ディラへの手紙
「ディーラーさーん」
ブロックはある家にいる女性に声をかけながら、ハバタキ飛行機を飛ばした。
玄関に着くと、ブロックの声に答えて一人の女性が出てきた。
その女性は、男の着るような、作業着を着ており、顔立ちからも気が強い印象を受ける。きっぷうのいい美人といった感じの人だ。
「お前は、相変わらずご機嫌だな。今日も、何か暖かい手紙でも見つけたのか?」
奥に作業場があるのが見える。ディラは、作業用のつなぎを着て、ブロックの事を出迎えた。
彼女は、木材を加工する仕事をしている。奥にいる父親と一緒に、この工場を切り盛りしているのであるという。
「暖かい手紙ってのは、ディラさん向けの手紙だったりしますよ」
手紙を懐から取り出したブロックは、暖かさを確かめるようにして、手で手紙をなでた。
「いつも、お熱いですね。情熱的な事が書いてあるんでしょうね?」
「お前! 中身を見たのか!」
ディラは、恥ずかしいものを見られたのか? と勘違いをして言うが、ブロックはそんな事はしていないといった感じで、手を振った。
「中身なんて、見ていませんよ。ただ、触ってみれば、手紙の大体の内容が分かるんです。それが、僕の能力ですから」
ブロックがそう言うと、ディラは顔をしかめた。
「そこまでバレているなら言ってしまうが、これは、恋人からの手紙なんだ」
ディラの恋人は、他のフロウに行ってしまっているのだという。
恋人がいるフロウと、このフロウがドッキングをするのは、年に数回くらいで、それくらいしか会う事のできない間柄なのだという。
「遠距離恋愛ですか、なんか、かっこいいですね」
ブロックが言うと、ディラは頭を掻いて言う。
「かっこいいもんか……辛いだけだよ」
「だから、そんなに辛いなら、向こうのフロウに行けばいいだろう?」
ブロックとディラが話しているところに、作業場の方から声がかかってきた。
「俺たちの事は心配せんでええから、あっちに行って、幸せになっちまえ」
ディラが振り向くと、壮年の男性がこちらにやってきているのが見える。
「とっちゃん……またその話かい……」
その人は、ディラの父親だ。年をとっているが、している仕事が、力仕事なせいか? 腕は引き締まっていて働く男といった感じの厚い手をしている。
「うちは、俺一人でもやっていける。まだまだヒヨっこのクセに、思い上がるんじゃねえ」
「それなら聞くが、砥石の置いてあるの場所を知っているか?」
ディラの父は、面食らったようにしていた。
「器具の整備を私がやっているから、とっちゃんが仕事をする事ができるんだぞ。木を切るだけが、材木屋の仕事じゃねぇ」
ディラがそう言うと、ディラの父は、「けっ」と言って、奥にある小屋に戻っていった。
「終始、あんな様子よ。自分の年の事も考えてねぇ。いまだに若いつもりでいるんだ」
ディラが煩わしそうに言う。ブロックは、そのやり取りを見て、苦い顔をして、「ははは……」と笑った。




