突然の手紙
文章が短くてすみません(;_;)
ヴァルディアード王国、自然豊かな森の王国。
北方に最古の森ウィアレンディルを頂き、平和と農耕を愛する小さな国。
そんな国にあるカイネル(白くて節が少ない木材)で作られた料理屋が俺の実家だ。
適当に実家の料理屋を手伝って、暇なら悪友共とつるんで、女っ気はゼロ。本気で打ち込むこともなく、なんのへんてつもない日常。
そんな俺に届いた一通の手紙が、人生を180度変えるなんて…あの時の俺は知らなかったんだ。
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どんどんどんどんっ!!
「……!!………!!!」
部屋にドアを叩く(というよりも殴る)音が響く。
扉の向こうからは聞き覚えのある声が聞こえるが、寝起きの俺の頭は正常に音を言語へと変換しない。
朝から響く騒音はまどろみの中にあった俺の意識を急に浮上させ、俺は強制的に意識を夢の世界から忌まわしい現実へと連れ戻された。
「ぐっ。頭に響く…。」
身体をを起こすと、胸元が少しはだけた自分の姿が見えた。寝巻きではないところを見ると、昨日はだいぶ酔っていたようだ。
…あ〜…やっべ。服がシワになってるわ。
頭の片隅に後悔の念がよぎる。
帰ってきてそのまま寝てしまったのだろう。服は自重でシワになり、ずいぶんと寝汗をかいたようで、ひたりと肌に張り付いて気持ち悪い。アルス(アルパカのような四つ足の獣)の毛から織られた服は、シワになりやすく、綺麗にシワを伸ばすのがむずかしい。以前シワを作ったのが姉にばれたときはひどく姉にしばかれた。その後3日程背中に違和感を覚えたくらいだ。
ぶるり。
当時を思い出して背中に微かな悪寒が走る。
…メリルに頼んで、姉さんに見つかる前にこのシワ伸ばしてもらわねぇと。
回らない頭で今からとるべき行動を考える。
昨晩は悪友と安い酒を呑んでいたせいなのか、今日は頭が正常に働かず、薄く靄がかかったかのようになっていた。
だからだろうか…。俺はしてはいけない失敗をしてしまったんだ。
シワになった服を脱ぎ、籠に入れてあった新しい服を手にとると、姉を避けて家の外に出るにはどうしたら良いのか考えながらふらふらとした足取りで扉までたどり着く。
先ほどまであれだけ騒がしく鳴っていた扉の音は、今は何事も無かったかのように静かになっていた。
…この時間だと朝飯の準備で居間にいるか?
姉の行動パターンを頭の中でなぞりながら外に出るためのコースを思案する。
鍵を開け、ドアノブに手をかける。
俺の頭に先ほどまで響いていた音のことなど残っていなかった。
…ぎぃ。
軋む音をたてて、扉はゆっくりと開いた。その瞬間俺の頭は正常な思考を取り戻した。
扉の向こうには、この世界では珍しい碧の瞳を柔らかく細め、女神のように(俺の瞳には鬼に見える。)微笑む姉がいたんだ。
俺は思った。
(…あ。俺。死んだわ…。)
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……結果から言うと、俺は死ななかった。
陽炎の揺らめく炎天下の石畳を、遠赤外線で焼かれつつ大量の食材を担いで3回程往復させられたぐらいだ。(普段はこんなものじゃない。)
「よかった…。今日の姉ちゃん、機嫌が良いみたいだ。」
「あら、わかるかしら?」
「っ!」
いつのまに!!
まったく気付かなかった!!!
「びっくりさせないでくれよ。」
「そう?普通に入ってきたわよ?ライルが上の空だったんじゃないかしら?」
白々しい…。姉ちゃんの気配の消し方はその辺の暗殺者よりも上手だと思う。
…その辺に暗殺者がいるかはわからないが…。
「それで、どうしたんだ?今日はもう店じまいだし、仕事はないだろ?」
「ふふふ。あのね、ライルにちょっとお願いがあるの。」
っ!!やばい。なんだかわからないがやばい。今まで姉の頼み事には碌なものがない。(珍しいキノコを取るために100メートル以上ある崖に宙ずりにされたり、海藻を取りに海に突き落とされたりした。)
全力で断らねば!!
「姉ちゃん、まっ「フィアレーデンに行って、おじいちゃんの店を継ぎなさい。」」
……………は?店?
姉から告げられた命令は、その後五分程俺を混乱させたのだった。