ザック=レイターの屋敷に行くブロック
「こんにちは。ラタリ」
ラタリが門の前で掃除をしているところに、声がかけられた。聞きなれた声を聞き、思わず驚いて振り返ったラタリは、声を出した本人を見て目を丸くした。
「ブロック……なんでこんな所に……?」
ブロックは、ザック=レイターの家にまでやってきたのだ。
「局長の命令でさ……なんでも、僕の事を絵のモデルにしたいんだって……いやあ、僕が絵のモデルなんて、てれるなぁ……」
そう言ったブロックだが、本人としてはまんざらでもないといった感じであった。
「待っていました。今日は御足労いただき、誠にありがとうございます」
ブロックとラタリが話しているところに、レイネンがやってきた。
「ラタリさん……」
そう言うレイネン。それだけで意図を察したラタリは、急いで屋敷の中に入っていった。
「お茶をお淹れしますね」
ラタリがそう言い、屋敷の中に消えていったのを見たレイネンは、ブロックにペコリと頭を下げる。
「今日は私のわがままに付き合っていただいてありがとうございました。お茶とお菓子を用意してありますので、そちらをお召し上がりください」
レイネンが丁寧な言いようで言う。ブロックは、それを見て、顔を引きつらせた。
「今回は……お招きいただき……誠にありがとう……ございます」
慣れてもいない、丁寧な言葉を言いながら、ペコリと頭を下げるブロック。
「気楽にしていただいていいのですよ。それでは参りましょうか」
そう言い、レイネンは、ブロックの手を取って屋敷の中に向かって行った。
「こんな場所、緊張するなぁ……」
思わず周りを見回すブロック。
ザック=レイターの屋敷は、外から覗いたことは、何度もあるが、中に入ったのは、ブロックも初めてであった。
そして、正面には、礼儀正しく座るレイネンの姿があった。
さっきから、何も言わずにブロックの事を見つめ続けているレイネンの視線を感じ、緊張をするブロックは、緊張から唾を飲み込んだ。
ふと、部屋のドアが開いた。それでブロックはビクリと体を震わせた。
「お茶菓子を用意してきました」
そう言って、ラタリが、カートを押しながらやってきた。
「今日のお菓子は、私の気に入っているものなんです。このフロウは、いろいろなものが充実していますね」
「はあ……」
そう言い、ブロックは手のひらに汗がじっとりと滲んでくるのを感じていた。
「僕を呼んだ理由って、何なんですか? 話では、絵のモデルをするという事ですが?」
ブロックは、そう聞く。
街の名士であるザック=レイターからの呼び出しである。気がそこまで強くもないブロックの反応は、一般人の反応としては普通である。
何か粗相をしたら、このフロウから追い出される事だってありえるのだ。文化フロウでの、芸術家というのはそれだけの権力を持っているものなのである。
「はい……今回、郵便局で絵の募集をしていると聞きまして、それに投稿をする絵を描きたいと思っているのです」
レイネンがそう答えるのだが、ブロックには、そこが分からない。
根本的になぜブロックが必要なのだろうか? 投稿をするための絵を描くのならば、ブロックなんて、まるで必要がないのだ。
「では、お茶菓子を食べましたら、私についてきてください。さっそく絵を描き始めます」
「分かりました……」
とりあえずは、そう答えるブロック。疑問と不満を感じながらもレイネンについていき、レイネン用に用意をされたアトリエまで移動をしていく。




