ニムのタイムカプセル
ストラアンチグラヴィティと呼ばれる装置。
フロウが空に浮かぶためには必要な装置であり、この装置が止まってしまったら、フロウに住む住人は全て地上に降りて土害に晒されてしまう。
それが稼働をしているのは、床が埃っぽく、油で汚れている場所の中心にある。何人ものツナギを着た作業員が、ストラアンチグラヴィティの周りにいた。
「浮遊ユニット正常稼働……反重力装置の正常稼働確認」
グレッグは、その装置を見ながら声を上げた。
周りにいる作業員はそれを聞いてまた声を上げた。
『浮遊ユニット正常稼働! 反重力装置の正常稼働確認!』
そう言い合い、この仕事で重要な装置の事を、グレッグは見つめた。
グレッグにはストラの流れが見える。
「この配管……取り替えが必要だな」
少しだけ、ヒビでもあるのだろう。ストラが配管の一つから漏れ出しているのを確認したグレッグは、大声をあげて言った。
「配管に亀裂を確認! パイプの交換をします!」
『了解! 三番ハンジュー起動を停止します!』
ハンジューというのは、ここの作業員たちが、反重力装置の事を呼ぶときの略称だ。
全部で四つある反重力装置は、この中の二つが止まっても、なんとかフロウを支える事ができるようにできている。
一つの動きを止めて作業をする事もできるようにできているのだ。
ストラの流れを目で見る事のできるグレッグは、反重力装置からストラの流れが消えるまで、見送った。
ストラの流れが消えたのを見ると、グレッグはパイプの交換を始める。
「おい! グレッグ! お前の友達の郵便屋が来てるぞ!」
グレッグは、パイプの交換の手を止めてその声がした方を見た。
「手紙だったら、受け取ってもらえば!」
グレッグはそう言う。今は大事な作業中だ。作業を途中で投げ出すワケにはいかない。
「そうじゃない! お前に話があるんだとよ!」
「俺に……話?」
グレッグはパイプ交換の手を止めて、立ち上がった。
「パイプの交換はやっておくから! すぐに行ってあげろ!」
そう聞き、グレッグは作業場の外に向かっていった。
「ブロック……話ってのは何だ?」
ハバタキ飛行機でグレッグの職場にやってきたブロックは、ハバタキ飛行機から降りて言った。
「グレッグ。地上に降りたいんだ」
そう言い、ブロックはグレッグに向けて話しだした。
「タイムカプセル? そういえば、そんなもんも落としたな」
ニムは仕事の事があるから、ストラを減らすワケにはいかない。ラタリも仕事が忙しくて、無理して暇を作ってくれるようだったし、自分が降りてタイムカプセルの回収をするつもりなのだと、ブロックは言う。
「お前だって、ストラを使う仕事だろう?」
そう言い、グレッグはブロックの乗ってきたハバタキ飛行機にまで歩いて行って、ハンドルを見た。
右のハンドルに、赤い石が取り付けられているのを、グレッグは見つけた。
「この飛行機、お前のストラを吸って飛んでいるワケだろう? お前も、ストラを無駄にできないはずだ」
その赤い石は、人からストラを吸い出し、魔導機械にエネルギーを供給するための石である。
「一日中飛び回っているんだろう? ストラ切れで病院にかつぎ込まれる人も多いって聞くぞ。郵便配達って」
何を隠そう、郵便配達の仕事で、一番キツいのは、ストラを吸われる事である。
体から、生気が抜け、動くのがとても億劫になってくるのだという。
「まあ、遊んで回り道をしたり、何度もハバタキ飛行機を起動させたり、電源を切ったりをしていればそうなるけど……」
「今のお前そのものだろう」
ブロックは、こうやって、ハバタキ飛行機の電源を切って寄り道をして昔の友人と話している。
「一番ストラを使うのは起動時なんだろう? こうやって、ちょこちょこ電源を切っていると、お前も、病院にかつぎ込まれるぞ?」
「まあ……そうかもしれないけど……」
なはは……と言いながら笑うブロック。
「土害を甘く見るなよ。ストラが体から全部抜けると、人は死ぬって事は忘れるな」
そう言い、グレッグはハンドルを握り、ハバタキ飛行機を起動させた。
「ニムタンスは大事なストラの供給人だし、ラタリだって、忙しそうだってなら頼めないだろう? 俺が下まで行って、拾ってきてやるよ」
「君がそんな事を言い出すなんて、珍しいね」
ブロックは、グレッグのこの行動に、何か裏でもあるかのように感じているのだ。
「まあ、俺が最初にタイムカプセルに触れるんだから、俺に最初に読む権利があるよな」
「なるほど、ヒドイ男だ」
ブロックは苦笑いをしながら言う。
「お前の書いた未来への手紙は、お前の前で朗読をしてやろう」
そう言うグレッグに苦笑をしながら、ブロックはハバタキ飛行機に乗り込んだ。
「そんな事させないよ。僕の手紙は誰にも見せないからね」
そう言うブロックは、ハバタキ飛行機に乗って、飛んでいった。




