい性格だが、バカではない。
あんな嘘を言った手前、ブロックに今更褒賞の話は嘘であると伝えたところで、それを信じたりはしないだろう。
今になって、「いきなり褒賞の話は嘘だから、ローイ=メドンさんの居場所を教えなさい」と言っても、いきなり証言を変えた事に疑問を持つだろう。
だから、自分で適当に褒賞を用意してブロックの事を納得させないといけないかもしれないのだ。
とにかく、フレア=ゼナンとブロックを引き合わせる事は絶対にできない。そのためならば、多少の出費は仕方ないだろう。ニムタンスはそう考えている。
「ブロックが帰ってきたかな?」
階段を登り、このアパートの部屋の廊下を歩く音が聞こえてくる。そろそろ、時間的にもブロックの帰ってくる時間帯だ。
そして、部屋のドアがノックされた。
「入ってきて」
『いつも、部屋に入ってくるのにノックなんて、した事なかったのに』と、思いながら、ノックをした人を部屋の中に促した。
「ニムタンス。ちょっと話がある」
入ってきたのは、ラタリとレイネンであった。ラタリは、部屋に入るなり、ニムタンスに言う。
「ニムタンスがそんな事をする奴だとは思ってなかったわね」
いきなり、ニムタンスに向けて言い出すラタリ。
「ローイ=メドンさんは明日にでもこのフロウを出て行ってしまうっていうのに、あんたは、褒賞の事しか頭になかったの?」
それを聞くニムタンス。
「ローイ=メドンさんが明日にこのフロウを出て行ってしまうって事は……」
それまで聞き、ニムタンスは思う。
「ちょっと待って! ローイ=メドンさんが明日にフロウから旅立つなんて、知らなかったのよ!」
状況を、大体理解したニムタンスは、弁明を始める。




