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夜に名を与える  作者: ベリドット


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3/8

彼女は回想する

1週間ぶりの投稿です。読んでくれると嬉しいです

「君のことを教えてくれるか?」


その言葉を聞き、セラフィナは目を見開いた。

聞かれるとは、思っていなかったからだ。


「……私のこと?」

「私の、何を教えればいいの?もう、知っているでしょう」

アトラスは変わらぬ落ち着いた口調で答える。


「これまで歩んできた人生でも、魔法についてでもいい」

「俺たちは共犯者だ。互いを知る必要がある」

「それに――俺たちは対等だ」

「片方だけが語り、片方が語らない関係では、対等は成り立たない」


その言葉に、セラフィナは小さく息を呑んだ。

自分が“語る側”に立つなど、考えたこともなかった。

これまでの人生で、彼女は自分を形作ったことがない。

周囲に与えられた型に沿って生き、それを疑いもしなかった。


「……公爵ヴェスティア家の一人娘として生まれて」

「当たり前のように皆に愛されて」

「当たり前のように……当たり前のように、人を見下して……」


言葉が、途中で詰まる。

だがアトラスは急かさず、ただ静かに続きを待っていた。


「それが、生まれた時からの“普通”だった……」

「私は、いつも自分は正しい側にいると、疑いもしなかった」

「でも……両親が捕まって、すべてが変わった」

「保護権管理院に保護されてから、自分が正しい側にいるのか、分からなくなったの」


アトラスが問いかける。


「……なぜ、分からなくなった?」


セラフィナは、静かに答えた。


「自分よりずっと小さな子たちがいたの」

「生きているはずなのに……

まるで、亡くなった人みたいな瞳をしていた」

「それを見た瞬間、分からなくなったの」


彼女は、人を見下して生きてきた。

それでも――幼子の“死んだような瞳”は、否応なく心を揺さぶった。


「それから……日に日に、同じ部屋にいた子がいなくなって」

「代わりに、新しい子が来る」

「それを、ずっと繰り返していた」


視線を机に落としたまま、セラフィナは続ける。


「こんなことが行われているなんて……知らなかった」


――数秒後。

彼女は、自分の言葉を否定した。


「……いえ。違うわ」

「知らなかったんじゃない。知ろうとしなかったの」

「父に連れられて、競売に行ったことがあるの」

「私と同じくらいの歳の女の子や、それより小さい子が売られていくのを見て……目を逸らした」


それは、誰にも責められない行為だ。

自分と関係のない現実から目を逸らすのは、ごく普通のことだ。

まして、未成年の子供なら尚更だろう。

それでも、セラフィナは語り続けた。


「私は貴族だったから、目を逸らせた」

「逸らし続けることが、許されていた」

「でも……私自身が競売にかけられると決まった時、気付かされたの」

「もう、目を逸らすことも、逃げることもできないって」

「自分も、夜に呑み込まれたんだって……嫌でも分かった」


震える手を、必死に押さえる。

声だけは、震えさせまいと。


「ステージに立たされた時……目を開けたの」

「誰か、助けてくれる人がいるかもしれないって……確認したかった」


身体が、声が、わずかに揺れる。


「今まで、私に媚びへつらってきた人たちがいたの」

「その人たちなら、助けてくれるかもしれないって……思ったの」

「でも……」

「違った」

「彼らは、私を人として見ていなかった」

「物を品定めするような目で全身を舐め回すみたいな、下品な目で見ていた」


アトラスが、口を開こうとする。


「……もう十分だ」


だが、セラフィナは首を振った。


「話させて」

「対等な関係でいるために……最後まで」


そして、静かに続ける。


「その時、分かったことがあるの」

「あの人たちの中に……昔の私も、いたんじゃないかって」

「そう思ったら……今までの人生が、何だったのか分からなくなった」

「もしかしたらこの先も分からないかもしれないでもその人生をなかったものにはしたくないの」


下を向いていた顔が、ゆっくりと上がる。

視線は、まっすぐにアトラスを捉えていた。


「だから、決めたの」

「私はもう、目を背けない」

「ただの被害者にも、ならない」

「夜を……壊す」

「これが、私のこれまでの人生よ。マスター」


アトラスは、少しだけ声を和らげて言った。


「……辛かっただろう」

「話してくれて、ありがとう。セラフィナ」

「君が夜を壊したいと思っていることも、よく分かった」


一拍置き、続ける。


「……魔法のことも、聞いていいか?」

セラフィナは即答した。

「ええ」

「魔法の話は、まだだったわね」

「話すわ、マスター」


読んでくれてありがとうごさいました!

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