ニムタンスはそれに気づく
それは、ニムタンスには痛いほど分かった。ブロックはそういう奴だ。だが、だからと言って、今日一日の事が帳消しになるわけではない。
ニムタンスはそう思い、さらにブロックに向けて詰め寄っていく。
「本当に? 女の子と一緒になって、喫茶店や、服屋にとか行っていないのかな?」
ブロックに詰め寄っていくニムタンス。ブロックも、ニムタンスから威圧感を感じてはいるのだろう。ニムタンスが出てくるのに合わせて、ブロックも身を引いていく。
「そういうと、確かに喫茶店と服屋には行ったけど……」
あんなもの、デートなんかじゃない。絵を描く合間に、ちょっと休憩をしていただけの事である。ブロックがそう続けようとしたのだが、ニムタンスはブロックの言葉を聞かずに、さらに続けてきた。
「羨ましいねー。若い子と一緒にお茶なんて、男の夢なんじゃない?」
「夢ってワケでも無いんだけど……」
詰め寄っていくニムタンスから、顔を外したブロック。ブロックが横を見ると、怪しいものを見つけた。
「ちょっと……これって……」
壁にかけられているコートである。胸ポケットには、サングラスをかけている。
「ニムタンス……なんで君がこんなものを、持っているんだい?」
自分とレイネンが喫茶店にいる時、このコートを着た人が自分達の事を、じっ……と見つめていたのだ。それに関しては、ブロックも覚えていた。
「もしかして、僕の事をつけていたの?」
ブロックは、そのコートを手に取り、ニムタンスに不信な目を向けながら言った。
「そ……それは……」
今度はニムタンスがブロックの視線にたじろぐ番になったのだ。
「喫茶店のあの人は、ニムタンスだったんだね? なんでそんな事を?」
普段は鈍感なくせして、こういう事には鋭いブロック。彼は、ニムタンスを疑いながら見つめていた。
ニムタンスは、それに黙った。これで形勢が逆転してしまったのだ。だが、さらにブロックが言った。鈍感な言葉で、ニムタンスは窮地から脱する事になる。
「あそこにいたんなら、一緒にテーブルに座ればよかったじゃないか」
そんな事できるワケ無い。どれだけ鈍感なのだ? この男は……
そう考えたニムタンスだが、自分が、あそこに入っていっていれば、どうなったか? それを想像し始めて、口元をニヤリとさせた。
「そうだったよね。ごめんね、コソコソするような真似をしてさ」
それから、「はっはっは……」と笑ったニムタンス。ブロックはそれを見て小さくため息を吐いた。
ブロックとレイネンが一緒にいるところにニムタンスが入っていけば良かったのである。一緒のテーブルに座って、レイネンとブロックの二人きりの時間を、邪魔してやればよかったのだ。
今になってそれに気づいたニムタンスは、口元をニヤリとさせながら高笑いをしたのだ。




