パフェにはまったレイネン
「ここです。昨日初めてパフェというものを食べました」
レイネンはお店に入ると、席に座るよりも早く店員に昨日もらったパフェを注文した。そして、レイネンはブロックに対して話し出す。
「こんなに美しいものを見たのは初めてでした。私、毎日ここに通うと決めてます」
レイネンは、目をキラキラさせながら言う。
『やっぱりこの子もまだ子供なんだよな……』
いくら絵が上手いといっても、彼女だってまだ年若い娘である。初めてパフェを食べれば、美味しさの虜になったりする。
「この店は、有名らしいからね。遠くからも人が来るっていうし……」
そう言い、ブロックは辺りを見回した。そしたら、黒いコートにサングラスをかけた人を発見したのだ。この場にいるのは女性が多い。友人と談笑しながら、パフェをほうばる女性たちしか居ない中で、その怪しい格好は異彩を放っていた。
ブロックは、ゆっくりと顔をレイネンの方に戻した。
「あの人……じっ……と、こっちの方ばかり見ているけど、知り合いかい?」
その、コートを着た人は、さっきからこっちの事を睨んでいるかのようにして、ずっとこちらに視線を向けている。
「知り合いかどうかは分かりませんね。あの服装では、男か? 女か? さえも分かりませんから」
確かに、サングラスにマスクで顔が見えず、目深に帽子をかぶっていて、髪が長いか? 短いか? すら判別をする事もできなかった。
「レイネンさん? 何をさっきから笑っているのですか……?」
ブロックが、レイネンの事を見ながら言う。レイネンはザック=レイターが面白い事を見つけたときのようにして、面白そうにして笑っていたのだ。
だが、ブロックがそう言うと、顔を真顔に戻すレイネン。
「いえ……笑ってなどおりませんが……?」
レイネンは言うが、さっき、確かにレイネンは笑っていた。それを確信しているブロックだが、レイネンは、『笑ってなどいない』と言う。
それを踏まえて考え、何か嫌なことが起こっているのではないか? と、推測するブロックだが、やはり、彼の頭では、それが自分が原因で起こっていると気づく事ができない。
「前からやってみたかった事があるんです。いいですか?」
そう言うレイネンは、スプーンを使ってパフェをすくった。
「はい、あーん……」
レイネンは、スプーンをブロックの口元にまで持っていった。
ブロックは未だに不信感を感じているようで、周りを見回す。だがブロックには、異変を感じる事ができない。
恐る恐るといった感じで、ブロックはレイネンの出してきたスプーンを口にほうばった。
すると背後から、ガタッ……と、いう音が聞こえてくる。
ブロックが後ろを振り返ると。さっきの人がテーブルから立ち上がっていた。さっきの、ガタッ……と、いう音は、その人が原因なのだ。
その人は、ブロックの視線を感じ、横を見て席に座り直した。
レイネンは笑顔のまま、ブロックがパフェを食べたスプーンをペロリと舐めた。
そうすると、またガタッ……という音が聞こえてくる。ブロックが振り向くと、やはりさっきの人が立ち上がったところだった。
「あの人、落ち着きがないですね。静かにしていられないのでしょうか?」
『やっぱり笑ってる……』
ブロックはレイネンの顔を見て、そう思った。
「笑ってなんかいませんよ?」
「何も聞いてないでしょう……」
レイネンはブロックから聞かれる前に、先回りしてそう言った。ブロックも、聞く前からそんな事を言われると、言葉に詰まるというものだ。
「まあいいや……早く食べないと溶けるよ……」
ブロックが、レイネンのパフェを指しながらそう言う。
レイネンのパフェを見ると、アイスが、パフェの器からこぼれ落ちそうになっている。
「いけません……」
そう言い、レイネンはそのパフェに、スプーンを突き刺し、急いで食べようとする。
「そんなに急いで食べると……」
レイネンに、そう忠告をするブロック。だが、レイネンは手元を狂わせてしまった。
「あ……」
レイネンは、呆然とした顔をしてそう言った。
パフェは、なんと、レイネンの服にかかってしまったのだ。ベットリとしたパフェが、レイネンの服にかかり、思いっきりシミを作ってしまう。
「この服……大切にしていたのに……」
そう言うと、レイネンの目尻が潤んできた。
「う……うわーん!」
それで、泣き始めてしまったレイネン。
「うわぁ! 泣いちゃダメだって!」
そう言って、泣き止ませようとするブロックだが、レイネンは当分泣き止まなかった。




