なぜ美談なのか?
屋敷の庭にまで、手紙を受け取りにいっていたラタリは手紙を抱えて屋敷に戻っていった。農業フロウと繋がるという話は、ブロックを通してラタリの耳にも入っていた。
「旦那様。さっき、ブロックから聞いた話なのですが……」
その時のザック=レイターは絵を描く手を止めて、紅茶を飲みながら休んでいた。絵を描いている最中に、声をかけないようにと、ザック=レイターから言われているのだ。
「もしかして、農業フロウとドッキングをする事かい?」
「何で、知っているんですか?」
この話は、まだ一般には公開されていない。ブロックだって、フロウの航行を知ることのできる仕事をしている、ニムタンスから特別に教えてもらったのだというのだ。
「あれは美談だよ。本人をびっくりさせるために、ワザとみんなには教えていないんだ。一部の人しか知らない事だからね」
「本人? 美談?」
ラタリは、その言葉を復唱をした。ザック=レイターの言う事の意味が全く分からない。
首をかしげるラタリを見て、楽しそうに「くっくっく……」と笑うザック=レイター。
「すぐにわかるよ」
そう言って立ち上がったザック=レイターは、絵を描くためにアトリエに戻っていった。
「今回のドッキングは、何かがおかしいの……」
夜になり、夕食を食べながらのニムタンスは言った。
今は、ブロックの家である、足元が老朽化したフローリングの板でできているこの部屋に、テーブルを置いて、ブロックとニムタンスが話をしているところだった。
「私達、一般市民は、この事を知らないのよ。だけど、ハンジューの工長達は知っているのよ」
その上、ドッキングの事を知っている人は、そろってこの事を美談だと言ってもてはやしている。
「どうして美談になるのか? って、聞いてみても誰も答えてくれないの」
その言葉の後に、ニムタンスは、スパゲッティをフォークに絡めてソフトボールのような大きな玉を作った。
それを、無理矢理に口の中に押し込んでいく。
「んんーん……」
「口の中の物が無くなってから続きを言ってくれ」
ブロックが言うと、ニムタンスは口の中のスパゲッティを、流し込むようにしてまとめて飲み込んだ。
「何か? 陰謀の匂いがしない?」
ニムタンスは、フォークを使ってブロックの事をビシリと指しながら言う。
「陰謀って……こんな平和な世界に……」
ティッシュペーパーを、二枚取り、ニムタンスの口の周りの汚れを取りながら言うブロック。
おもむろにされたその行動に、ニムタンスはたじろいだ。
「いきなり……何を……?」
ブロックはニムタンスの口を拭いたティッシュペーパーをゴミ箱に放りながら言う。
「別に? 汚れを拭き取っただけだけど?」
ニムタンスも、ブロックのこの行動は、特に他意のないものであるというのは、ニムタンスも分かっている。
気にしたら負けだ。
そう心の中で思ったニムタンスは、ブロックからの行動が無かったかのようにして、続けて言った。
「とにかく……今回の件には、絶対何かある。私のカンがそう言っているわ!」
一人で燃えるニムタンスを見て、ブロックは、困ったようにして頭を掻いた。




