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ストラスレター  作者: 岩戸 勇太
絵葉書の大賞
57/84

またも、作戦会議

「おおー……」

 ニムタンスは、テーブルに突っ伏した。

 ここは、メイネの部屋。またも作戦会議をしているところである。

 メイネはメルムと一緒に、郵便局の絵を描いている。その後ろで、テーブルを挟んだニムタンスとラタリが会議をしていた。

「あの子、そんなに悪い子には見えないけど……」

 ニムタンスが言う。だが、ラタリにとっては違う印象のある子である。

「私は、レイネン様にお屋敷を追い出されそうになったし……」

 あれは、正確には、ラタリが勝手に飛び出しただけの事であったのだが、家政婦としてのスキルの差を、見せつけられた相手である。ラタリとしては、どうしてもライバル視をせずにはおれない相手なのだろう。

「ニムタンス。あなたも、うかうかしていられないはずよ。今日は、家では確かにブロックと一緒にいるでしょうけど、今は昼間は絵のモデルとして、ブロックと一緒にいるのよ」

 一緒の部屋で、ブロックと生活しているニムタンスだが、一向に進展がない。

 ところが、お互いに意識をし合うような事もなく。まるで、家族と生活をしているような感覚でブロックとの同居を続けていたのだ。

 最近になって、それに気づきニムタンスはブロックの事を意識するようになってきたが、ブロックの方といえば、相変わらず、ニムタンスに対する態度は変わっていない。

 何も言わなければ、ニムタンスが隣で着替えを始めても、そのまま部屋に居座っているのだ。

「レイネン様とブロックの距離ってどうなっているのかしらねぇ? もしかしたら、ニムよりも進んでいるんじゃない?」

 ニムタンスは、ブロックがレイネンと一緒にいる所を想像した。


 レイネンは、ふとブロックの事を抱きしめる。

 最初は戸惑っていたブロックだが、レイネンの気持ちに気づき、生唾を飲みながら、自分に向けられている視線を、真っ向から受け止める。

 レイネンが目を閉じると、それに合わせてブロックも目を閉じた。

 二人の唇は、徐々に近づいていき、あっさりと重なっていく……

 

「いや、ないない……」

 首を振りながら言ったニムタンス。

 考えてみたが、ブロックがそんなに簡単にキスなどをするとは思えない。ニムタンスは、二人のその姿を想像してみたものの、どうにも現実感を感じなかった。

「やっぱりそう?」

 ラタリも言う。レイネンとは長い付き合いでもないが、ブロックを、呼びつけて絵のモデルをさせると、いうだけの事でも十分満足をしているのではないか? と思う。

 なんていっても、話に聞いた賞を撮る前は、礼儀作法を学び、それからは、絵の英才教育を受けていて、遊びや、異性との付き合いといった類の事はからっきしなのだという。

「旦那様が言っていましたね……男は恋をすると作品に深みが出てくるが、女は恋をすると、作品に深みが無くなるって……」

 著名な画家の言葉である。ニムタンスには、その感覚はよく分からないが、その言葉には信じる価値があるような気がしていた。

「レイネンちゃんは、恋を覚えるのはまだ早いだろうね……」

 二人の会話を横で聞いていたメイネは、その時の二人の事を見て、思った。

 あの二人が、一人の女の子を陥れるために、ここまで卑怯で計算高くなれるのは、やっぱり恋の力なのだろうか?

 大人達が、策謀を巡らせているのを見て、こんなふうになるのなら、恋なんてしなくてもいいと、少しだけ思った。

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