セラフになる決意。
4話目です!セラフィナの魔法が語られるます。是非お読みください
「私の魔法について話すわ、マスター」
セラフィナは一度息を整えてから続けた。
「まずは、ヴェスティア家が得意としてきた魔法から」 「その話をする過程で、少し魔法以外のことも出てくるけど……許して」
アトラスは何も言わず、静かに頷く。
「ヴェスティア家が“正義の家系”と呼ばれてきた理由、知ってるわよね?」
再び頷き。
「光系魔法を得意だから――それだけじゃないの」
アトラスが低く呟く。
「……審判魔法か」
セラフィナは淡々と続ける。
「当たりよ」
「光で罪を暴き、光で裁く」
「罪人の“罪そのもの”を可視化して断罪する魔法」
「それが審判魔法」
「これを作り出し、唯一使えたからヴェスティア家は公爵家であり、“正義”と呼ばれてきた」
アトラスは紅茶に視線を落としたまま言う。
「だが、それだけで国家がそこまで重宝するとは思えん」
「裁くこと自体は、魔法がなくてもできる」
セラフィナは静かに返す。
「そうね」
「じゃあ、マスター。この国の最高刑を知ってる?」
即答する
「死刑と、生涯奴隷」
セラフィナはその回答を聞き答える
「ええ」
一拍置き、彼女は続けた。
「でも、その上がある」
アトラスの目がわずかに細くなる。
「その刑に使われるのが――」
「審判魔法の、最上位魔法」
アトラスは呟く
「……噂には聞いていたが、本当に存在したのか」
セラフィナは答える。
「存在するわ」
「ヴェスティア家と、国の中枢のごく一部しか知らない」
「それに加えて最上位魔法は当主だけが知るもの」
「私は……教わる前に、父が捕まったから知らないけど」
少しだけ沈黙。
「話が長くなったわね」
「まとめると――」
「ヴェスティア家は、光系魔法の派生である“審判魔法”を得意とする家系よ」
アトラスは紅茶を一口含み、静かに言った。
「では次は、君自身の魔法だな」
セラフィナは、わずかに視線を落とす。
「……私の固有魔法は、少し特殊なの」 「皆は“救済”って呼ぶわ」
「治癒系か?」
「一見すれば、そう見えるでしょうね」
小さく首を振る。
「でも私は、治癒とも救済とも思ってない」
アトラスは質問する
「なぜだ」
セラフィナは言葉を選びながら続ける。
「痛み」
「恐怖」
「憎悪」
「なぜ、こんな目に遭ったのかという記憶」
「そういう“精神や感情”を――消す魔法だから」
一瞬間を置き、言い直す。
「癒すでも治すでもない消すの」
「その過程で、ある程度の外傷は修復される」 「でも、血や肉や骨は戻らない」
「残るのは苦しむ前の記憶と私に“治された”という事実だけ」
「だから……皆、私を救済者と呼んだ」
アトラスが低く呟く。
「確かに……完全な救いではないな」
セラフィナは自嘲気味に笑った。
「治癒にも条件があるわ」
「一つ。苦しみや憎悪を孕んだ傷しか対象にならない」
「二つ。治せる傷には限界がある」
「三つ。失われた血肉は戻らない」
「四つ。本人が“死を悟った瞬間”、対象から外れる」
それを聞きアトラスは質問する
「……二つ目の“限界”とは?」
セラフィナは答える
「例えるなら――」
セラフィナは淡々と話す。
「走れる距離が決まっているランナーいるとするわ。スタートとゴールが近ければ辿り着ける でもスタート位置がゴールから遠ざかれば途中で走れなくなってしまう」
「私の魔法はそんな魔法なの」
「軽傷なら治るけど重傷になればなるほど、完治から遠ざかる」
「それでもこの魔法は――」
「セラフィム・リワインド」
「熾天使による巻き戻し、なんて名前が付いてる」
「……笑えるでしょう?」
彼女は少し俯いた。
「もっと笑えるのは、発現した理由よ」
一拍。
「あれは、最初に競売に行った時」
「最初は男の子たちの競売だったその時は、ただの競売だった」
「でも――」
「商品が女の子に変わった瞬間」
「会場の空気が変わった」
「大人たちが、鼻息を荒くして値段じゃなく、身体を見る目になった」
「それだけで胸の奥が濁った」
さらに俯く。
「でも……見てしまったの」
「売られていく女の子たちの顔を」
「生きてるはずなのにもう、死んでるみたいな目だった」
「その時、分かった」
「胸の奥の正体は――不快感と、恐怖だった」
「“いつか自分も、こうなるかもしれない”って」
「無意識だった」
「私は自分に魔法を使った」
「忘れたの」
「だから、平気になった」
「それからは、人を見下して」
「何もしなかった」
「……でも」
「自分が競売にかけられると知った時に全部、思い出してしまった」
小さく笑う。
「本当に、笑える話よ」
アトラスは静かに言った。
「笑うことが今の話にあったか?もしあるとするならば君がいつまでも自分を受け入れず卑下し続けていることだ」
その瞬間、セラフィナの感情が爆ぜた。
「何も知らないくせに! 私だって、こんなふうに自分を貶したくない!」
「私は――
貴族として、誇り高く生きたかった!」
「だから、誰でも救える万能な力が欲しかったのに……」
「こんな、中途半端な魔法なんて……!」
アトラスの声は冷たかった。
「誇り高く生きたい?」
「なら、生きればいいだろ」
「君は万能な力が欲しかったんじゃない」
「評価が欲しかっただけだ」
「理想と現実の差に耐えられなかっただけだ」
「足りない部分を、見せられなかっただけだ」
言葉は、正確に核心を突いた。
「卑下して、同情を集めようとする。その被害者意識に、俺は酷く失望する」
セラフィナの瞳に涙が溜まる。
「……それでも」
アトラスは続けた。
「俺は受け入れる」
「その精神も、感情も、すべて背負う」
その言葉に、堰が切れたように涙が落ちた。
後にこのことを振り返りセラフィナはこの時に一生この人について行くことを決めたと語る。
「君のセラフィム・リワインドは、救いになる」 「忘れたい人間は、必ずいる」
「尊厳を踏みにじられ 、
生きる意味すら壊された人間には――」
「忘却は、救いだ」
「君は、どん底に落ちた者のセラフになれる」
「後は選べ」
「卑下し続けるか。
受け入れて、磨くか」
セラフィナは涙を拭い、顔を上げる。
「…私は、この魔法でどん底で苦しむ人を救う」
「その人たちの、セラフになる」
その瞬間。
書斎のランプが赤く点滅した。
アトラスが立ち上がる。
「侵入者だ」
「保護権管理院……いや違うな恐らく白鳳局の監査官」
「君を理由つけて回収しに来たのだろう」
セラフィナは驚く
「なぜ、回収に競売は成立したはずでは」
アトラスは冷静に答える
「普通の貴族が買ったなら回収しに来なかっただろうな。だが俺が買ってしまった。」
「元々アウローラ家は競売に参加したこと無かった。だが競売に参加した。それに加えて元公爵家の君を買った。それが危険視されたのだろう」
「元々アウローラ家は闇系魔法を使える時点で危険視されていたのにも関わらず君を買ったという点が奴らには引っかかるのだろうな」
アトラスは1拍おいて言い直す
「いや、元々君を国が用意した貴族に買わせるようとしたのかもな。それで君に最高刑に使える素質があるのか確かめたかったのかもな。」
夜が深くなる中、足音は書斎に近づいてきている。




