レイネン、このフロウに残る
レイネンは、何も荷物を持たずに、ストラエレベーターのある場所に行った。持っているのは、一冊のスケッチブックくらいである。
「レイネン様お帰りですか?」
グレッグは、レイネンの様子を、不思議そうにして見ながら言った。
今日は、レイネンが地上に帰る日となっていた。だが、荷物を何も持っていない。
「今日は帰りません。私は、当分このフロウに滞在します」
そう言い、面食らったグレッグの事など気にせずに踵を返して帰っていってしまう。
ふと、レイネンのスケッチブックから、一枚のラフ画が落ちた。それに気づいたグレッグは、それを拾い上げる。
「これはブロックか?」
知り合いの顔を絵に書いているレイネンに、グレッグは不思議に思ってこれは何なのか? と聞こうとした。
「レイネンさん!」
大声で、レイネンに向けて言うグレッグ。
『どうして、こんな絵を書いているんですか?』
そう言おうとしたグレッグだが、それを聞くのはやめた。
どうせ、ブロックが、また何かをやったに決まってる。あいつは、女に興味を見せないくせして、妙に女に好かれるところがある。
そんな話をいちいち聞いても無駄だと思ったグレッグは、聞くのをやめてこう言った。
「一枚絵が落ちましたよ。上手いですね。あなたが描かれたのですか?」
グレッグがそう言うと、レイネンは無言でラフ画を受け取った。
「あいつは、また女を口説いたのか……何人はべらすつもりだ?」
レイネンの姿が見えなくなるまで頭を下げたグレッグは、ちいさくそう言った。




