ディラの父の言葉
「こんな事されても迷惑だ」
ディラは、一人で工場の外に出て言う。
フロウのドッキングは、自分と恋人の結婚式をあげるためであるというのを、ディラはすでに知っている。
農業フロウから、彼がうちにまでやってきた。そして、唐突に言ってきた結婚の話は、ディラも決心できないでいる。
ディラは、ブロックが届けた手紙をポケットから、取り出した。中身を取り出し文面を読む。
今度、君のフロウと僕の農業フロウがドッキングをする。
その時に結婚式をあげよう。遠距離恋愛なんて、もううんざりだ。
君が材木屋をしているお義父さんの事を心配する気持ちも分かる。なんだったら、お義父さんも、一緒にこちらの農業フロウにやってきたらいい。
僕だって、一家を養えるくらいの収入はある。とにかく、君に会いたいんだ。
「本当に自分勝手な事ばかり書いて……」
彼に会いたいのは、ディラだって同じだ。だけど、父を放っておくわけにもいかない。
ディラは、その手紙を、丁寧に折りたたんで、またポケットの中に入れた。
結婚ならば、いつでもできる。だが、父はいつになっても父のままだ。そして、その父は、いつ倒れてしまうか分からない。
「明日の結婚式には行くんですか?」
そう、ディラが考えているところに、ブロックが話しかけていく。
「噂が広まるのは早いな。人が悩んでいるのを見るのが、そんなに楽しいのか?」
そう言い、ブロックから顔を背けるディラ。
「そう、邪険にしないでくださいよ」
ブロックが言う。
「おじさんの事は、心配しなくていいよ。みんなそこまで考えているからね」
そう、ブロックが言うと、ディラは目だけを動かしてブロックの方を見る。
「どこまで知っているんだ?」
ディラがそう言うと、ブロックは、笑いながら答えた。
「おじさんも、一緒に農業フロウに行くんだって。そこで林業の仕事をするように、手配をされているらしいですよ」
「とっちゃんは、そんな事は一言も……」
そう、ディラが言うと、後ろから声が聞こえてくる。
「そうだな。言ってなかったからな」
家の奥にある作業場の方から、ディラの父がやってきていた。
「おまえのおかげで決心がついた。オレはお前と一緒に農業フロウに行く事にした」
「とっちゃん。何で、いままで言わなかったんだ?」
ディラがそれを聞くと、「ケッ……」と言った父はそれに答える。
「オレだって、迷っていたんだよ。この工場はオレが築いた仕事場だ。せっかく築いたこの場所から離れるのは惜しい」
ディラの事を見た、ディラの父親は、苦々しげにして言う。
「お前がウジウジ悩んでいるのを見て、決心がついた。俺は、農業フロウに行くぜ」
ディラは、頭を掻きながら言う。
「私の何が、そんな決断をさせたんだ?」
「お前がウジウジ悩んでいるのを見ると、自分もああいうふうに、みっともなく悩んでいるってのが分かってな。そう考えると、さっさと、農業フロウ行きを決めるのがいいって思ったんだ」
そう言うと、ディラの父親は背中を向けて奥にまで歩いて行った。
「これで満足だろう? お前はさっさと幸せになりな」
そう言うディラの父は、家の奥にまで向かっていく。
「随分と言われましたね」
ブロックは、ディラの父の背中を見ながらそう言う。
「あれで恥ずかしがっているんだ。後で声でもかけに行くよ」
ディラはブロックから顔を背けて言う。
「泣いているんですか?」
ブロックはディラに向けて言う。ディラはブロックには顔を見せず、後ろを向いたままで言う。
「こんな事で泣くワケが無いだろう。お前は、さっさと仕事に戻りな」
そう言うと、ブロックは小さく微笑んだ。
「それでは、僕の手紙があなたに幸福を運んだ事を喜ばしく思います」
やたらと丁寧になって言うブロック。背中越しに、その言葉を聞いたディラは、何も言わずにそこにたたずんでいた。
「それでは、ディラさん。ごきげんよう」
そう言って、ブロックはハバタキ飛行機を飛ばした。




