絵葉書の大賞
「こーんにーちーはー」
ザック=レイターの屋敷の前で、大声を出して言ったブロック。
「はいはーい」
その、ブロックの大声に答えて家の門にまでやってきたのは、ラタリであった。
「今日は、ザック=レイターさんはいるかい?」
ラタリに、今日の手紙を渡しながら言うブロック。
「旦那様は居るけど、今創作中なので、お部屋から出れないよ。重要な話だったら、呼んできてもいいけど?」
ラタリは、いつものエプロンドレスを着て、箒を持って掃除をしているところだった。
「ラタリも、このお仕事に復帰できてよかったよ」
「あの時の事は……私の早とちりというか……」
あれから、ザック=レイターの家のメイドの仕事に復帰したラタリだが、他の悩みも増えてきたのだという。
「レイネンさん……どうもブロックが気になるみたいなのよ……ずっと、ブロックの絵ばっかり描いているし……」
「気になるって言っても、いろんな意味があるじゃないか? 僕の絵を描いているって事は、創作対象として僕の事を気にしているみたいだけど?」
そうブロックが言うと、ラタリは、ちいさくため息を吐いた。
「あんたって本当に平和ね。……まあ、台風ってのは中心が目になっているから一番平和なのよね」
ラタリが言うのに、ブロックは、まったくワケが分からないといった感じで答える。
「何で台風が出てくるんだい? 全く関連性がないと思うけど?」
首をひねって考えるブロックを見て、ラタリは「ふん……」と小さく嘆息をした。
「死ぬまで考えていなさい」
ラタリは言い、屋敷の中まで行こうとした。
「待ったラタリ! ザック=レイターさんに渡して欲しいものがあるんだ!」
そうすると、ラタリは足を止めてブロックに向けて振り返った。
「何?」
けんの篭った言い方でそう言ったラタリ。それに押しつぶされそうな恐怖を感じたブロックだが、懐から一枚の紙を取り出して言う。
「今度、一般から絵の公募をして、絵葉書を作ることになったんだ。ザックさんにも送って欲しいなって思っているんだけど」
そう言うブロックから、チラシを受け取り、それを読むラタリ。
「絵葉書? そういえば、このフロウでは見たことない気が……」
「そうそう、いままで無かったんだよ」
フロウは、いろいろな特性がある。農業フロウのように、農産物を作り続けているような場所があれば、文化フロウのように、芸術作品をいくつも作って、世界に発信をしているような場所もある。
文化フロウという特性上、葉書一つにもセンスのいいものを取り入れようという、試みをするのだ。
「建築家がデザインした建築物や、このフロウで活動している画家や、彫刻家の作品を並べられた美術館などもあるんだけど、観光をしにくる人も、なかなか多くならないんだよね」
この文化フロウは、他のフロウとのドッキングの時に、相手のフロウの人に、美術館に入ったり、オペラハウスに入ってもらったりしてほしい。
「だけど、オペラを見に来る人や、美術館に来る人なんて、限られていて、あまり収入としては良くないんだ」
結局、こんな高尚なものをたしなむ人間なんて限られている。




