ザック=レイターの屋敷で
「お客様用の布団をお使いください」
ブロックは、ザック=レイターの屋敷に戻ると、一室に通された。そこは、こじんまりとした部屋になっており、ベッドが一つ。
「私は、メイドの部屋を使います」
ザック=レイターとブロックを客間に残して、メイドの子は部屋を出ていってしまった。
「さて、聞かせてくれるかい? なんで、家主の君が追い出される事になったのか?」
「そもそもですね」
ザック=レイターの家で勤めていたラタリだが、いきなりクビになったと言ってやってきたのだ。そして、ラタリとニムタンスが口論を初めて、それを止めに入ろうとしたら、ニムタンスとラタリに、部屋を追い出されたのだ。
「それは君が悪いよ。いつまでも、はっきりしないのがいけない」
「ラタリとニムタンスからも言われたのですが、何をはっきりさせればいいんですか?」
本気で何も分かっていないブロックを見て、ザック=レイターは呆れ果てたという感じで首を振った。
「こりゃ重症だ」
そう言い、ザック=レイターは話題を変えていった。
「実は、レイネンはただのメイドじゃないんだ」
それから、ザック=レイターは話し続けた。
「彼女はうちに絵を学びに来た客人なんだ」
ザック=レイターが言うには、彼女は、すでに自分が教えることのできる事が、まったく無いくらいに絵の技術ができているのだという。
「せめて、このフロウの観光をしてもらおうって思っているわけなんだけど……」
レイネンは、ラタリを追い出してしまった事に、負い目を感じているようで、自分がこの屋敷のメイドになると申し出てきたらしい。
「それから、しっかり働いてもらってるよ。本当はダメなんだけど」
それで、ラタリの事を連れ戻そうとして、ブロックの所にやってきたのだ。
ラタリが家に返ってくれば、レイネンがメイドの仕事をやる必要もなくなる。誤解を解いた後で、ラタリを連れ戻せばいい。最初はそう思っていたのだ。
「だけど、面白い状況になっているからね。これは首を突っ込むしかないって思うだろう?」
「そういう事なら、明日にはラタリはこの屋敷に帰れそうですね」
ブロックが言う。
「そうなるだろうね。僕としては、もうちょっと面白い事が起きるのに期待をしたいが……」
「勘弁してください」
ブロックがそう言うと、ザック=レイターは楽しそうに笑いながら部屋から出て行った。
それから、ブロックがもう就寝をしようとしているところに部屋のドアがノックされた。
「メイドのレイネンです」
そう声がするのを聞き、ブロックはドアを開けた。
「どうしたの?」
そうブロックが言うと、レイネンは頭を下げて言う。
「あなたの話をお聞かせ願おうと思いまして……」
なんでも、ザック=レイターからブロックはいろんな経験をしているから、いい創作のタネになるだろうと言われてここにやってきたのだという。
「先日あったという、結婚式の話をきかせてもらえないでしょうか?」
そういう話を聞きたいのか……そう思ったブロックは、話しだした。
「他には、どんな話がありましたか?」
レイネンが聞いてくるのに、ブロックは答え続けた。
いままでにしてきた経験を、話したブロックは、朝になるまで、話を聞かれ続けた。
「もう朝になったし、僕も、仕事に行かないといけないから……」
そうブロックが言うと、レイネンは窓から外を眺めた。
「すいませんでした。つい夢中になってしまいました」
落ち着いた様子で言うレイネン。
この子は好奇心の塊だ。表情が少ないけど、それでも面白いものをみつけようとか、いい話を知りたいとか、そういった欲求が強い。このまま相手をしていたら、自分の体がもたない。
そう考えたブロックは、逃げるようにしてザック=レイターの屋敷からおいとまをしていった。




