ザック=レイターの屋敷に
次の日も、レイネンの絵のモデルの仕事をするために、ブロックはザック=レイタ-の屋敷に行った。
ブロックが玄関の呼び鈴を鳴らすと、屋敷の中から出てくるのはいつもラタリであった。今日も、その例に漏れず、屋敷の中から出てきてパタパタと駆け足で門にまで行った。
「おはようございます。ブロック様。お待ちしておりました」
今はラタリも職務中だ。ブロックに対しても、他のお客様が来たときと同じような態度で接していた。
「やあやあ、ブロック君。君の事を待っていたんだよ」
屋敷の中から出てきたザック=レイター。彼は、にこやかな顔をして、ブロックの事を出迎えた。
その表情を見て、ブロックは、ほっ……と胸をなで下ろす。今日は、何か含みのありそうな笑顔はしていない。今日はなんやかんやでからかわれる事は無さそうである。
「絵も、もうすぐ描き終わるらしいって、レイネン君が言っていたよ。今日も張り切っていってくれ」
機嫌が良さそうにして言うザック=レイター。
「もうすぐ完成ですか。だけど、一番の問題はどうなるんでしょうね……?」
「まあ、それは彼女しだいだ。僕も彼女の絵は見ていないんでね、どうなる事か……?」
二人して考え込んでいるところ、屋敷の中からレイネンが出てきた。
「すぐに、絵に取り掛かります。準備をしてきてください」
そう言い、レイネンはブロックの手を取って、屋敷の中にブロックを連れ込んでいった。
ペコリと頭を下げながら、レイネン達を見送っていったラタリは、レイネン達が見えなくなると、顔を上げ、ザック=レイターに向けて聞いた。
「レイネン様の絵に、何か問題でも?」
「うーん……」と、言ってザック=レイターは腕を組んだ。
「簡単な事だよ……郵便局が募集をしているのは、風景画なんだ……」
「はい……? それがどうして……?」
そこまで言いかけたラタリは、最後まで言う前に、それに気づいた。
「まあ、それも勉強じゃないのかな? 僕が何度言っても聞かないし……」
投げやりな言いようで、そう言うザック=レイター。ラタリは、それを見て、呆けた顔をしていた。
『今まで私達がやっていた事って、なんにも意味がなかったんだ……』
もっと早くに気づくべきだった。絵を描くために、ブロックの事を呼んでいるという部分で、気づいてもおかしくなかったのだ。




