ニムタンスとラタリ
ニムタンスは、ゴム手袋とゴム長靴を買って明日の回収に備えていた。
「そういえば……思い出した……未来の自分への手紙……」
そうつぶやき、大きく息を吐くニムタンス。
「ブロックにだけは見られるワケには……」
明日に迫った、タイムカプセル回収の日。回収は、ブロックにだけはやらせられない。あんな手紙を読まれたら、恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。
「ブロックだけには……ブロックだけには……」
ニムタンスは、そう言いながらゴム手袋とゴム長靴を手に持っているラタリと会った。
近寄りがたいような雰囲気を放ち、明日の事を考えて、見ても分かるくらいに息巻いているラタリを見て、ニムタンスはラタリの事を見据えた。
「あなたも?」
ニムタンスが言うとラタリが答える
「タイムカプセル?」
二人は、それだけを言い合っただけでお互いの窮状を理解したようだ。
二人は、何も言葉を交わさずに握手をし、近くにある公園にまで一緒に歩いていった。
公園のベンチで、隣り合って座り、ニムタンスとラタリは話し合った。
「手紙には、何を書いたの……?」
ニムタンスは、ラタリに聞いたが、ラタリは首を横に振った。
「その事は、お互いに聞かない事にしよう……」
ラタリの言葉に、ニムタンスは頷いた。
「明日の回収は、私達が降りて回収する事にしよう……」
二人そろって、同時に頷いた。
ゴム手袋と、ゴム長靴には、ストラの流れを止める効果がある。
土害で、黒くなった土に触れると、ストラを吸い取られてしまうため、ゴム手袋を使わないと、地上には降りられないのだ。
お互いに、ブロックには読まれたくない内容を書いてある。
二人はその点で一致して、協力することになっていった。
「明日のタイムカプセルの回収は楽しみだね」
ニムタンスが鍋をかき混ぜながら、ブロックが言う言葉を聞いて、鍋のシチューをかき混ぜる手をピタリと止めた。
「そ……そうね……」
「未来への自分に向けた手紙とかも書いていたよね。何を書いたのか、自分では忘れちゃったよ」
そう聞くと、ニムタンスはぎこちないながらも、シチューをかき混ぜる手を動かし始めた。
「ニムタンスは、何て書いたのか覚えてる?」
ニムタンスは、それで、シチューをかき回す手を早めた。
「なんだったかなぁ? まったく覚えてないなぁ……」
ニムタンスはそう言うが、ブロックは、その口調から、何かを感じ取っているらしい。
「本当は覚えてるんじゃない? 言ってみなよ……」
ニムタンスはひと呼吸置いた。なるべく、動揺をしているのを悟られないようにしながら答えた。
「だから、覚えていないって言ってるでしょう!」
声が上ずり、動きもぎこちなくなっているニムタンスをブロックはじー……と見た。
「まあいいさ。その手紙は引き上げたら読ませてもらうよ」
「ブロック! それはダメ!」
そう言い、ニムタンスはブロックに向けて振り返った。
「シチューが焦げるよ……」
ブロックがニムタンスにそう言うと、ニムタンスはまたシチューをかき混ぜ始めた。
「これは明日が楽しみだ」
そう言いながら、クック……と笑うと、ブロックはそれから、何も話さずにシチューができあがるのを待った。




