グレッグがニムタンスに
「なるほど……大体分かった……」
ニムタンスは今の状況の説明をする。グレッグはコーヒーカップを傾け、自分の舌に、コーヒーをなじませながら言う。
『まあそんなところだろうな……』
と、いった感じのグレッグの態度に、委縮したニムタンスは、顔を伏せて答えた。
「お前としては、そのレイネンが大賞を取って、一日局長をやるのを防げればそれでいいって事なんだろう? だが、止めるのは難しそうだな。未来を期待されている『期待の新人』が描く絵に、絵の審査をするのは、その期待の新人の師匠ってわけだ」
こんなものは、どう見ても出来レースだ。そう見るのが妥当だろう。
「なら、別の方法を考えればいい。例えば、『期待の新人』が、絵を描く事が出来ないようにするとか……」
そうグレッグが言うと、ニムタンスは、はっ……として顔を上げた。
ニムタンスが想像をするのは、靴の中に画鋲を入れたり、絵描きの道具を壊したり、掃除道具置き場に彼女を閉じ込めたりなどの陰湿ないじめであった。
「そんな卑怯な事はできないわ! あんたはいったいどこまで腐っているのよ! この腐れ外道! いっぺん死んで来たほうがいいんじゃないの!」
ニムタンスは、身を乗り出してグレッグに向けて言う。グレッグは、ニムタンスが怒ったのを見て、驚いて身を引いた。
「どんな想像をしているんだよ? そんな事を考えつく方が腐っているだろう……」
グレッグは答える。
「絵を描くのの邪魔をするっていっても、方法があるだろう? たとえば、その見習いと友達になるんだ……」
そうして、連日連夜、遊びに連れて行く。そうすれば、投稿用の絵はほっぽられてしまい、期日に作品を仕上げる事が出来なくなるのだ。
「ふむふむ……そういう手もあるか……」
ニムタンスは興味深そうにして聞く。
「お前には教えちゃいけない事だったかな……?」
頭を抱えたグレッグはそう言った。
「そりゃ、今の行動だって間違っていない。他の絵描きに、絵を投稿させ、代わりに大賞を取ってもらうっていうのも、もちろん有効だ」
グレッグがそう言うが、ニムタンスは全く聞いていなかった。
「それじゃあ、今日から作戦開始よ! 見ていなさい! イヤという程遊びに連れて行ってあげるから!」
ニムタンスは一人で燃え始めた。グレッグの言う事など、まったく耳に入っていないという感じで、自分の世界にドップリと浸かりはじめたのだ。
「教えてはいけなかったな……」
ニムタンスの様子を聞いて、今更ながらに教えた事を公開し始めたグレッグは、ポツリと言った。




