ラタリが、材木屋に着く
「すいません! 誰かいますか!」
ラタリは、ある材木屋のところまで足を運んだ。そこで、木材のチップを買い、それで、買ってきた肉を燻すのだ。
「ああ! すぐ行くから、ちょっと待ってくれ」
中から聞こえてきた女性の声に、ラタリは答える。
「ディラさん! よろしくお願いします」
顔見知りであるディラに答えた。
「チップだな?」
そう言い、ディラは大きな袋を抱えながら店から出てきた。
その中には大量のおがくずが入っていたのだ。
「いくらですか?」
ラタリが聞いたところ、ラタリの後ろから声がかけられる。
「おやっさんはいるかな? ディラ君の結婚式の件で来たんだが……」
そう言う声を聞くと、ディラは驚いて目を丸くしていた。
「私の結婚?」
ラタリが振り返ると、このフロウの市長がそこにいた。
そして、その隣には、もう一人、知らない顔がある。
「ロクサス君を連れてきた。ディラ君も彼に会いたかっただろう」
「とっちゃんは今居ないが……」
そう答えるディラは、明らかに、その場に立ちつくしていた。
「おやっさんに、今日ここに来る事は伝えていたんだが……ディラ君は、何で席を外しているか? 知らないかい?」
「買い物に行くとか、なんとか……」
ディラは直立不動でそう答えた。
「ディラ君? やっぱり打ち合わせの話になると、緊張でもするのかな?」
市長は、ディラの様子を見て、不思議そうにしてそう言った。
「私の結婚! 私は何も聞いていないぞ!」
市長と向かい合わせの席に座ったディラは、市長の言葉を聞いてそう言った。
「おやっさんは、ディラ君に伝えてあると言っていたが?」
思いもよらない反応をディラがしたから、市長はたじろいだ。
「あのおやじ……逃げやがったな……」
ディラの父は、この話がある事をディラに黙っていた。ディラには何も伝えず、話だけを勝手に進めていたのだ。
そして、今日打ち合わせのために市長がやってくるのを知ったディラの父は、今までついていた嘘が明るみになるのを恐れて、逃げ出したのだ。
「私達は、てっきりディラ君もこの話を知っているものかと……」
そう言う市長。
「私は、何も聞いていないぞ」
「あの、クソオヤジは……」そう、小さな声で毒づくディラを、ラタリは緊張をした顔で聞いていた。
「あの……長くなりそうなら、先におがくずをもらいたいんですが……」
ラタリが言うが、ディラは「ふん……」と鼻で笑って言う。
「すぐ済むよ。ちょと待っていな」
正直に言うと、今すぐにでもここから逃げ出したいラタリだったが、そう言われて、椅子に座った。
「ロクサス……そういう事だ。期待をさせて悪かったな」
市長の隣りに座る、自分の恋人のシーナに向けてそう言った後、ディラはすぐに席を立つ。
「おがくずは、一キロで……」
ラタリに向けて、そう言い出したディラを見た、ディラの恋人は、椅子から立って言う。
「待ってくれディラ! 君だって、今のままでいいと、思っているのか!」
ラタリはその声で、驚いた。
「あまり大声を出すなよ。お客さんが怖がるだろう」
「そんな事はどうでもいいだろう!」
ロクサスは、思いのたけをぶつけ始めた。
ディラとロクサスは学生の頃からの恋人同士だったのだという。ロクサス自身は、仕事のために農業フロウに渡り、自分の農場を持てるようになるまでがんばるという約束をしたのだ。
今は、ロクサスは牛や羊を飼い、チーズや卵を外のフロウに輸出をする事も、できるようになった。
「だから、もうお前を苦労させたりしない! こっちに来るんだ!」
ロクサスはそれで、思いを全て言い終えたのだろう。ディラの言葉を待つ。
「私はまだ、ここでやらなければいけない事がある」
そう答えるディラ。ディラとロクサスはそれから一言も話をしなかった。




