ラタリの手紙
ストラエレベーターを使って、フロウに戻る、ニムタンスとラタリ。
二人は、エレベーターの扉が開くと、急いで外にまで走っていった。
「どうしたんだろう? あの二人って」
「あの二人は、自分の手紙はすでに回収してる」
グレッグがそう言うのを聞くブロックだが、なんとも納得のいかない顔をしていた。
「大方、恥ずかしくて、誰かに見せる事ができないんだろうな?」
「誰か? みんなじゃなくて、『誰か』に見られたくないって事かい?」
誰なんだろう……と、いった感じで首をひねるブロックを見たグレッグは、呆れて言った。
「なんで、お前はそういう所には鼻が効くのに、肝心な所は分からないんだ?」
そう言い、ブロックの頬をつねりながらいったグレッグ。
「分からないって、何がさ?」
ここまで言っても、状況をまったく分かっていないブロックに、グレッグは頭を抱えた。
「お前、狙ってやっているワケじゃないよな?」
そう言うグレッグに、本当に何が起こっているか、分からないようにして、ブロックは首をひねっていた。
ブロック達から十分離れるところまで来た、ニムタンスとラタリ。
二人は、並んで、肩で息をしていた。
ニムタンスとラタリは、同じベンチに隣り合って座り、お互いに目配せをした。
そのすぐ後、ニムタンスたラタリはお互いに肩を組み合って言った。
「作戦成功」
肩を組みながら、そう言い合った二人は、自分が死守した手紙を懐から出した。
封筒から中身を取り出すと、ニムタンスとラタリは中身を読み始めた。
「やっぱり……ブロックに見せなくてよかった……」
二人して、同じ事を言い、相手の手紙の事を見る。
「この際だし、手紙を交換してみない?」
「そうだね……」
ニムタンスとラタリの間に変な友情が生まれている。
その、友情から、お互いの手紙を読ませ合ってみたのだ。
未来の私へ。
私は、人に喜んでもらうような事をするのが大好きです。
大きくなったら、人にありがとうって言ってもらえるような素敵な仕事をしたいと思っています。
未来の私は、今でもそう思い続けていますか? もし、その気持ちが無くなっていたらさびしいです。
どうか忘れないでください。忘れていたとしても思い出してください。
今の私が、その事を忘れてしまうのは、寂しい気がします。
だって、今の私はそれしか考えられないからです。
「なんだ、昔からこんな事を考えていたんだ」
この手紙を見て、微笑ましく感じたニムタンス。
「これを見る限り、ラタリって、昔から、何も変わっていないんだね。仕事だって昔から望んでいたような仕事をやっているみたいだし」
「いやいや、私は変わったよ。その続きを読んでみたら?」
そう言われ、続きを読み始めたニムタンス。
おおきくなったら、パティシエになって、みんなを笑顔にしたいと思います。
「わたしは夢やぶれているのよ」
「こう来るのか……今からでもパティシエを目指してみたら? 『忘れていたとしても思い出してください』って、書いてあるし」
「無理無理」
笑いながらそう言ったラタリ。
パティシエになって、ブロックをお婿さんにもらって、一緒になってお菓子を作ったりしたいです。
ニムタンスはその一文を読むと、ラタリに
「この最後の一文は、捨て置けないね……」
「まあまあ、今は一時休戦だし」
お互いになごやかな顔をして、そう話し合った。




